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カミカガリ ー君に憧れるから君を傷つけるー  作者: 柳之助
Episode0:繋がらない手と心
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モーニング・トーク

 神憑(カミガカリ)

 それは精神が肉体を凌駕してしまった特異体質を指す言葉だ。言葉にすればなんとも陳腐で、その体質のことを露わした言葉はいくつもあるらしいけれど結局はそういう風に表わせられる。基本的に魔術や超能力のようななにがなんだか(・・・・・・・)よくわからない(・・・・・・)存在して利用できる(・・・・・・・・・)もの(・・)というのは利用者の精神のその強度が準拠する。

 人の願い、祈り、欲望――善悪の区別なく異能の力はそういったものを燃料にするのだ。

 そして神憑(カミガカリ)はそれらの異能の中で精神に最も直結したものだ。

 基本的に異能は何かしらの媒介を必要とする。それが儀式や呪いの類ならば魔術と呼ばれるし、複雑な演算や計算ならば超能力、はたまた精神力だけでなく生命体をも異能の糧とすれば気功とも呼ばれていた。勿論、それらも細かく言えば細分化できるのだが大雑把に言えばその三つだ。

 けれど『神憑(カミガカリ)』にはそういったプロセスがない。願いをそのまま異能として発現させるのだ。願えば願うほど、祈れば祈るほど、欲すれば欲するほど。

 火が欲しくて物を燃やすのではなく火そのものが手に入る。水が欲しくて川から汲むのではなく水そのものが。コストやリスク性の一切を無視した体質。

 だからこそ『神憑カミガカリ』。

 神懸っている。

 神が懸かっている。

 神が――憑いている。

 日本語ではそのままの意味。多言語でも似たような意味合いで呼ばれるらしく、実際その力の発言はいわゆる神話の世界からそのまま名前を引用するらしい。既知未知関係なく、自分の祈りに最も即した神格の名前が口から零れる。神様が教えてくれた、などという者もいるらしい。最も有名だったり強かったりする神の名を持ったとしても本人の強度には関係ない。結局のところ神ではなく人の問題だというのは中々皮肉が効いた話だが。

 ともあれこの異能において肝要なのは人ではなく神とまで言えるだけに精神が必要ということだ。

 なんでもいい、しかし確かな、絶対的な、それこそ何に変えてでも叶えたいという願いを先天的に、生まれた時から持っていなければならない。

 そして、それを自覚する必要がある。

 

 それが週末において流斗が駆から聞き出した『神憑』という概念だった。









「……自覚ねぇ」


 週末開けの月曜日朝。通学路を進みつつ、流斗はぼやいていた。土曜日、日曜日の間、流斗は駆から『神憑』の説明、それに使い方を教えると言いつつひたすら組手だか苛めだか判断に困るようなことをして過ごしてきた。駆と沙姫の居候の件は簡単に終わっている。バイト先の友人が困っていると説明したら勝手に向こうが駆け落ちかなにかと勘違いして――多分勘違いではないと流斗も思うのだが――笑いながら居候を認めてくれていた。驚くべきことに家事スキルの高い二人で週末の間だけでも急速に荒谷家に馴染んでいた。

 最も荒谷家の一人息子は家に庭にて居候にぼっこぼこにされているのだが。

 防音や認識阻害だとかいう『神憑』ではない魔術の使用によって駆がどれだけ大きな音を立てて流斗を殴っても気付かれない素敵仕様だ。使い方を覚えるには体を動かすのが一番ということだか本当かどうかも怪しい。

 

「いや、意味自体は薄いとか言ってたなぁ」


 練習と称した殴り合いもモチベーションを生むためにやっているだけだ。

 何度も繰り返し言われたが大事なのは精神。流斗はその能力を発動したのが命のやり取りという状況だったから戦闘に準ずる訓練をしているだけ。兆しの一端とはいえ一度は確かに流斗は『神憑』という異能を体現している。だったらその時の精神状態を覚えて、いつでもそこに移行すればとりあえずは危険は無くなるということだ。


「けど、願いとか今更言われなくても身に染みてるんだけどなぁ……」


 中学の卒業式。あの時に雨宮に滅多滅多にされた記憶は未だに焼き付いている。というより忘れたことなんてない。今の流斗はあの時の言葉が根本で動いていると言っても過言ではないのだ。

 何か譲れないものが欲しい。そういうことが想える人でありたい。流斗の願いは間違いなくそれで、自覚しているのにも関わらずあの力は完全に発動しない。精々が体の耐久力が上がっている程度。曰く車にはねられても無傷で済むレベルだが、本来ならばそんな程度ではないらしい。

 等と考えいてたら制服のズボンの中で振動が。

 スマートフォンの着信だ。

 始業前の朝の時間に電話を掛けてくるというのは中々ない。バイト先全てには当分出れないと連絡したし、知り合いでも今から学校で会うというタイミングで掛けるという物好きな奴は一人しかいない。

 液晶をフリックして電話に出る。


『やぁやぁこれはこれは息災かい? 週末二日間用事があるとだけ言って一回も顔を出さず連絡も寄越さない友達思いの糞野郎の荒谷流斗君? 君のことを親友だと思っているはずの雨宮照だよ?』


「……」


 開口一番コレだ。


「あーなんだ、態々嫌味言うためにこんな朝から電話してきたのか」


『嫌味とはひどい言い方だねぇ。ここ数年は欠かさずに、欠かしても前日連絡が基本で僕と遊んでいるというのにも関わらず電話で一言、しばらく行けない悪い、で切られた僕の気持ちが解るかい? いやぁそれはそれはショックで枕で涙を濡らしたものだ』


 嘘つけと言いたかったが、言ったらまた嫌味が広がりそうなのでやめる。ちなみに電話を掛けた時は土曜日の昼くらいだったわけだが、その時すでにしこたま駆の拳やら蹴りやら喰らっていて長話に付き合うだけの元気がなかったというのが正直な所だ。


「悪かったよ、急な用事でな。多分しばらく行けない日が多いと思う。だから話し相手なら他の友達に頼んでくれ」


 我ながら薄情な言い方だった。いい気分ではないが、それでも実際に当分は雨宮との交流の時間は減らさざるを得ないだろう。よくわからない世界に巻き込ませたくない。いや、できれば流斗も巻き込まれたくないのだが。


『友達、友達ねぇ。僕はその単語を聞く度に常々疑問に思うのだけれどね。友達。つまり友人である友と君達とか僕達の達という字を組み合わせるだろう?』


「ん? ……そうだな。そういう字だ」


 いきなりの言葉で驚くも、友達という字が出てこないほどに耄碌していない。それくらいの言葉ならばすぐに思い浮かぶ。


『これってつまり友人というのは複数が前提という意味だろう? 友達という言葉が表すのは不特定多数の友人だ。二人いても百人いても千人や万人いようが友達は友達だ。そうやって十把一絡げにできてしまうのが友達という意味になる。どうだい? 友達という言葉が如何に薄っぺらい響きと意味であるか君にも理解できただろう』


「いやそう言われればそうだけどよ」


 しかしそんなひねくれた物言いをするような人間はコイツくらいだ。二人と万人は絶対に同じじゃあない。すごい差である。


『その点親友はどうだい? 親しき友。或は心の友や信じる友で心友や信友とも表わせれるがそこには不特定多数なんて目じゃない唯一性があるだろう。友達百人作ろうと小学生で言っても、親友は百人も作らないだろう? 親友というのは一人で十分だからだ。僕にとって君のような、ね』


「ふむ……」


 なるほど一考の余地はある。友達と親友の違いはニュアンス程度だったが、そう言う話ならば二つの言葉には明確な格差が生まれてくる。そして雨宮は流斗のことを親友だと言ってくれた。恥ずかしい言葉ではあるが言われて悪い気はしないし、寧ろ素直に嬉しいと思う。

 そして親友だと思うのは一方通行ではない。

 不覚にもちょっと感動してしまった。

 朝からぼこぼこにされて最悪の朝だと思ったらこんないい話が聞けるとは。


『はっはっは、解ってくれたかい? ――まぁ友達の逹の字はだちの当て字で複数の意味なんてないし、親友だって複数対象にも普通に使えるんだけどね』


「感動返せよ!」


『はっはっは』


 オチが酷かった。


『いずれにせよ君の感動が君の勘違いであろうとも僕が君を親友だと思っているのは変わらないことだ。なので、君がバイト先に用事とやらを優先したところで僕にそれを止める権利はない。アルバイトとはいえ立派に社会の歯車になっている君と違って僕はそういう類のことは性格的に絶対無理だしね。だから、君は頑張って労働に勤しんでくれ』


 そして一度区切って、


『かく言う僕は色々反省しているのだよ。君の風来坊ぷりは昔からのことだけれどあの中学の時の卒業式の日に言ったことを真に受けて、その中二病を継続させていることにね。できることならば君がそのまま労働精神に覚醒して――』


「覚醒して?」


『――僕に美味しい物を食べさせるといいよ』


「お前は良い話と下らない話を交互にしないと喋れないのか!」


 悪癖とでも言うべき残念すぎる特徴だった。一々流斗が反応するの悪いのだろうが。こいつの場合は最初の方は含蓄がありそうで思わず聞き入ってしまうのだからたちが悪い。


『さて君もそろそろ学校につく頃だろう。時間はあまり余裕がないのだから急ぎ給えよ。僕が電話をしたのはいつもより君がくるのが遅いからということもあるしね』


「お前はもう学校か?」


『もちろん。これでも始業一時間前には学校に来る優等生ぶりだ。見習うといいよ』


「はいはい」


『ではまた後で会おう。君の今日一日が面白おかしく愉快な日であるといいね』











 雨宮の言葉通り、流斗が教室に入ったのは始業五分前というギリギリの時間だった。今朝も訓練は行ったのでそれに加えて気づかないうちに足取りが重くなっていたのだろう。 体調管理を意識しないといけないなぁと思いつつ、クラスメイトに挨拶をしながら自分の席につく。周りをみれば椅子の背もたれや机の横にコートやマフラーをかけている光景が幾つもある。冬という季節柄仕方ないことではあろうが、そういうのを必要としない流斗からすればかさばるなぁというイメージしかない。

 口にすることはないけれど。

 寒さに強い自分が防寒具を使わないからと言って自慢できる理由などどこにもない。これが寒さを我慢しているのならば話は別かもしれないが、我慢しているつもりもない。常に自然体なのが自分のステータスだと思う。

 何れにせよ、暖房が効いた室内では防寒具云々は些細な話だ。

 無駄な話ということに関しては雨宮のことを言えないのかもしれない。 

 一時間目の授業の時間割を頭の中で思い浮かべつつ、その教科書を机の中から取り出す。なにやらこの週末でいろいろ世界観が変わった気がするが、高校生の本分は勉強だ。例えそれが月曜日一時間目という誰もが憂鬱な時間を目前にしても同じことだろう。

 教科書を取り出し、一緒に見覚えのない紙が床に落ちた。


「……?」


 整理整頓を完璧にこなしているとはいえないが、それでもプリントくらいは纏めている。なのでそれは自分が知らないものでありーー拾い上げながら読んだ文字に少なからず驚いた。

 いっそ驚愕、あるいは愕然としたと言っていい。

 そんな予感がしていたとはいえ、こういう(・・・・)形で来るとは思ってもいなかった。


『昼放課 生徒会室』


 達筆な字で二つの単語だけ書かれた紙切れ。

 そんなありふれたものが、流斗を非日常へと誘うものだった。

会話が書きやすい雨宮である。饒舌、ただし中身はない。



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