日本刀女と縦斬り総頸動脈
「お前を切る」
日本刀を着たセーラー服が言った。
「え?どれくらい?」
「どれくらい?って、それは死ぬまでだ。」
「俺を殺しに来たってこと?」
「そうだ。」
殺しに来たやつがわざわざ「お前を切る」なんてかっこつけたりしない。
「なぜ?」
語りたい相手には墓穴をほってもらう。
「知るか、悪いが死んでもらう。」
つまり、理由を知れば状況は変わるということだ。
「俺はお前の本当の父親だ。」
俺は女の目を見て言った。わずかな表情も見逃さないように。
「お前は実の父親を殺すようしむかれたんだよ。」
「そ、そんなこと誰か信じるか。」
女は動揺を隠さない。これはあまりよい反応ではない。意識がまだ会話より殺すことに向かっているからだ。
「本当に覚えがないんだな」
「当たり前だ。」
「証拠がほしいか?」
「ああ。」
「お前のその首もとを見せてみろ。」
襟元に手を伸ばす。
手から刀が離れたその瞬間。俺は袖から抜いた刃物で女の頸を引き裂いた。腱に邪魔されるよう縦に切り裂くには総頸動脈の位置を把握しておかなければならない。
「このやり方は血がかかるから嫌なんだよな。」
女は殺す相手のことすら知らなかった。それが敗因だった。
殺し屋に狙われるような男が普通なわけがない。
俺はおんなのひきさけた首もとをみた。滝のような冷や汗と勢いの依然強い血しぶきは助かる術がないことを表していた。循環血液量減少性ショックにより、末梢の血管はしまり、心拍数は上がる。一番大事な脳へ血液を送ろうとするほど、出血が増える。
真っ赤に染まった首もとに光る黒い点が見えた。血と脂肪で肌色が落ちたのだった。
「もしかして、お前…」
名のしれた実力者に、ただの日本刀をもたせた女を向わせる訳がない。