耳を疑う話 参
【前回のあらすじ】
婚約者とご対面!男でした!(*´∀`*)アハハ
僕は今、実家の客間にいる。縛り上げられて。婚約者と、祖母と三人で。だが!僕は男だぁぁ!
話を戻そう。先ほど確かに、客間から逃げ出した僕が何故、縛り上げられて、しばりあげられて!いるのかを。
客間から逃げ出した後、10メートルも走らないうちに、祖母に捕まえられ縛り上げられていた。『縛り上げられた。』ではなく、『いつの間にか縛り上げられていた。』だ。
客間で、遅れてしまったことを相手方に謝っていた祖母が、僕の肩を踏み台にして、僕の目の前に来たことは覚えている。「くるりんぱ、っと。」とか言いながら、僕の頭上を一回転したことは覚えている。 それからの記憶がないのだ、気づいたらがっちがっちに縄で縛りあげられていた。
全然痛くないけど、全く身動きが取れない。なにこれ。
そして今に至る。
「優華、こちらがCARLOさんよ。ご挨拶して。」
目つきの悪いこの人は、【カルロ】といった。
「ぼk、私は優華です。初めまして。」
一人称を変えて挨拶をする。婚約者といっても政略結婚なので、おそらく僕の女装は伝えられていないだろう。前のあの人も僕のことを完全に女として扱っていた。
「Piacere」
親戚と聞いていたが、どうやらお婆様の従姉妹の孫らしい。思ったよりも遠かった。これじゃ他人と全く変わりない。
だが、悠長に挨拶をしている場合ではない。男に嫁ぐなんて絶対に嫌だ! なんとかして、断る方法を見つけねば。
そもそも何でいきなり、結婚することになったんだ? 前だって、いきなりってわけじゃ無かった。
血を濃くするとか?親戚といっても、それだけ離れているなら子どもをつくっても問題な、いや!それなら男同士だから問題しかねぇ! まず、作れねぇ!
同盟?でも、親戚ならそんなことをしなくてもな……。
考えれば考えるほど、この結婚の意味が分からなくなってしまった。
えいっ。もう聞いちゃえ。
「あの、なんで結婚する運びになったのですか?お婆様。」
「?あら、言ってなかったかしら?」
言ってねぇよ!何一つ言ってねぇよ!突然決めたんだよ!あんたが!
「まぁ、突然決まってしまったしねぇ。強いて言えば、都合が良かったからかしら?ほら、あなただって殿方に嫁ぐなんていやでしょう?」
「あれ?僕が男だって言っちゃってるの!?」
「えぇ、もちろん。言ったわよ?」
「政略結婚なのに?!」
お婆様の目が鋭くなり周囲の空気が凍った。目の前にいる(カルロさんだっけ?)も、肩を強張らせた。
一瞬で、言ってはいけないことを口にしてしまったと気付いた。
お婆様の低く、くぐもった声がとてつもなく怖かった。
「……そんなこと一言も言ってないわよ。
優華はこの、子煩悩で孫煩悩な私が、かわいい孫に政略結婚なんてさせると思うの……?」
「思いません! ごめんなさい!」
「分かればいいのよ♪」
お婆様の言葉も大して聞かず速攻で謝る! 怖すぎるだろうちのばぁちゃん! あるゆる面で!
言われてみれば、お婆様が家出したときも縁談が回ってきたときだった。よく考えれば、他ならぬお婆様が、僕に政略結婚させるとは考えにくい。
「じゃ、なんで?」
その問いに対する答えを、まるで祖母は「名案でしょ!」とでも言うように返してきた。
「女装してる、男装してる同士だから都合がいいかな?と、思ったの!」