1‐3 席決め
「はい。じゃあこれから席を決めるわよー」
「「「おーーっ!」」」
と言うことで、担任の指示(?)で席決めが行われることになった。
いや、実は特に気にしていなかったりする。
理由は簡単。
そもそも知り合いがいない。
いや、さっきの彼女が僕のことを知っているようだったし、とりあえず話せる人はいる……とはまだ決まってない。さっき何を彼女が隠していたかはわからないが、きっとあのいじめのことだったりするのだろう。
だから彼女はできれば避けたいが、それ以外は基本誰の隣でもいいのだ。
「それじゃあ、男女別れてくじ引いてねー。男子はこっちの右の箱、女子はこっちの左の箱だからくれぐれも間違えないでねー」
担任が両手をひとつずつの箱において指示をしている。
その箱に入っているくじで席を決めるようだ。
これは一番平等で、隣になる確率が全員同じであると言える。
ただ、男女は分かれているようで、男女比1:1のこのクラスでは、隣は必ず異性になる、つまり僕だったら必ず隣は女子になる、と言うことだろう。
まあ別に気にすることはない。たまに授業中に話したり練習したり、後は日直とかがあるだけのことだし、ずっとこのままと言うわけでもない。
反対に知り合いが全く(彼女除く)いない僕にとっては一番楽な決め方だろう。
自由とかだったら前で一人ぽつんとなるのが目に見える。
それが回避できるのだからいいだろう。
「はーい。ちゃんと並んでねー。あと、他のクラスで先生が話しているから騒がないでねー」
そう言われて僕は並ぶ。
その前の一言の時点で立って並んでいる人もいたけど、全員が並ぶまで開ける気はないようで、まだ手を入れる穴をふさいでいる。
僕は一番後ろに並んだ。と言うよりかは、すでにみんな並んでいたのだ。
ちなみに、あの彼女も女子の列の一番後ろに並んでいた。
「おっ、やった! 後ろの方だ!」
「あちゃー、一番前かー」
「私たち、一緒の班みたいね」
「窓側キター!」
「……後ろの入り口の前か。……楽でいい」
「ほらー! みんな静かにー!」
くじ引きが始まって、みんな騒ぎ始めた。
まだあまり関係ができていない分、誰かの隣、または近くで喜んだり悲しんだりする人は少ないようだ。
列はどんどん短くなっていく。
ただ引くだけなので、男女の列は同じくらいの速さで短くなる。
男子の列は残り五人。対して女子の列は四人。
向こうの方が先に終わりそうだ。
……自分には関係のないことだが。
「先生、もうくじ残っていませんよ?」
彼女は担任に向かってそう言った。
誰かが二つ引いたのだろう。
そう思って僕も箱に手を入れる。が、こっちの箱にもくじは残っていなかった。
「あら、ごめんなさい。うっかり四十人分のくじに二人分足しておくのを忘れてたわ」
どうやら担任の不手際ではじめから二人分のくじが入っていなかったようだ。
「でも今からやり直すわけにもいかないし……、二人には申し訳ないけど、二十一番の席でいい?」
「はいっ、問題ないです」
彼女は明るく、そしてなぜかうれしそうに答えた。
「そう? 問題ない?」
「はい。後ろが良かったので、まったくもって問題ないです」
二十一番の席は窓側の列の一番後ろ二席。
だが『まったくもって』って……。そんなに後ろがうれしいのだろうか。
「それに、旗谷君は学校で唯一の友達なので」
僕に彼女と友達になった記憶などない。
だがそれより気になるのは『唯一の』友達と言うところだろう。
こんなに性格が明るくてフレンドリーなのに僕以外に友達がいないのだろうか。
ただ彼女の言ったことを僕なりに解釈すると、小学校までの友達はこの中学校には来ていないということだろう。
「それならいいわね。旗谷君はそれでいい?」
「ええと……」
正直嫌と言いたい。
彼女は僕のあの過去を知っている可能性があるのだ。
そんな人と一学期間ずっと隣になると言うのは抵抗がある。
ただ、自分のわがままでみんなに迷惑をかけたくない。
それが仲良くなくても、それどころか話したことすらない人でも、自分ではない以上迷惑をかけたくない。
「はい。大丈夫です」
だから僕はそう答えた。
別に、『問題がない』というわけではない。
「ありがとう。次はこんなことにならないようにするから、お願いね」
正直何をお願いされたのかはわからなかったが、要するにやり直す手間を省いてくれてありがとう、と言うことだろう。
「ほら、みんなー! 早く席動かしなさーい!」
このときばかりは静かにとは言わなかった。
いや、言ったとしても状況が変わらないことが分かっているのだろう。
僕は廊下側の列の真ん中くらいのところにある席に移動して、机と椅子を動かし始めた。
ちなみに、彼女の元の席は一番左前――窓側にあった。
あの席ではさっき並んだときに一番後ろに並んでいた理由が分からない。
普通だったら遅くとも真ん中らへんには並べるだろう。
だとすれば、意図的に列の最後に並んだとしか考えられない。
彼女に友達がいないというのは本当のようだ(先生を納得させるために言った可能性があるから僕は除く)。
現に、今も誰とも話さずに席を動かしている。
「あの、早く動いてもらえませんか?」
「あっ、ごめんなさい」
僕は彼女に気を取られていたせいで周りに目を配っていなかったから邪魔になっていたようだ。
僕はさっさと移動を済ませることにした。
僕と彼女が移動し終わったのはほぼ同じだった。
距離から考えれば明らかに彼女の方が速く着くと思っていたが、さっき見ていたときのように前をふさがれるとその人が動くまで一言も話さずに止まっている。
あれなら遅くなるのも納得だ。
ちなみに、一番窓側の列で彼女が窓側、僕が通路側の席だ。
しっかり床に書かれた印通りに机をそろえると、僕と彼女は同時に座る。
「「あの……っ!」」
そして、それまで静を保っていた二人の間に同時に言葉を発したのだった。