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愛を知りたい  作者: はる
プロローグ
2/5

1-2 入学式

しばらくぶりです。

 週末が明けて月曜日。

中学校の入学式の日だ。

 入学式には、夫婦のうち妻のほうが来た。さすがに忙しいから二人とも来ることはできなかったが、それでも小学校の入学式も卒業式も一人だった僕にしてみれば十分であった。

朝九時。

入学式が始まり、小一時間で終わった。

入学式の後は即帰り――というわけではない。

自己紹介を兼ねた学級活動が、なんと2コマあった。

授業は一コマ50分なので、合わせて100分もある計算になる。

自己紹介にそんなに時間をかけるのかとも思ったが、それ自体は30分もかからなかった。

担任の先生が10分も自分のことについて語ったことには驚いたが、隣の席の人曰く「短い方」らしい。

生徒の自己紹介にはいたって目立つようなことはなく、無事に終わった。

40人学級で20分。

つまりは一人約30秒となるが、その短時間で話せることは決して多くはない。

名前、出身校を言うだけでも10秒経過するのだから、それに加えて趣味や楽しみにしていることなどを話せば、30秒なんてあっという間だ。

もちろん、それは僕も例外ではない。

出身校の名前を聞いて首をかしげている人がいたので、県外から来たということ、だからここにいる全員と初めましてだということを言っただけで、30秒経過していた。

時間が余ったらどうしようかとも思っていたが、杞憂だったようだ。

自己紹介の後、簡単な説明が入った。

これは、授業のことだったり設備のことだったり。

また学校のタイムテーブルなどの説明もあった。

小学校とは全然違う、それが印象。

不安もあったが、そのうち慣れると自分に言い聞かせた。

説明が終わったところで一コマ目が終わった。

みんなはそのまま続けて欲しそうだった。

だが先生は、「時間はしっかり守る」とのことで休憩に入った。

時間は十分。

気分を変えるには十分すぎるほどである。

配られたプリントを整理して鞄に入れる。

そして、することがなくなった。

「休めばいいか、休憩だし」と、一息つく。

旗谷はたや君」

 ちょうどその時、後ろから声をかけられた。

 僕は声のした方向を向く。

 声の主は女子であった。

「旗谷君ってさ、もしかして星宮幼稚園通ってた?」

 彼女はそんなことを言う。

「なんでそんなこと聞くのですか?」

 僕は相手が女子だったから敬語にしたのだけれど、彼女には冷たくされたと思われえたようで。

「えっ? いや……その…………」

 怖がっているというか、怯えているというか、そんな感じになってしまった。

「特にこれって言う自信はないんだけど、どっかで見たことあるなーって思ったんだよね」

 つまり彼女自身は星宮幼稚園に通っていたということなのであろう。

 僕の記憶にはない。

 ただ、僕がそういう名前の幼稚園に通っていたことは事実だ。

「勘違いではないですか?」

 変に肯定して何かに巻き込まれたくはないし、あの場所で起きたことをばらされないと決まっていない。嘘はつきたくないが、仕方のないことだろう

「違うのかー。でもどっかで見たことある気がするんだよねー。それで可能性あるのが星宮だったからそこかなーって思ったんだけど」

 どうやら彼女はあの場所での出来事を覚えていないらしい。でも、何かのはずみで思い出してしまうことも十分に考えられる。不用意に話さない方がいいだろう。

「でも不思議なんだよなー。星宮のことなんて建物少し覚えてるくらいなんだけど、旗谷君見るとそこに一緒にいたーって記憶が浮かんできてさ」

 そこで僕は気が付いてしまった。始めは何か思い出すためにしているのかと思ったが、あれは意図的に目線を反らしている。あと何か言うたびに眉が動いている。声にも若干焦りが見えるようになってきた。

 結論を言おう。彼女は嘘をついている。

「だから旗谷君が星宮に通ってたんじゃないかなーって思ったんだけど、違うならいっか」

「牧下さん」

「ん? なに? やっぱり通ってた?」

「あなた、嘘ついていますよね」

「えっ……」

「演技がバレバレですよ」

「あちゃー、ばれちゃったかー」

「とはいえ何を隠しているのかがわかりません。何に対して嘘をついているのですか?」

「なんの嘘ついてるかもわからないのに、嘘ついてることは分かるんだー。すごいねー、旗谷君は」

「ごまかさないで答えてください」

「え、えっと……それは…………」

「それは?」

 きっと彼女は白を切るつもりだろう。だから僕は追い打ちをかけておいた。

「それは……って、あっ! ほら、もう授業始まっちゃう! 席もどんないと!」

 そう言って、彼女は僕の席から離れ、自分の席へと戻っていく。

 今の彼女の言葉に嘘はないが、明らかに喜んでいた。逃げる口実ができたと。

 これは何としても聞く必要がある。

 それにしても、なんなのだろうか。この違和感は。

 彼女とは初めて話すはずなのに、なぜか馴れ馴れしく感じる。

 前に話したことがあるのだろうか。

 それに何なのだろう。この妙な安心感は。

 それこそ、彼女の言う星宮幼稚園であっているのかもしれない。

 僕と彼女が星宮に通っていたことは事実。

 それなら過去に話したことがあっても不自然ではないだろう。

 だとしても、施設のことがばれた幼稚園だ。

 決していい風には思わないはず。

 だとしたら何なのだろう。この気持ちは。

 もしかしたら話したのはばれる前で、そのあとは話していないのかもしれない。

 それならいい印象(と思われる)だけ残って悪い印象は残らないはずだ。

 うん。きっとそうなんだろう。

 いや、決めつけるのはまだ早い。

 いずれにせよあとで答えが分かるだろうから今は考える必要はない。

 それより、今一番気にしなければいけないことが始まろうとしている――。


またしばらく開くと思います。

十日に一回ぐらい投稿できたらいいなって思ってます。


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