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史上最悪の悲恋  作者: 林檎月 満
悲劇(喜劇?)の幕開け
13/16

偽披露宴(準備)の話 壱

サブタイトルの『偽披露宴』の【偽】は【ギ】じゃなくて【にせ】って読みます\_(・ω・`)ココ重要!!

でも、『偽新婚』は【ギ】です。

【前回のあらすじ】

 なんか、僕が僕の知らないところでディスられてた。


 あの息苦しい部屋から出て、一番先に目に入ったのは、サングラスをかけた男の顔だった。

 どこか見覚えのあるその顔は、ニコリともせずこちらを見下ろし、形式的な角ばった礼をした。


「優華サマ。お迎えにアガりましタ。お部屋マデお連れシマす。」


 見た目とは真逆な、思わずクスっとしてしまいそうなカタコトの日本語。それで、この人が誰か思い出した。


「……アナタ、飛行機のときの…。」


 あの息苦しい飛行機の中で、唯一いい思い出として残っているお菓子、を持ってきた人だった。


「覚エていたダイタようで、恐縮デス。優華サマ。

 参りまショウか。」

「あ、ハイ。」


 それだけ言って、カタコトさんはスタスタ歩き出した。


 一度も振り返らないのに、僕とこの人との間はそれほど開かない。

 気を使ってくれているみたいだ。こんな広い屋敷で僕が迷子にならないように。


「……………。」


 こんなところにいきなり連れて来られたとか、父さんがいないとか、さっきのファウストさんとかで疲れた心に、これは(いた)く響いた。

 もしかしたら、この人は信用してもいいのかもしれない。

 そう思ってしまうほどに。


 そうこう考えているうちに、(さっきまでと比べれば)細い廊下へ入っていく。僕らの目の前、この一本道の突き当り意外に扉は無い。

 ってことはここが


「優華サマ。着きマシた。」


 僕の新しい部屋らしい。



「お邪魔しまーす……。」


 変かもしれないけど初めて入る部屋なので、こんなことを言ってしまうのも、仕方がないと思う。

 あまり、自分の部屋と思えない。

 いや、()()()()()()()と思えないのは、この部屋が無駄にだだっ広いせいかもしれないが。


「てか、広すぎ!」


 自分の家以外入ったことが無いので、どれぐらいまでが狭くてどれぐらいが広いなんて知らないけど、流石に分かる。広すぎ!

 だって、30畳ぐらいあるもん! 見えるところだけで!!

 天井高いし、部屋広いし、ビッグサイズな気がするんだけど、この部屋巨人でも住んでんのか!!?


「オ気に召しまセンでしタカ?」

「わぁっ!! びっくりした……!」


 急に自分以外の声がすると、結構驚く。それも、後ろからなら尚更(なおさら)

 カタコトさんは、さっきから全然変わらない、まるで面でもつけているような無表情で聞いてくる。


「……そういうわけじゃないんですけど……僕だけの部屋にしては広すぎないかな――と、思いまして。」

「心中オ察シ致しマス。」


 ………「心中お察し」って確か葬式とか見舞いとかのだよな? そこまで深刻じゃないです。


「ですが、仕方無いのです。ココは元々お二人の部屋でしたから。」

「へぇー。僕の前に住んでた人達が居たんですか?」

「今もいますよ。」

「へ?」


 テキトーに聞いてみたら、思いもよらぬ答えが返ってきた。

 見る限りは人いないし、物音も一切しないんだけど……もしかして………。


「コノ部屋は昔【Violenza(ヴィオレーンツァ)】の構成員が使ってイタのデスが、彼が抗争で亡くナッタ後も何やら物音ガァァ。」

「みゃぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっぁぁっぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁっぁっぁあっぁぁ!!!!!!」


 カタコトさんが言い終わるか終わらないかぐらいのところで、僕の叫び声が部屋中に鳴り響く。

 カタコトさんは耳を押さえながら、どこかうんざりしているような顔で言う。


「冗談デス。」

「そーゆーの苦手なんで止めてください!!」

「つイ。」


 つイじゃねぇ! 腹立たしい!!

 まさか、「心中お察し」からホラーに繋がるとは思わなかった。


「気ニならレタのなら調べテみてハ?」

「絶対しません!!」


 耳を塞ぎながら、首を横に全力で振り倒す。

 これからこの部屋に暮らすというのに、嫌なことを聞いてしまった。本当に出てきたらどうするんだ!


 ていうか、これはイジられたのか? この人無表情な上にサングラス付けてるから、何考えてるのか全然分かんないんだよなー。サングラスが無かったら、もうちょっと分かりやすいのに。


 まじまじと見ていたら、カタコトさんが黒いレンズの向こう側で目をぱちくりさせていた。


「ドウかサレまシた?」

「いや…部屋の中なのに、なんでサングラス付けてるのかなぁ―ーって、気になって。」

「……………。」


 僕の問いに、カタコトさんは顎に手を当てて、しばらく考えるような仕草をした。そして、少し困ったように眉を下げて、ゆっくりとサングラスを外した。

 それを見て、僕は息を飲んだ。


「スみまセン、優サマ。私は目がコレなのデ。」


 サングラスを外した先の彼の左目が、傷に潰されていた。

 サングラスの上からはほとんど見えないような大きさの傷だが、決して浅くはなかった。


 軽率だったと思った。

 とても見たいものではなかったし、見せたいものでも決してなかったと思う。


 カタコトさんはこちらを気遣うような声で、僕の顔色を窺いながら聞く。


「サングラス。掛ケていテモよろしいでショウか?」

「………ごめんなさい。………見られたいものじゃなかったですよね。」

「イエ………」


 カタコトさんは、何かを思い出すように、この部屋を見渡した。だけど、その目は僕の知らない、どこか遠くを見ているようだった。


「……男の傷は勲章デスかラ。」

作者も優くん並みにホラー苦手だったりする。

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