これもラブコメですか?(仮)
R15は、たぶんつけた方が安全だと思う程度で、気楽にお読みいただけるものになっていると思います。
今日も1日頑張った。
帰宅の電車に乗り込むと、後は私の時間だ。私は今日の疲れを癒すため、いつものサイトを開く。
投稿型ノベルサイトで、そこから書籍化されることもあるという。
様々な設定で、様々な夢を見せてくれるテーマパークのようなサイトで、私が選ぶのは、Rタグがつくものが多い。
ヒーローは凛々しくかっこよく、ヒロインはたおやかで可愛らしい。二人に待ち受ける展開にニヤニヤが止まらない。
そして、物語を読破するとこちらも幸せな気分になれるのだ。そんな気分で1日終えたら次の日も頑張れる。電車で読むのは躊躇われるシーンもあるが、癒しだから勘弁してください。
そして、そんな私が目で追っている箇所は、二人が幸せに結ばれる所。
ああ、良かったよミラーヌ!しっかり捕まえておきなさいよクラウド!もうまとめて爆発しなさいよ!
集中しすぎていたのか、電車が急に揺れたのに対応出来ず、手のひらから携帯がこぼれた。
ガラケーだから頑丈、といっても踏まれては困る。
急いで拾い上げようとしたら、先に誰かが拾い上げた。
「有難うござ…」
「へぇ、先輩こんな趣味あったんですね」
誰?
私は、記憶の中から情報を引っ張り出すが、判らない。
しかし、手は携帯に向かう。す、と携帯が上に動いた。画面を周りに見せつけるのは勘弁してください!
ミラーヌが、クラウドが、キャッキャウフフしてるんですってば!
「あの、携帯返して頂けませんか」
「クラウドは、ミラーヌの頬に口付けして」
わざと、周りに聞こえないように私に耳打ちする。
変に爽やかな声だから余計に恥ずかしい。
しかし、その声に聞き覚えがあり、声の主をガン見すた。
「麻生くん?」
「先輩は、つい1時間前まで近くで仕事していた後輩も忘れるほど鳥頭なんですか」
いや、誰だよ!ってくらいに違う。言われてみれば服装は一緒だが、髪型違うし、野暮ったいメガネもない。
後輩麻生くん=メガネ、という記憶なんだから仕方ない。
「いや、本体がないから」
「本体?」
メガネを取り、髪型を整えた彼はなかなかに爽やか好青年だ。
かすかに眉を寄せるのも、絵になる。
「メガネ」
「………先輩が俺をどう認識してるのか、よくわかりました」
はあ、とため息をついて麻生くんがカバンを漁る。そしてメガネを取りだした。
いつもの麻生くんで、なんだか落ち着く。
「視力いいの?」
「日常生活に支障はない程度には見えます。メガネは…切り替えですね。かけると仕事の気分になります」
そういう彼の表情は、生真面目そうないつもの彼だ。さっきまでのチャラい爽やかさが消えている。
ていうか、メガネ1つで雰囲気が変わるって2次元にしか存在しないと思ってたわ。
「あ、では俺はここで」
「うん、また明日」
ぺこりと頭を下げる麻生くんを手を振って見送る。
意外な1面が見れた楽しさにニヤニヤしつつ、改めて自分の時間に戻ろうとして、気がついた。
「私、携帯返してもらってない!!」
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
仕事はパソコンとタブレットでなんとかなるが、憩いのひとときは、全て携帯に詰まっている。
出勤前の癒しもなく、今日は気分が重い。
あのあと、ミラーヌとクラウドの幸せイチャイチャが途中だったのを思いだしパソコンで読んだが、麻生くんの声がよぎって断念した。
これから厨二メガネと呼んでやる、と呪いつつ眠りについたのだ。
そしたらチャラメガネが夢にも出てきた。最悪だ。
「麻生くん、私の携帯返して」
生真面目な表情で現れ周りに挨拶する麻生くんを遮り、手を伸ばす。
「すみません」
麻生くんから携帯を取り上げると、折り畳みを開く。画面は昨晩のままで、充電切れと思いきや、満タンになっていた。
「充電してくれたんだ、有難う」
「昔の充電コードがあったので。あと……これお詫びです」
麻生くんは、カバンからカバーのかかった本を出した。大きさから文庫だろうか。横から黒い線が見えるので、イラスト付きかもしれない。
「気を使わなくても良かったのに。でも有難うね」
麻生くんチョイスの文庫は何だろう、と開いてみるとキャッキャウフフなシーンが見えた。
閉じて麻生くんを睨み付ける。
「お好きかな、と思いまして」
昨晩のチャラ爽やかに言われたら沸点超えそうだが、今の生真面目メガネにいわれると何も言えない。
ムカつくぞ厨二メガネ!
しかし、ちらりと見た表題は、自分好みだった。悔しい。
「有難う」
正直有り難いのは本音なので黙る。
私が携帯でRタグを読むのは好きだからだけじゃない。恥ずかしくて買えないからだ。
男子学生がマンガ雑誌の間にちょっとエッチなマンガを挟んで買う気持ちがよくわかる。
それなのに、少女マンガな表紙の文庫を堂々と買うとは、なんて厨二メガネだろう。尊敬してやる。
「は……恥ずかしくなかった?」
囁くように言うと、麻生くんは首をかしげた。
「俺、本屋バイトしてましたが、誰も気にしませんよ」
「え、本屋バイトしてたの?」
「ええ、●●駅の」
書店名を聞けば、月に何度かは行く所だった。恥ずかしすぎる。
「先輩は常連で定期もしてくださってたので」
その言葉に、ハッとする。メガネを外してエプロンをつければ、レジでよく見かけた爽やか青年だ。ここ2年ほど見かけなくて忘れかけていたが。
たまに、好きそうな本をキープしてくれていて、それがピンポイントなものだから、何て恐ろしい子!!と思ったものだ。
「あぁ!」
「思い出しました?ここ入った時に名乗っても気づかれなかったので、忘れられたかと」
「それは」
そこで、始業のチャイムが鳴る。まだ何か言いたかったが、仕方なく仕事へ向かった。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
「おまたせ」
戦利品を手にホクホク顔で、店員と会話をしている麻生くんに声をかける。
「川崎さま、こんにちは」
「こんにちは。あ、そうそう、お薦め本有難うございました。面白そうで、帰宅が楽しみです」
「あ、それはあ」
「では行きましょうか」
私の言葉に、ちらと横を向いた店員さんを、麻生くんが遮る。
すると、店員さんはニヤリと笑った。麻生くんの眉が寄る。
「有難うございましたー」
店員さんの笑顔が生暖かいのは何故だ。そして、麻生くんの頬が少し赤い。
そうか!
「さっきの店員さん可愛かったね」
若いっていいね、とニヨニヨして思っていると、麻生くんは大きくため息をついた。
目の前に広がる恋愛フラグ万歳。
「分かってない」
「んー?」
だめだ、ニヨニヨが止まらない。
麻生くんはそんな私に、1枚のメモを渡した。それは、ついさっきレジで会計したものを含めて、今までオススメされたものばかり。どれも面白そうだったから、迷わず購入したのだが、何かあったのか。
「題名、一文字目を縦に読んで」
ぶっきらぼうに言うと、麻生くんは先に進む。
私はとりあえず言われた通りに読んでみた。
「!!!?」
顔が赤くなる。
前で振り返った麻生くんが、分かった?と言った気がした。
(終わり)
後輩くん補足。
朱美と出会ったのは大学時代のバイト先(本屋)。その時には常連さんという感覚でした。就職して朱美と同じ部署になり、店の常連さんだ!→あれ、俺気づかれてない?→なんか先輩気になってきた→俺おすすめの本読んで喜んでる!嬉しい、なんかドキドキしてきた。こんな感じです。
お分かりだと思いますが、後輩くんが店員さんに「次常連の川崎さん来たらこれ薦めといて」と何度もメールしており、片思いがばれております。おすすめし過ぎなのは気心しれた常連さんだったとフィクションとしてスルーしてくださいませ。
あくまで朱美視点の小話だったので、後輩くんの考えがわからず何故こうなった感があるだろうと書かせていただきましたが、補足になりましたでしょうか?
もし補足じゃ意味わからんってありましたら、後輩くん視点も書いてみたいなぁ……なんて……いえ、すみません。