刀になりたかったサンマの話
サンマは刀になりたかった。
誰より白銀に輝くという、刀というものになりたかった。
サンマは魚である。刀になる術など知らぬ。
それでもサンマは刀に変ずる願望をあきらめることはなかった。
ある日、サンマは噂を聞いた。
遠い遠い北の海では、青き刀と呼ばれる魚がいるという。
父母兄弟の反対を押し切り、サンマは北へと旅に出た。
襲い来る敵をかいくぐり、遠く、遠く、遙かな北まで泳ぎきった。
そこでサンマは知る。
青き刀となるには、リョウシに捕まらなければならないことを。
リョウシは魚すべての敵である。あれらは魚を殺して食らう、不倶戴天の相手である。
だが、捕まらねば刀となれることはない……
サンマは泳いだ。
サンマの願いは、もはや自身にも止められぬほど強かったのだ。
サンマは捕まった。
***
「先生、この刀はどうされたので?」
「客人に”青き刀”とかいう北のサンマを戴いてな。あまりに旨かったせいか、食べた途端に勢いで一本打っておった」
「またそうやって趣味に費やして……依頼の方も進めてくださいよ。お孫さんもう生まれちゃってるんですから」
「はっはっは、いっそこれで行くか?」
「ダメですよ、サンマの刀なんてっ」