世界で一番優しい人
『もしもし、みな?』
「久しぶり、元気してた?」
『久しぶりって、この前も電話したじゃないか』
「そうなんだけどさ、会えないだけですごく遠い気がして。明日にはもう久しぶりって感じがするんだよね」
『みなは寂しがりやだなぁ』
「そんなんじゃないよー。あ、そうだ! 今度の土曜、そっちに遊びに行ってもいい?」
『….…いや、悪いけど、今度の土曜は無理だ』
「また仕事?」
『ああ、ごめんな』
「いいよいいよ、お仕事頑張って。体、壊さないでね」
『うん、ありがとう。じゃあな』
「うん、じゃあね」
私は通話終了ボタンを押すと、電話帳から相手の情報をすべて消した。もう一緒にとった写真すら、この携帯には残っていない。
私ね、知ってるんだよ。あなたが向こうで好い人を見つけたこと。来月結婚すること。今度の土曜は結婚式の打ち合わせがあること。
全部全部知ってる。
探偵に頼んだからとか、ストーキングしてるから知ってるんじゃない。あなたが結婚する人、私の古い友人でね、あなたが毎回式の打ち合わせであうスタッフは、同じサークルだった子なの。
古い友人は楽しそうに語ってくれたよ。未来の旦那さんがどれだけ素敵な人か。本当に、幸せそう。
サークル友達はすごく複雑そうに、全部教えてくれたよ。相談の時にいろいろ話したんだね。いつから付き合い出したのか、出会いはどこか。本当に、驚いたよ。
あーでもあなたは優しいから、私にはっきりと言えなかったんだよね。私はその優しさが大好きだから、あなたを責めたりしないよ。この思いは、ずっと胸にしまっとく。その胸も最近悪くてね、もう長くは生きられないみたい。
最期に、言いたかったな。でもあなたは聞いてしまったら、きっと迷ってしまう。だから、何も言わない。私とは、自然消滅したことにしましょう。もう友人にも口止めはした。お願いだから、彼を責めないでね。病気は仕方のないことだから。
今ではすごく遠くに感じるあなた。たとえ昨日話しても、あなたはもう遠くの存在。でもね、今でも好きだよ。
だから、末長く幸せで、どうか幸せでいてください。
とある小説を読みました。それはたった四ページで完結するミステリー。知っている方も多いでしょう。
それを読んだ時、ただ単に真似したくなりました。でも私にミステリーなんて書けない。なら、恋愛でやればいいじゃないか。
と言うわけで、一作品目でした。
2014年 8月1日 春風 優華