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あめの駅にて

作者: 茉莉絵

 どうしたんだろう。さっきから誰もいない。駅員さんもいない。私は見知らぬ駅のホームに一人、立っていた。バッグを肩に掛け、水が滴り落ちる傘を持っている。

 

 駅の看板には、やっと見えるようなかすれた文字で「あめの駅」と書いてある。気味が悪いことに赤黒い血のような染みが看板についていた。看板が古くなってさびているだけかもしれないが、血のように見えて恐ろしかった。


 駅から見える景色は真っ暗でよくわからない。今にも切れそうにチカチカと音を立てている蛍光灯が頼りだ。電光掲示板は、故障なのか読み取れない文字が表示されている。


 数メートル歩けば、すぐ端から端まで歩けてしまう狭いホームだ。ホームの真ん中にある改札の隣には、無人の窓口があるだけだ。窓口は内側からカーテンが閉められていて、中の様子が見えない。今どき珍しく自動改札すらない。

「すみません!駅員さんいますか?」

 窓口の奥から誰か出てくる気配はなかった。私の声が反響して、良く響くだけだ。

 

 電車を降りたときは、妙にくぐもった声のアナウンスが終点を告げていた。次に来る折り返しの電車に乗ろう。まだ、終電には早い。

 

 電車の時間を調べようと、携帯電話を手にする。何気なく時間表示を見て、私は声を上げそうになった。

 

 九時五十五分・・・・・・。

 

 仕事が終わって、会社の最寄り駅を出発した時間だ。携帯電話の時間が狂っているだけかもしれない。腕時計で確かめよう。私の腕時計は、電波時計だから正確だ。そう思い、左手のカーディガンをめくり、時間を確かめる。

 

 九時五十五分・・・・・・。

 

 私は思わず首を振る。さっき電車に乗ったときは、疲れていたから時間を勘違いしていただけかもしれない。かなり長く電車に乗っていた気もしたけれど、それも気のせいだ。

 

 私は携帯電話の乗換案内を開いた。出発駅を「あめの駅」と入力して、到着駅に最寄り駅を入力する。読み込み中の表示が、もどかしい。


「出発の候補地が見つかりません」の表示が出る。おかしい。確かに駅には「あめの駅」と書いてある。私は、漢字を何パターンも試したが、何度やっても同じ結果だった。

 

 ここはどこなのだろうか。

 

 ふと、気がつくと、静まり返った駅のホームに雨音が響いてきた。駅の屋根の隙間から、雨がしたたり落ちてくる。持っていた傘を開き、雨を避けることにした。さっきまで、濡れていた傘は乾いている。おかしい。いつの間に時間が経ったのか私にはわからない。

 

 そうだ。親に電話を掛けよう。車を出してもらえばいい。携帯電話を握りしめるようにして耳に当てた。

「この電話番号はお客さまのご都合でお繋ぎできません」

 相手がたまたま出られないのかもしれない。自宅の電話、姉、友達・・・・・・。

 

 どこに掛けても結果は同じだ。携帯電話を握りしめる手も傘をさす手も震えて上手く支えられなくなってきた。

 

 私は傘を放り出して、窓口に駆け込んだ。

「駅員さん、ここは何なんですか?助けてください」

 

 私の泣き叫ぶ声も雨音にかき消されてしまった。いくら叫んでも、私の声はどこにも届かなかった。




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