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史上最悪の悲恋  作者: 林檎月 満
悲劇(喜劇?)の幕開け
11/16

偽新婚夫婦の話 伍

【前回のあらすじ】

裏家業のトップがそろいもそろって、バカだった。


「妹は渡さん。」

「アンタ、何言ってんだ。」


 重々しくすごまれて言われた言葉を、僕はそう返すしかなかった。

 いや、他にどういえばいいんだよ。さっきまでシリアスやってたのに! なんでいきなりシスコン入れてきた!?

 やっとわかったぞ! これ、試されてるとかじゃなくて、妹の婿(嫁?)に対する嫌がらせだ!!


 ファウスト(シスコン)さんは、自分の言ったことは何もおかしくないとでもいう様に、言った。

 これじゃ、僕が過剰に反応したみたいじゃないか。


「『何言ってんだ』って、妹は渡さないって言ってるんだよ。優くん。

 私のかわいい妹は、絶対に渡さない。」


 そう反復した言葉は、僕だけじゃなく、自分にも言い聞かせているようだった。

 僕の言葉など待たず、話を続けた。


「さっきも言った通り、義兄として君のことを義妹として扱うけど、表面上だけだよ。

 だって、これは偽装婚なのだから。

 君は、カルロの嫁でも、夫じゃないし。カルロは、君の夫でも、嫁じゃない。」

「……………。」


 全くもって、話が見えなかった。嫌がらせをしたいだけなのなら、本当にやめてほしい。気分の良いものではないのだから。

 だいたいさっきからなんなのだこの人は。気持ちのいい笑顔で挨拶したかと思えば、殺気立ってくるし。素っ頓狂なことを言ったかと思えば、分かり切ったことを再確認させてくるし。


 この人のペースに乗せられている。


 そのことがやけにザワついて、せめてもの反撃のつもりで僕は、皮肉な笑顔で言う。


「何が、言いたいんですか?お義兄(にい)さん。」

「一線を越えるなって忠告してるんだよ。

 間違っても、手。出さないでね。」

「………!」


 そう言って、微笑んだ笑顔には、ハッキリと殺意が映っていた。

 隠すつもりもないむき出しの殺意に、()()されそうになるが、持ち直す。


「マフィアの幹部に、手なんて、出すわけないでしょう。

 だいたい、そういう話なら、……なんでしたっけ?カルロさんが監禁してる少女。その娘は良いんですか?

 その娘の方が、よっぽど、カルロさんの心を奪ってると、思いますけど。」


 さっきから、嫌がらせされてた分まで、言ってやった。ちょっとスッとした。

 あ、でも、「俺の妹になんか不満でもあるのか!!!?」とか、言われるかも……。


 そんな僕の心配をよそに、ファウストさんは変わらず言う。


「かわいそうな代役に、嫉妬なんてしないさ。」


 余りにも淡々となんでもないことのように、言われた言葉を理解するのは時間がかかった。


 ……………代役?どういう意味だ?

 例のあの娘のことだろうけど。()()()()()ってのは?

 そりゃ、監禁されたのはかわいそうだけど、代役ってことは、()()()()()()()()()()()()ってことなのか?


 言われた意味深な言葉を考えている間に、ファウストさんが───目の前から消えていた。

 驚く間もなく、真横から声がした。


「どうしたの?」


 ファウストさんが、僕の真横に来ていたのだ。

 考えるよりも先に椅子から飛びのき、ソファの後ろに立つ。そのまま袖の下から、護身用のスタンガンを取り出す。


 なにをしてるんだ僕は! 殺気放ってる相手の前で、隙見せるとかありえないだろう!

 だいたい、個室に二人きりって時点で、警戒してなきゃダメじゃないか!


 しかし、ファウストさんはまた椅子に戻った。驚きのあまり、攻撃されると思って構えた腕が自然と下がる。

 そして、さっきのことなどなんでもなかったかのように、話し始めた。


「ま、そーいうわけだから、今日の披露宴(ひろうえん)でも、変な気は起こさないでよー。

 嫁って立場に付込んで、腕とかに抱きついたりしたら、脳天ぶち抜くから。」

「ちょっと待てぇぇぇ!!!」


 全力で叫んで、ファウストさんを引き留める。いくらここが防音でも、外まで響いたんじゃないかと思う音量だ。

 ファウストさんは、キョトンとした顔で、あたかも不思議そうな顔をする。どっかで見たことある気がしたが、今はどうでもいい!


「披露宴って、なんのことですか!?」

「? 君らが結婚した記念の披露宴だけど?」


 そんなことは一言も聞いていない………!一言だって言われていない……!

 なのに、なぜ、お婆様といい、この人といい、知っていると思っているのだろうか?揃いも揃って!遺伝か?血筋か?

 血なら、僕の方が濃いと思うんだけど!?


 というか、披露宴と聞いて、一つ引っかかった。


「結婚式も挙げていないのに、披露宴するんですか?」

「披露宴っていうのを建前に、私たちファミリーが同盟を結んだってことを、知らしめるために開いてるから。それだけ伝わればいいのさ。」


 その言葉を聞いて、引っかかっていたものが取れた。


 よくよく考えてみれば、形だけの結婚に、愛を誓う必要なんてないんだ。

 目に見えぬ愛の誓いより、目に見えるペアリングの方が、ずっとわかりやすくていい。


 ファウストさんは頬杖ついて、微笑んだ。


「さ、話はこれで終わりだよ。

 自分の部屋に行って、夜までに披露宴の準備をしておいて。

 部屋には、セルヴォが案内するから。」

「せるぼ?」

召使(servo)だよ。

 ドアの前で待機させてるから、ついて行って。」


 そう言って、ファウストさんがドアを指さす。

 「やっと、二人きりじゃなくなるんだ」と思って、心底ホッとする。

 早く部屋から出たくて、速足でドアに向かった。

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