偽披露宴(準備)の話 弐
【前回のあらすじ】
カタコトさんのサングラスの下は男の勲章だった。
「サて、ドーデモヨイ私メの話ナド置いトイテ、披露宴ノ準備ヲ始メまショウ。」
カタコトさんは、自虐的な切り出し(そこまで言わんでも)で、重たい空気を振り払った。音すらさせずに、革靴が奥の部屋へと消えていく。
さっきも音もせず、気づいたら後ろにいたけど (ガラガラ) 、あの人は (ガラガラ) 忍者か (ガラガラ) なんか (ガラガラ) なのだろうか。 (ガラガラ) イタリア (ガラガラ) 版 (ガラガラ) 忍者?
って
「って、さっきから、モノローグのあいだに出てくる、このうるさいガラガラ音なんなの!!?
邪魔なんだけ……」
叫んだ言葉はガラガラという音ではなく、目の前の光景に掻き消された。絶句した。眼前の
「ドーゾ、オ好キな物ヲお選びクダサイまセ。」
ドレスの量に。
さっきのガラガラの正体は、カタコトさんが両手を使って持ってきた、大量のドレスたちを支えるキャスターの悲鳴だった。色とりどりの綺麗なドレスが、僕の目の前に一列に並んでいた。
今、鏡を見たら、間抜けに口を開けた、僕の顔が写っていることでしょう。空いた口が塞がりゃしない。
「このドレス……全部……」
「エェ、貴方様ノ為ノものデス。」
空いた口が塞がる気配は一向にない。
…………えぇー………………。
この中から、自分が着るの選ぶの…………? 別に、なんでもいいんだけど。なんだったら、勝手に選んどいてもくれてもよかったぐらいなんだけど。
だって、ホントの披露宴でも、新婚夫婦でもないし。偽物だし。
「どレニされマスか?」
「いやなんでもいいです。」
「……………。」
心の声を本当の声にしたら、案の定。カタコトさんは少し困ったような顔をした。
流石に正直すぎた! そう思って、すかさずフォローを入れる。
「えっと、僕 イタリアの披露宴とかよくわかんないので、お任せしたいんですけど良いですか?」
「Certo!」
取ってつけたような言い訳に、カタコトさんは頷いて返してくれた。多分アレは、「OK!」って意味のイタリア語かなんかだろう。多分。その証拠に、すごい勢いでドレス手に取りながら、スマホでなんか連絡してるし。
………気合の入った仕事ぶりが、なんだかすごく申し訳ない。主役の僕がいちばんうんざりしてて。
勝手に罪悪感に襲われてた僕を、引き戻すようなナイスタイミングで、カタコトさんのドレス選びが終わった。
「こチラでイカがデショウか?」
カタコトさんが持ってきたのは白、紺、ピンクの3着のドレス……3着?
「僕が着るのって、1着だけじゃないんですか?」
てっきり、着るドレスは1着だけだと思っていたのだが………この中から一枚選べという意味だろうか?
ふと浮かんだ疑問の答えは、予想外のものだった。
「優様にハ、式が終わるマデ表に出てイタダキきタイのデス。
けレド、『いきなり知らない場所に連れてこられた上、知らない人間にずっと囲まれてるのは辛いだろう。』とカルロ様が言ワレタノデ、このヨーに。
オ色直しノ合間合間に、少しバカリご休憩なさってクダサイ。」
1回言われただけではイマイチ意味がわからず、もう一度聞き返してしまう。
「カルロさんが?」
「? エェ。」
カタコトさんは、なぜ僕がそんなことを聞くのか分からないらしく、心底不思議そうな表情で聞き返してきた。まるで、カルロさんがそうするのは当たり前みたいに。
「カルロ様は、優シイ人なノだカラこんなコト当たり前でショウ?」とでもいうように。
………………………………………。
ぶんぶんぶんぶん!!
ありえないだろう! そんな事!
チラ、と少しだけ思ってしまったことを、頭を振って追い出した。
そもそも、僕がここで考えても、しょうがないことだろ!
今! 僕がやんなきゃいけないことは、披露宴を無事に乗り切ること!
「綺麗なドレス選んでくれて、ありがとうございます。気に入ったのでこれでお願いできますか?」
「カシこまりマシた。でハ、サっソク」
カタコトさんが一呼吸おいて、ドアの方に向き直った。その瞬間、図ったかのようなタイミングでドアが開く。
「オ召かエヲ。」
ドアの先には、赤髪のメイドが慎ましやかに礼をして僕を待っていた。
「フィッテングルームまでご案内いたしますわ。優華様。」
カタコトさんはメイドさんに僕の衣装を渡して、ドアを閉めた。ここで着替えればいいのに。って思うけどもちろん口には出さない。しきたりとか段取りとかそんなんだろ。多分。
めっちゃ更新遅くなってすいませんでした!! m(__)m
次話はできるだけ早めに!