彼岸の話
初めまして、今回は初めての投稿となります。お読みいただけたら幸いです。
「暑いなぁ…」
残暑の続く9月の中頃、もうお彼岸だというのにまだまだ暑い日が続いている。『暑さも寒さも彼岸まで』というがこんな感じで本当に数日後には、暑さが和らぐのだろうか?
縁側に座っていると、太陽の光が照り付けてなかなかに暑い。
「あ、お兄ちゃん。こんなところにいた。」
「ん?」
声が聞こえ振り向くとそこには妹のひかりがいた。自分より3つ下の中学2年の妹だ。
「ひかり、何の用だ?」
「なんの用だ、じゃないでしょ。お彼岸でおばあちゃんの家に来たんだから、お墓参りに行くに決まってるじゃん。お母さんとおばあちゃんがそろそろ行くって。
「ああ、そうか…。行かなきゃダメかな?」
今日はお彼岸ということで、おばあちゃんの家に来たのだが、なんだか高校生にもなるとお墓参りに行くのが面倒になってくる。去年は中3で受験だったからなおさらだ。そう思い、言ってしまったのだが…
「ダメに決まってるでしょ、せっかく来たんだし、それに罰が当たるよ。」
そういいひかりはこちらに近づいてくる…
「あ、ひかりそこは…」
「熱っ!!」
ひかりが飛び上がった。中々のジャンプだ。日に照らされた暑いところを踏んでしまったのだろう。
「お兄ちゃんよくこんなところにいるね。暑くないの?」
「ああ、ここはさっきまで日陰だったからな」
そうなのだ、『さっき』までは日陰だったのだ。今では日の光が当たってしまっている…。こんなところでは、猫も眠らないだろう
「でもそんなところにいたら、熱中症になっちゃうよ。で、行かないの?」
「そうだな、行くか…。」
ここも本格的に暑くなってきたし、そろそろ出かけることにする。そう思ってひかりをみるとそこにはいなかった
「?」
あたりを見回すと庭にいた。何かを見ているようだったがなんだか、よく見えないので自分も庭に出て、ひかりに近づく。何かに見とれてるようだった。
「何見てんだ?」
「っ、びっくりしたなあ、驚かせないでよ。」
「別にそんなつもりじゃなかったんだけど…。何見てたんだ?何かに見とれているようだったけど。」
「ん、これだよ。」
そういいひかりが指を指したほうを見ると、そこには花が咲いていた。
「これは、彼岸花か」
そこには、曼珠沙華とも呼ばれる、彼岸花が見事に咲いていた。
「きれいだね、私、彼岸花好きだな」
ひかりは彼岸花が好きらしい。
「確かにきれいだが、なんか怖い感じしないか?」
「何言ってるの?きれいじゃん」
「まあそうだな…」
「こうたー、ひかりー、行くよー」
俺と、ひかりを呼ぶ母の声が聞こえた。
「はーい」
ひかりが返事をした。
「ほら、行くよお兄ちゃん」
「おう」
こうして、墓参りに行くことになった。
さてさてなんだかんだで、墓参りに出かけたわけだが…その道中にずいぶんたくさんの彼岸花を見つけた気がする。
「彼岸花多くないか?」
そう話をすると、
「そうね、今年はずいぶんと多いわね」
と、母が答えた。
なんだか、彼岸花だらけで不思議なような、恐ろしいような何とも言えない感じがしていた、とか思っているとひかりが
「あ、猫」
と言って指を指す。その先を見ると野良猫がいた。とか言っているとそのほかにも結構猫を見つけた
「最近は猫をよく見かけるようになったねぇ」
と、おばあちゃんが言った。いい餌をくれる家でもあるのだろうか?
墓参りから戻り、昼食をとっているとき、ふと思いだしたことがあったので聞いてみた。
「おばあちゃん、ぶっくんはどうしたの?」
『ぶっくん』とは、おばあちゃんの家で飼われている猫で、ぶち猫だから『ぶっくん』という何のひねりもない名前なのだが、メス猫だったらしい。知ったのは最近だが…
ちなみに、もともと野良猫だったのだが、家の裏にいるところをおばあちゃんが拾って、そのまま飼っていた。昔は、よく一緒にじゃれて遊んでいたな。尻尾を触って手をひっかかれたのは、いい思い出だ。猫の成長は早いのか、次第に遊んでくれなくなってきたのと、俺がおばあちゃんの家にあまり来なくなったっていうのも重なって、会わなくて忘れていた。生きていれば約20才という猫としては、なかなか長生きでそろそろ妖怪にでもなるんじゃないかという感じだ。いつもは、その辺にいるのでなんとなく聞いたのだが…
「ぶーかい?ぶーは、もういないよ。」
『え?』
俺と光が同時に本当に?というように、返事をした。
「え、ぶっくん死んじゃったの?」
ひかりが、びっくりした様子で言った。
「そうだねぇ、ちょうど1年前かね、そのころに死んじゃったよ。もう20才くらいだったから年だったんだろうね。」
とおばあちゃんがいった。最近来ていなかったし、来ても会わないこともあったので、気が付かなかったのか。
「お墓とか作ったの?」
「庭の隅にあるから、見ればわかると思うよ。」
・・・・・・・・・・・・
そういわれたので、出かける前にいた庭にひかりと戻ってきた。
「どこだろうね、ぶっくんのお墓」
「庭の隅って言ってたから、こっちの…これじゃないか?ほら、なんかそれっぽいのがある、っていうか書いてあるなこれ。」
そこには、おばあちゃんの字で『ぶっくんの墓』と書かれた小さな山があった。俺は、墓に向かって手を合わせた。
『最近は会えなかったけど、昔はよく遊んでくれたな。ありがとう。』そう、心の中で言った。最近会えていなかったことが、少し心残りだった。
ふと何もない墓が寂しく思われたので、
「何か備えるものはないかな?」
と、俺が言うと、
「これなんかいいんじゃない?」
と言いながらひかりが『彼岸花』を一輪持ってきた。おそらく墓参りに行く前に見ていたところからとってきたのだろう。
そんな不気味な花をお供え物とするのはどうかと思ったが、ほかによさげなものもなかったので、
「いいんじゃないか。」
と答え、ひかりが花を供え、二人でもう一度手を合わせた。数秒目を閉じていると、〝ピカッ″と何かかが目の前で光ったような気がして、目を開けたが、特に変わりはなく、ひかりも変化なくまだ拝んでいた。
シャララン
「!?」
ふと鈴の音が聞こえた気がして振り返ったが、何もなかった。その音はどこか懐かしいような気がした。太陽が照り付ける。
「暑いな,,,。ひかり、中に入ろうぜ。」
「ひかり?」
「あ、うん、ごめん少しぼうっとしてた。そうだね、暑いし中に入ろうか。」
「大丈夫かよ。冷たいものでも飲んで、休めよ。熱中症になるぞ。」
そういって二人で、家に入った。
『あの鈴の音どこかで聞いたことがあるような気がするんだよな』
そんなことを思ったが、まあいいかと思い、そのときは気にも留めなかった。
『シャラララン』
おやつはスイカだった。食べていると、ひかりが
「ちょうどいいから、これぶっくんにお供えしてくるね。」
と言って、スイカを供えに行った。俺はもう一度、外に出るのが嫌だったので、ひかりに任せた。そのあとは、テレビを見たりしながら、だらだらして過ごした。今日は、おばあちゃんの家に泊まっていくので、だらけて過ごした。しかし、頭からはあの鈴の音が離れないでいた。
『シャララララン』
「…夕飯できたよ。」
声が聞こえた。どうやら、昼寝してしまったらしい。外を見ると黄昏時だった。こうしてみると、夏ではないんだなという、気がしてくる。相変わらず暑いことに変わりはないが…
まあ、夕飯のようなのでキッチンに向かった。
「あら、ひかりは?」
ひかりは、キッチンにいなかった。
「部屋じゃないかな?」
「まあ、そのうち来るわよね。」
そんな会話をしながら、夕飯を食べた始めた。
「そういえば、ぶっくんってどこで死んだの?」
気になったのでおばあちゃんに聞いてみた。
「庭の縁側のところだよ。」
どうやらぶっっくんは、縁側で丸くなりながら死んでいたらしい。ずいぶんと自然だったから、初めは寝ているだけだと思ったんだけど、とおばあちゃんは言っていた。
「そうなんだ。」
「ぶーの墓参りしてたのかい。ぶーも喜んでいることだろうね。昔はよく遊んでいたのにね」
そんな話をしつつ夕飯を食べた。
「ごちそうさま」
俺が夕飯を食べ終わってもひかりは、来なかった。
「こうた、ひかりよんできてくれる?」
「わかった。」
ひかりの部屋に行くと、ひかりは床に倒れていた。
「おい!大丈夫か!?」
俺は驚いて、駆け寄ったが、どうやら寝ているようだった。
「脅かすなよ。おい、起きろ、夕飯だぞ。」
起きる気配がない。熟睡してしまっているらしい。
「まったく…」
そんなことをを言いながら、布団を敷いてそこにひかりを寝かせる。ここまで動かしても起きないとは、本当によく眠っているらしい。
ふと、部屋の片隅に、『彼岸花』があるのを見つけた。ひかりは本当に彼岸花に魅了されたらしい。こんな花のどこがいいのだろうか。
「こんなところのに、置いておくなよ,,,」
花を片付けようと手を伸ばすと、“ピカッ”と花が強く光った。
「!?」
それに驚いていると、さらに白い影が、過ぎたような気がした。
「なんだ!?」
振り返ると、そこには部屋を出ていくひかりの姿があった。
「あれ?ひかりはここに…」
布団を見るとひかりは変わらずそこにいた、しかしなんだか気配が薄くなったような感じがした。
「ひかり、大丈夫か?」
大きく揺さぶってみたがまったく反応がない。 むしろ、なんだか生気のようなものが弱くなった気がする。
「これ、なんだか危なくないか!?まさか…」
先ほどひかりが部屋の外に出て行ったのを思い出して、あれが何か関係あるのでは?と思った俺は、追いかけてみることにした。
「どこに行ったんだ?」
追ってみたが、ひかりは見当たらない。
「あ、こうた、ひかりどうだった?」
「ん、あー…ひかりは寝ちゃってたよ。昼の時に、少しぼうっとして軽く熱中症になっちゃってたような感じだったから、疲れっちゃたんだと思うよ。」
「そう、ならよかった。夕飯取っておいてあげようか。」
「そうだね。」
キッチンでそんな会話をしていると…
『シャララン シャララン』
「!?」
あの鈴の音が聞こえてきた。
「どこだ?」
音の出どころを探して、家じゅうを探しまわった。
『シャララン シャラララン シャララララン』
「ここか…」
たどり着いたのは、あの庭だった。
「ひかり!!」
そこには、ひかりの姿があった。スーっとどこかに進んでいくようだった。
「どこにいくんだ?」
ひかりの進む先には、あの『彼岸花』があった。なんだかよくないような気がする。
「ひかり!それ以上行っちゃいけない!!」
しかし、ひかりの動きは止まらず、俺の声も聞こえていないようだった。
『彼岸花』前で止まり、しゃがんで、花に触れようと手を伸ばした…
「ひかり!!!」
ふと視界の隅で、何かが光ったような気がした。すると…、
『シャララララン』
ふと現れた猫の影が、ひかりと『彼岸花』の間を遮った。
すると、ひかりの目が正気を取り戻したようになり、ひかりの姿が消えた。
「っ!ひかり!!」
俺は急いでひかりの寝ている部屋に戻った。そこには、変わらず寝ている、ひかりの姿があった。
「う、うん、あれ?」
「ひかり?」
「お兄ちゃん?あれ、なんで私ここにいるの?」
どうやら、ひかりの様子は元に戻ったようだった。ひかりは、自分がなぜ布団で寝ているのかわからないようだ。
「よかった……。」
「?どうしたの?お兄ちゃん?」
ひかりが不思議そうにこちらを向いてくる。
「なんでもないよ。ほら、夕飯をお母さんがとっておいてくれてるよ。」
「本当だ。もうこんな時間なんだ。おなかすいたな。」
さっきのひかりは、本人だったのだろうか?まあそれはよくわからない。
「あ、その花。確かに少し怖い感じがするよね。」
ひかりが、そこにある彼岸花を見ながら言った。あれだけ好きそうにしていた、彼岸花を見て、そんなことを言うなんて、さっきの出来事で何かが変わったのだろうか…。
「夕飯食べてくる。その花捨てておいてくれる?」
そういってひかりは、夕飯を食べに行った。
花を持って庭に向かった。あれはいったい何だったのだろうか?あのまま、ひかりが彼岸花に触れていたら、どうなっていたのだろうか?考えても答えはわからず、謎は深まるばかりだ。
そんなこんなで花を捨てるために、庭にたどりついた。俺は庭でひかりがいた、場所に目を向けた。
「あれ?」
そこには、彼岸花はなかった。まるで、初めからそこには何もなかったかのように、きれいになっている。
『シャラ…ン』
「あ…ぶっくんの墓に手向けた花は?」
そう思い、ぶっくんの墓を見ると、そこにはやはり何もなかった。
「本当に何だったんだ?」
あの時ひかりと彼岸花の間を遮ったのは、ぶっくんだったのだろうか?そういえば、あの鈴の音はぶっくんのつけていた鈴の音に似ているような気がする。
「あ、」
すると、手に持っていた、彼岸花が光になって消えた。
彼岸花は、不思議な世界とつながっていたのだろう。ひかりは、彼岸花に魅入られていたような感じだったので、別の世界に行ってしまうところだったのかもしれない。
「お兄ちゃん。」
ひかりがやってきた。
「さっき、ぶっくんにあったような気がするんだよね。」
「そうか…」
きっとほかの世界に行ってしまいそうだったひかりを、ぶっくんが連れ戻してくれたのだろう。
「あ、きれいな星空」
そんな言葉を聞きながら、視界に小さな光の玉が天に昇っていくのが見えた。
彼岸に起こった、不思議な出来事………
『シャラララン』