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プロローグ
――その世界には2つの国があり、2つの種族がいた。
秩序の国「ヴァーイス」に住まう「人間」と、武勇の国「シュバルツェン」に住まう「魔物」。2つの種族は世界が生まれた瞬間から、神が仕組んだかのように争い続けていた。
争いの渦中にあるのは2つの戦士だ。人間の「勇者」と魔物の「魔王」。
彼らは光と影。表裏一体。鏡写しのような存在。
勇者は魔王にしか殺せない。魔王は勇者にしか殺せない。仮に老衰で死ぬようなことがあっても、或いは、勇者や魔王に殺されても、その力は次代の勇者と魔王に引き継がれていく。
――だから、戦争は終わらない。
そんな趣味の悪い神が作り上げたとしか思えない世界で、魔に魅入られた王子がいた。人に惚れ込んだ魔王がいた。
ことの始まりは、戦争の泥沼化も激しくなり、両国の疲弊も限界に達していたとある年。第74代魔王が持ちかけてきた、奇妙な停戦協定が発端であった。