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悪魔の傭兵収集

 そしてカリーナは二日間で傭兵を四人ほど雇用した。


 交渉があっさりと進み円満に雇用することが出来た人もいれば、かなりの手段を使って半ば強引に雇用した人もいた。

 その中でも一番悲惨だったのは、ヒゲ面に熊のような図体をした大男だろう。




 その日は雲一つない青天だった。強いぐらいの日差しに対して時折、涼しい風が全身を通り抜けて心地よく感じる。


 そんな程良い気候の中、目の前では険悪な空気が漂っていた。


「子どもに雇われるなんて死んでも、ごめんだ。いくら金が良くてもプライドがゆるさねぇ」


「なら、プライドを捨ててよ。それとも一回死ぬほうがいいかしら?」


 可愛らしい笑顔で相変わらず無茶な要求をするカリーナ。


 おれは見慣れてしまったが、普通は五歳児がこんなことを言えば生意気だと腹を立てるであろう。


 実際、カリーナと話している熊男は顔を真っ赤にして憤慨した。

 

「ガキだと思って大人しく話を聞いていたが、もう我慢できねぇ!」


 大きく拳を振り上げた熊男に対して、カリーナは怖がるでもなく、逃げるでもなく、肩から下げていたカバンの中から紙の束を取り出した。


 カリーナの予想外の行動に熊男の拳が振り上げられたまま止まる。


 訝しんでいる熊男の前で、カリーナは子ども特有の高い声で紙に書かれている文章の朗読を始めた。


「あぁ。何故、空は青いのか。あぁ。何故、海は青いのか。誰か教えてくれないか。どうすれば、あの空のように、あの海のように私の心も青くなるのか。透き通った川のように、清らかな風のように。私も……」


 それは聞いている方が恥ずかしくなるようなポエムだった。


 寒気がする言葉の羅列におれが震えていると、熊男は心ではなく顔を青くして震えていた。


「おい、大丈夫か?」


 おれが声をかけると、我に返った熊男が、大慌てでカリーナから紙の束を取り返そうと手を伸ばした。


「返せ!」


「風の精霊よ。遠くまで舞い踊れ」


 カリーナは熊男が紙の束を掴む前に魔法で紙の束を空にばらまいた。


「やめろ!」


 熊男が必至に手を伸ばすが紙は空高く舞い上がり、遥か彼方へと飛んでいった。


「あ~ら、大変。回収するのは難しそうね。あ、でも拾ったら作者に返して下さいって張り紙を貼れば回収できるわ。ちゃんと、紙の裏に作者の似顔絵と名前を書いておいたから」


 そう言ってカリーナが一枚だけ持っていた紙を見せる。その紙の裏には、作詞者として熊男の似顔絵と名前が書かれていた。


「……ま、まさか、あの紙全部に……」


「当然、同じものが書いてあるわ。この似顔絵、とても良く似ているでしょ?これなら、みんな間違えずに届けてくれるわ」


 確かに似顔絵はそっくりだった。生き写しかというぐらい似ていた。今後、街を歩けば、あのポエムの作者だ!と後ろ指を指されるのは間違いないだろう。


 熊男もそう考えたのだろう。目が虚ろになってきている。


 そんな熊男の表情を見ながらカリーナが思い出したように言った。


「そういえば、今すぐにあの紙を回収する方法もあったわ」


「本当か!?」


 期待に輝く瞳。地獄の中で天から垂れてきた蜘蛛の糸を掴むような怨念に近い希望が感じられる。


「私なら魔法ですぐに紙を回収することが出来るわよ」


「じゃあ、すぐに……」


「でも一つだけ、条件があるわ」


「条件?」


 紙の回収で頭がいっぱいになっている熊男は、カリーナの当初の目的を忘れていた。


 おれが熊男に憐れみの視線を送っている前で、カリーナはあの天使のような外見のまま悪魔の微笑みを浮かべて命令した。


「紙を回収して欲しければ、私の傭兵になりなさい」


 その言葉に熊男はスローモーションのようにゆっくりと膝から地面に崩れ落ちた。そして両手を地面につけたまま苦渋の決断をした。


 それは熊男のプライドが体とともに崩れた瞬間だった。


 後でカリーナから聞いたのだが、ばらまいた紙は熊男が趣味で書き溜めたポエムだった。


 ヒゲ面でがさつそうな熊男の趣味が、心の繊細さや表現力を要求されるポエム。しかも、お世辞にも才能があるとは言えない、ただ寒い言葉が並べてあるだけのもの。


 本人もその自覚があるのだろう。だからこそ他人に読まれることを恐れていたのに、それを似顔絵付きで不特定多数の人に読まれる事態となった。


 これは立派な精神外傷になったに違いない。


 しかもカリーナはポエムを暗記したらしく、熊男が逆らおうとするたびにポエムを口ずさむのだ。ここまでくれば立派な脅迫だろう。



 カリーナはこうして望み通りの傭兵を手に入れた。約一名はカリーナの寝首をかきそうだが。



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