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 翌日。


「で、昨日の女性たちはなんだったんだ?」


 執務室で椅子に座ったおれに対して机を挟んで反対側にいるサミルが直立したまま慇懃に答える。


「どうやらカリーナ嬢が噴水広場に我が君が現れると噂を流したそうです。しかも嫁候補を探している、という情報まで付けて」


「それで、あんなに集まるのか?」


 おれの疑問にサミルが首を軽く左右に振った。


「我が君、もう少しご自分の立場を考えて下さい。我が君は首都を占拠した謀反軍とフオル国軍を追い払い、民からは英雄扱いをされているのですよ。そんな我が君が嫁を探して街中を歩いているなんて聞いたら、若いご婦人方は血相を変えて集まります」


「そんなものなのか?」


「そんなものなのです。とにかく、しばらく外出はお控え下さい」


「それは出来ない。カリーナを捕まえるためには外に出るしかないだろ」


「他に方法はないのですか?カリーナ嬢が使われていた追跡魔法などは、どうですか?」


「あの魔法には探す人の髪や身に付けていた物が必要だが、カリーナのことだ。おれが書類仕事で城にこもっていて五日間で全て片づけているだろう。まったく。アントネッロ卿はカリーナの逃亡準備時間を作るために、あんな仕事をおれに押し付けてきたんだと今更わかったよ。とにかく、今は地道にカリーナの魔力を探って、行動範囲を把握するしかない」


「ですが、我が君の顔は昨日の騒ぎでご婦人方に知れ渡りましたよ?今、街中に行けば昨日の二の舞になることは明らかです」


「なら、その噂を逆に利用してやる」


「どのように利用されるのですか?」


「おれが探している嫁はお淑やかで大人しく、とても自分から声をかけてくるような女性ではないという噂を流すんだ」


 おれの提案にサミルが生温かい視線を向ける。


「我が君、それでご婦人方が牽制できると本気でお考えですか?」


「とにかく、これで昨日のように女性が群がってくることはないだろう。とりあえず早急に噂を流せ」


「御意」


 こうして、おれは噂がそこそこ流れたであろう昼過ぎにカリーナ探しのために街へと出かけていった。






 夕暮れ。日が沈む手前でおれは城に帰ってきた。


「お疲れ様です、我が君」


「……おう。とりあえず服は破かれなかったぞ」


 ゲッソリとした表情のおれにサミルがほれみたことか、と言いたげな視線を向けてきた。


「で、ご婦人方はどうでした?」


「最初は近づいてこなかったぞ。遠くから、おれを見ているだけだった」


「はい。最初・・は、ですね。それで後半は、どうなりましたか?」


「おれが歩いていると反対側から花かごを持った女の子が走ってきたんだ。その子が、おれの目の前でこけそうになったから手を出して助けたんだけど……」


「あぁ」


 サミルが納得したように頷いた。


「その女の子の真似をするご婦人が多発しましたね?」


「そうだよ。そのあとは右から左から前から後ろから、女性たちが一斉にこけながらおれに向かって倒れてきたよ。いや、タックルしてきた女性もいたな。店一軒分も離れた場所でこけて、そのままバランスを崩した体勢で走り込んで来たんだからな。おれはあれをタックルとしか認めない」


 おれがその時のことを思い出しているとサミルが訊ねてきた。


「それでカリーナ嬢は見つかりましたか?」


 その言葉におれは思わず顔が引きつった。そのことに気が付いたサミルが一歩近づく。


「見つけたのですか?」


「いや、見つけた……というか、後から気が付いたんだけど、花かごを持った女の子ってカリーナが魔法で変身した姿だったんだよな」


 おれの言葉にサミルが盛大にため息を吐く。


「我が君、本当にカリーナ嬢を捕まえることが出来るのですか?」


「言うな。心が折れる」


 四年経ってもカリーナに(もてあそ)ばれているという現実を直視したくないおれは夕食も食べずに自室に引きこもった。



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