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思わぬ伏兵

 おれは城に帰ると、鬼ごっこに集中できるように書類仕事を片付けようと自分の執務室に入った。

 すると、朝にはなかったはずの大量の書類がおれの机の上に山積みとなっていた。机にはペン一本も置くスペースがないほど積み上げられた書類で埋まっている。


「どういうことだ?」


 おれの質問に一緒に城に帰ったサミルが軽く首を傾げる。


「我が君が不在の間に問題が起きたのでしょうか?確認して参ります」


「頼む」


 サミルが早足で部屋から出て行く。

 おれは山積みの書類の内容を把握するために軽く目を通していった。


「……なんだ、これ?別におれがする必要がない仕事だろ。と、いうかむしろ専門外の内容もあるぞ」


 謀反兵とフオル国兵によって壊された橋や道路の損害や修復については、まだ良い。

 だが今回、謀反兵とフオル国兵が首都を占拠した時に、伴侶が浮気相手の家に避難したため家庭が不和になっただの、兵に驚いた飼い猫が逃げ出して帰ってこないだの、どう考えても、おれには関係のない陳情まで混ざっている。


 そこにサミルが控えめなノックとともに部屋に入ってきた。


「お、ちょうど良かった。この書類を持ってきた人が誰か分かったか?どうみても、おれの仕事ではないものが入っているんだが」


 おれの言葉にサミルはどこか気の毒そうな顔をしたまま一枚の紙を出してきた。


「我が君、こちらをお読み下さい」


「ん?なんだ?」


 そこには走り書きされた一文があった。


『将来、息子になるのであろう、レンツォへ。

 机の上にある仕事を全て片づけてからカリーナ探しに行くこと。

 未来の(しゅうと)、アントネッロ卿より』


 おれは自分が持っている紙と机の上を何度も交互に見た。何度見ても書類の量は変わらないし、紙に書かれた文章も変わらない。

 だが、おれはその無駄な作業を数回繰り返して、ようやく拒否し続けていた脳に現実を受け入れさせた。


「嫌がらせかぁー!」


 叫ぶおれにサミルが冷静な声で話しかけてくる。


「とにかく、時間がかかる案件から片づけていきましょう。書類の分別は私が行いますので、我が君は指示と判をお願いします」


「……サミル、これ終わらせるのに、どれぐらいかかると思う?」


 おれの質問にサミルがそっと視線を逸らす。


「おい、答えろ!」


「こちらの書類から分別していきましょうか」


 そう言って机の端にある書類の山の一角をサミルが持ち上げる。その瞬間、机の上にあった書類が雪崩をおこして床一面に広がった。これこそ足の踏み場もなく、この部屋だけ新雪が降ったような光景だ。


「……すみません」


 サミルの謝罪が虚しく響く。

 おれは心の底から湧きあがってくる不気味な闘志を隠すことなく表情に出した。


「そうか。これは親子そろっての、おれへの挑戦状なんだな。よし!受けて立ってやる!」


 そう叫ぶとおれは浮遊魔法で体を浮かばせて書類を踏まないように移動すると、椅子に座った。


「サミル!どんどん指示を出すからな!休む時間はないと思え!」


「……御意、我が君」


 サミルの返事がいつもよりワンテンポ遅れたようだが、気のせいということにする。


 こうして、おれが書類の山を片づけたのは五日後だった。



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