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妙案

 あまり利用する人がいない図書館は静かだった。昼間なのだが日差しがあまり入らないように作られているため薄暗くどこか不気味だ。


 おれは人の気配を探して歩いていると、歴史書が置かれている本棚の前で目的の人物を見つけた。


「師匠」


 おれが小声で話しかけると師匠がゆっくりと視線を向けてきた。


「やあ、レンツォ。久しぶりだね」


 この薄暗い中で全身が白っぽい師匠は幽霊のようにボヤけて見える。いや、おれが無理やり生きさせたから幽霊ではない。


 おれが自分に言い聞かせていると、師匠が少し微笑んで外を指差した。


「少し一緒に散歩しようか?」


「はい」


 師匠は本を持ったままおれと一緒に外に出た。


「いい天気だね」


 師匠の言葉におれは空を見上げる。青空に白い雲が点在しているが雨を降らすようなものではなく晴天といってもいいぐらいの天気だ。


「そうですね」


「でも、レンツォは忙しそうだね」


 おれはため息を吐いて頷いた。


「そうですね。でも、こうなることは分かっていたので大丈夫です」


「レンツォは昔から頑張り屋さんだからね」


 そう言うと師匠がおれの頭を撫でた。

 そのことに驚いて隣を見ると師匠の顔がおれの視線より下にあった。この四年間の旅の間におれは師匠の身長より背が高くなっていたのだ。


 師匠がおれより小さいということに困惑していると、師匠が少し寂しそうに言った。


「もう少し私に頼ってもいいんだよ。私はいつでもレンツォの帰りを待っているから」


「師匠……」


 おれは感動のあまり言葉が声にならず足を止める。そんな、おれとは反対に師匠は足を止めることなく歩きながら楽しそうに言った。


「で、いつ帰ってくるんだい?セロリ料理を山ほど準備して待っているんだよ」


「人参料理の仕返しですか!?」


 ちなみにおれはセロリが嫌いで食べられない。それを癒しを求めて疲れて帰ってきた人間に出すというのか!?

 相変わらずの師匠におれは呆れながらも懐かしさを感じて追いかける。


 そこに師匠が前を向いたまま真剣な声で言った。


「レンツォ、大きすぎる力を持つと人は頼ってくる。だが、その全てに答えていては自分も頼ってきた人もダメになるよ。国も同じだからね」


 それは後処理をしていてヒシヒシと痛感していた。


「はい。おれがいなくても国が繁栄していけるよう今から改革していきます」


 おれの宣言に師匠が笑顔で振り返る。


「レンツォは私の自慢の弟子だから出来るよ」


「はい!」


「じゃあ、私は帰るよ。レンツォ、いつでも家に帰っておいで」


「ありがとうございます」


 そこでおれは師匠が手に持っている本を見た。それは師匠が召喚された国の歴史書だった。今まで、そんな本を師匠が読んでいるところを見たことがない。


「どうして、その本を持っているのですか?」


「あぁ、ちょっと気になったことがあってね。魔王の封印には本当に異世界から召喚した人が必要なのかなって、ふと思ったんだ。この世界の人間でも魔力が強い人なら封印出来るんじゃないかと。ただ、そのことを証明しようとしたら、そこそこ魔力の強い人が最低でも八人は必要だから難しいんだよね。だから実証は難しいけど、とりあえず研究してみようと思っているんだ」


「魔力の強い人……作る……」


 師匠の言葉でおれの頭の中に一つの考えが浮かんだ。それは霧がかった世界に一筋の光明が差し込んできたようだった。


「そうか!その手があった!」


 おれの叫び声に師匠はわけがわからず首を傾げる。おれは笑顔で師匠に礼を言った。


「これでどうにかなりそうです!ありがとうございます!」


 そして、おれは師匠を置き去りにして走りだした。そのまま勢いよく会議室のドアを開けて部屋の中に飛び込む。


 突然のおれの登場に全員の視線が集まるが、おれは気にせずにグランディ卿の前まで行くと両手で机を叩いた。


「アントネッロ卿の息女については、おれの監視下に置く」


 おれの勢いにグランディ卿の上半身がのけ反る。


「え……っと、それはどういうことでしょうか?」


「アントネッロ卿の息女、カリーナをおれの嫁にする」


 おれの決断にグランディ卿以外からも驚きの声があがる。


「なんですと!?」


「本気ですか!?」


「なにも、そこまでしなくても!」


 おれは周囲の声を無視してグランディ卿に力説した。


「強大な魔力を持っていても、それが王族であるなら兵も民も安心するだろう。カリーナが敵国の人間となり攻撃してきたら、それはおれの責任だ。おれが責任を取る」


「ですが、アントネッロ卿のご息女はまだ十五歳ですぞ。結婚など……」


「ならば婚約だ。そして十六歳になったら結婚する」


 おれの爆弾発言に王が確認をする。


「レンツォ、本当にそれで良いのか?」


 おれは王を見て断言した。


「はい。アントネッロ卿は公爵家の血筋です。王族に迎え入れても問題はないはずです」


「そうだが……そう、アントネッロ卿が何と言うか……話が唐突すぎるだろ。もう少し時間をかけては、どうだ?」


 暗におれに考え直す時間を与えようとしている王の思惑は分かるが、おれは止まらなかった。


「これからアントネッロ卿を説得してきます。ご夫妻から許しが出たらよろしいですか?」


 おれのゴリ押しに王が頷く。


「あ……あぁ。許しが出たらな」


 王は普通の夫妻なら突然、娘をしかも未成年の娘をくれと言ったら戸惑い、時間をくれと言うと考えたのだろう。だが、生憎とアントネッロ卿夫妻は普通ではない。無茶な条件を出されるかもしれないが、無駄な時間稼ぎなどはしない。


 王から言質を得たおれはグランディ卿に視線を移した。


「これなら問題ないだろ?」


「た、確かにその通りですが……レンツォ様はよろしいのですか?」


「カリーナを幽閉して発生する損害に比べれば、はるかにマシだ。では、失礼する」


「おい、レンツォ。まだ会議が……」


 王が何か言いかけていたが、おれは次に攻略しなければならない人物のところに急いで向かった。途中で重要な戦力となるサミルを拾って。


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