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愛を知りたい  作者: はる
プロローグ
1/5

1-1 疑問

なんとなくで書き始めました。

「人を好きになるって、どういうことだろう」


 僕は愛に触れたことがない。

 妊娠したことが分かってすぐ、お父さんは事故で亡くなったらしい。

 そして、お母さんは出産時に出血多量で亡くなったと聞いている。

 だから、僕は生まれたときから天涯孤独の身であった。

 というと少し嘘になる。本当はお母さんのお母さん、祖母がいたのだ。

ただ、祖母のもとへ行くこともなく、施設に預けられてしまった。

 その時のことを聞くと、祖母は病気などで先が長くないことが分かっていたため、預けたということだった。

 その言葉通り、祖母は僕が1歳の誕生日を迎える前に亡くなった。

 僕は本物の家族愛を知らない。

 血のつながった家族の名前も誰一人として知らない。

 でもそれは、知らない方がいいと言われたからであって、知ろうと思ったらできないことでもないと思っている。

 だが、僕はその選択肢を選ばない。

 そもそも記憶にない、会ったことすらない人の名前に興味はなかった。

 中学生になろうとしている今でも、場所は変わったが、施設で暮らしている。

 施設と言っても、ほとんど家に近い。

 違うことといえば、そこに住んでいる人の中に血のつながりはないということだけだろう。

 僕は友情を知らない。

 友達というものを知らない。

 施設で暮らしていることを知られるのが怖くて、あまり仲良くしなかった。

 幼稚園に通っていた頃、一度ばれたことがあった。

 その時、すごくからかわれたのを覚えている。

 小学校に入るときに施設が変わったため、そのことを知っている人は学校にいなかった。

 だから学校には通っていたものの、またからかわれたくなかったから施設のことは言わなかった。

 そして、必要以上の関係を求めなかった。

 決して口を利かないわけじゃない。

 でも、自分から仲良くなろうとしなければ、自然とひとりになるものである。

 だから、友達と呼べる存在はいなかった。

 中学校に入ると、県外にあるよりアットホームな施設に入った。

 今までのところに比べて少人数で、年齢もバラバラ。

 だからこそ、家族とも言えない関係が施設の中で出来上がる。

 その施設は個人経営だった。

 養子に入ったわけじゃない。

 それでも、施設のオーナー兼施設員である夫婦は、僕らにとって親のような存在だった。

 その中では、全員家族として扱われる。

 それは、気を使わないという意味でも、逆に気を使うという意味でもある。

 他人のように、お客様のように扱うわけではないけど、家族だからこその気を使うのである。

 僕が入った時は、上は大学生から下は幼児と幅広かったが、施設の子供独特の仲間意識があるため、年齢の壁はカーテン程度の薄くどかせるものしかない。

 だからこそ、新しく入ってきた自分はあまり馴染めなかった。

 自分と同じように親の記憶がない子供もいるようだが、それはほんの2,3人で、ほとんどの子供に親など家族の記憶があった。そういう関係の作り方を知っていたからか、ほとんどの子供は一週間もすれば昔から家族だったように思えるほどその施設という名の家族に入っていた。

 それに比べて、僕は二週間たっても馴染むことができなかった。

 来週から中学校が始まる。

 夫婦は心配していたが、今までと違って話をすることができる。

 それは、この施設は表面では家族ということになっているからだ。

 誰かが友達の家に遊びに行ったとき、または友達を呼んだときは、全員で家族のふりをする。

 そうはいっても、もともとそういう関係だから、普段とあまり変わらない。

 ただ、ここが施設である、ということは隠す。

 それは、夫婦の心配りがあったからだ。

 だからこそ、自分が施設に暮らしていることを隠す必要がなくなった分、学校の人とも話しやすい筈なのだ。

 そう言うと、夫婦は安心したような顔になり、「がんばってね」と言ってくれた。

 自分に親という記憶がない分、この夫婦にだけは仮にも親と思うことができる。

 だから、そう言ってくれたのは素直にうれしかった。

 中学校に行くための物をそろえてくれたのもほかでもない夫婦だ。

 小学校と違って制服のある中学校は何かと出費が多い。

 援助を使っても、そう簡単に変えるものではない。

 それを全部買ってもらっているのだ。

 一度、聞いたことがある。どこからお金を出しているのかと。

 もとからかなり資産をためてからこの施設を始めたらしいのだが、国からの補助金のほかに、住んでいる人のバイト代や、独立した人から仕送りのようにお金をもらっているらしい。

全員夫婦には感謝しているので、できるお礼はする。

 そういった恩返しにより、今この施設は存在しているのだ。

 もちろんそれだけでは成り立たないので、夫婦は色々なビジネスをやっている。

 自分も早く恩返しできるようにならなくてはと、まだ入って半月もたっていないのに僕はそう思っているのだった。

 入学式直前の週末に行った買い物で、とりあえず必要なものはすべてそろった。

 その中にはお古もあったが、兄弟のいない自分にはふつうはできない経験なので、いい風にとらえた。

 明日の予定は何もない。

 そして明後日は入学式だ。

 明日はたっぷり休んでおこう。


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