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史上最悪の悲恋  作者: 林檎月 満
悲劇(喜劇?)の幕開け
10/16

偽新婚夫婦の話 肆

【前回のあらすじ】

お義兄さんに、殺気、立たれた。


 豪邸の中に入り、案内されるまま奥に進む。

 絢爛豪華(けんらんごうか)(きら)びやかというより、白でまとめられた、落ち着いた雰囲気の室内は、マフィアなどという暴力と血に(まみ)れたものとかけ離れているような気がした。


 ある部屋のドアの前でファウストさん達が足を止める。

 あぁ、ってことはこの部屋に入るのかな。とか、呑気に思っているときに、突然、重々しく時計の鐘が鳴り響いた。その音に反応するように、父さんが腕時計を確認する。


 その後、血も涙も無いような無慈悲な発言をかました。


「あっ!

 そろそろ時間だから、僕はこれで失礼するね~♪」

「ちょっと待ってぇぇ!!」


 自分でも、びっくりするぐらい情けない大声が出た。


 やめて、どっか行かないで!

 知らない国で、監禁犯に嫁げとか言われて、神経大分磨り減ってんの! 分かんない? おまけに初対面の人から、意味分からん殺気飛ばされるし!

 さっきの反応見てんだから分かってんだろ!? 父さんの顔見てどんだけ安心したと思ってんの!?

 心細いからどっか行かないでぇぇ!!


 言いたいことは山のようにあったが、多すぎて言葉にならず、空気となって消えていった。

 それをすべて見透かしたように、見捨てたように、父さんは言う。


「ごめんね、優華。僕も凄く寂しいけど、仕事が待ってるから。

 またね! ばいばーい♪」


 そう言い残して、父さんは帰っていった。いいなぁー、僕も帰りたい。

 てか、マジどうすんの。父さん居ないなら、またあの飛行機みたいになるじゃん。はぁ、足と気が重い。


 頭の中の弱音と連動するように、ネガティブな方へズブズブと足を踏み入れていく。

 そんな中、僕を現実に引き戻したのは、まだ聞きなれていない男の声だった。

 だけど、戻ってきた現実もまた、底なしの泥沼だった。


「優華さん。知らない人と一緒で、緊張するのは凄くわかるけど、とりあえず中へおいで。

 そんな(おび)えなくても、取って食ったりしないよ。」


 緊張してるのもそうだけど、まず第一に、今にも攻撃されそうな、取って食われそうなその殺気に警戒してんの! 怯えてるわけじゃない! 怯えてなんかない!!

 てかそれ、分かってて言ってるだろ!


 だけど、言葉を全部飲み込んで、笑顔で言う。


「ごめんなさい。ほん少し緊張してました。それだけなので大丈夫です。」

「……………そ、なんでもないならいいよ。」


 ファウストさんは、ほんの一瞬だけ驚いたような顔をした後、何事もなかったように会話を続ける。

 やはり、試されていたのだろうか。


「御気を煩わしてしまい、すみません。」


 ファウストさんに一礼してから部屋に入る。


 部屋は、あれだけ大きな豪邸の一室にしては小さく、誰もいなかった。置いてあるものと言ったら、向かい合った椅子と長机の上のティーセットと茶菓子。殺風景な部屋に、申し訳程度に置かれた観葉植物。

 他の場所と同じく白でまとめられた室内は、とても頑丈そうには見えないが、壁も扉も分厚かった。盗聴される可能性を危惧しての防音だろう。

 ここなら、人に聞かれてはまずい話もできる。密談するための部屋なのは、火を見るより明らかだった。


 僕の予想は当たっていたようで、早速、話が始まった。


「さて、改めて自己紹介しようか。優くん。

 私は、この【Violenza(ヴィオレェーンツァ)ファミリー】のボス、ファウスト。

 名目上、君の義兄(あに)ということになる。まぁ、外では義妹(いもうと)として扱うつもりだが、初めにこれだけは言っておきたい。」


 ファウストさんは、最後の一分だけを重々しく言った。最初から本題に入ってくるのか。

 つまり、今からいう事が、最初に言っておかなければ話が進まない、なによりも重視されることなのだろう。

 僕はゴクリと唾をのんで、ファウストさんの言葉を待った。


「妹は渡さん。」

「アンタ、何言ってんだ。」

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