優の話 I
【前回のあらすじ】
凄く意味が分からないままで、披露宴に出席することになった。
青年は、着物の裾が足早にドアの向こうに消えていくのを、ソファの上で笑顔で見送った。
だが、ドアが閉められたのを見ると、糸が切れたように、フッ とそれが終わる。さっきまでの不敵さが嘘のように、ぐったりとソファに身を沈めた。
そして、溜めこんでいたものを、口から吐き出すように大きく息を吐いた。
「……A pezzi. 」
その姿は彼の有名な【Violenza】のボスではなく、もはや、ただの青年だった。
はぁー。……疲れた。
もう長いことボス演じているけど、何年たってもコレには慣れないな。きっと、これからも慣れない。向いてないんだ。
無理して快い笑みを作るのも、わざとらしく殺気立つのも辛い。
「まぁ、その演技に素直に引っかかっちゃったけどね。あの子は。」
彼というのはもちろん、優華さんこと優くんである。
「GRAZIA様の孫と聞いていたから、どんなものかと思えば。随分、普通の子だったな。」
(一応、親戚とはいえ)得体のしれないマフィアの敷地内ってことで警戒したり、出来る限り本心悟らせないようにしたりするところは、懸命だとは思うけども、それでも普通の子だ。
知らないものにビクビクして、気を許せる人がいたら安心して、殺気を向けられたら普通にビビる。ただの男の子。
でも。
腐っても鯛だ。流石に血を受け継いでるだけあった。
俺が隣に行って脅かしたときの動きは、隙の無い、洗練されたものだった。あの年の子供ができる動きじゃない。
確実に、グラツィア様に仕込まれたものである。
しかし、元暗殺者に教えられたにしては、殺気が微塵も感じられなかった。
本当に、攻撃されかけたから身を守るだけで、自分から攻撃しようとはしないし、武器もスタンガン。
だから
「その辺は、グラツィア様がわざとそうさせたんだろう。『自分の身は自分で守りなさい。でも、人殺しはしないで。』って。
全く。過保護なことで。」
「あらあら。カルロさんのことで、あんなに牽制してた子がそんな事言えるのかしらン?」
そうやって、グラツィア様はパソコン越しに挑発的な笑顔を向けてきた。
それに俺は、自嘲的な顔で苦笑しながら返す。
「そうかもしれないけど、グラツィア様ほどじゃないですよ。」
「まぁ! 貴方に言われたらおしまいだわ。」
口に手を当て、わざとらしく驚きながらグラツィア様が言った。
「じゃ、言われたとおりにしましたし。もうこれで。」
「えぇ。披露宴での報告も楽しみにしているわ。Ciao!」
そう言い残して、通信は終わった。
画面には、幼子のように無邪気なグラツィア様の笑顔が、まるで切り取られたように残っていた。
優(について話す二人)の話
「最初から、私たち二人で話してたわよ♪」
次回:優くんドレスアップ!……のハズ