友達以上恋人未満
わたくし一二一二三は考えました。
センベイ先生が課題を残すことになった作品(本人がどう思っているかは知りませんが)、『故意的で好意的な恋』はだれの文体を意識しているのか。やっぱりわたくし自身が登場していることもあって結構気になっていました。
そこで思いきって予想をしてみました。
よろしければ皆様も御一緒に推理してみてください。
――センベイ先生はわたくしとは異なり、海外メディアを極端に嫌っています。聞くところによると、皆一様につまらないから、だそうです。だから年間で読む海外小説はたったの1冊です。ちなみに去年はデイヴィッド・ゴードン の『二流小説家』を読んだらしいです。感想を聞いてみましたら、「作中作がつまんなかった」と不機嫌な顔でおっしゃられていました。
(あとがきに続きます)
「もう、だいぶ日が暮れちゃったね」
ミスタードーナツに寄って軽食を食べながら、石田沙紀ちゃんはしみじみと言いました。
「ホントだー。1日ってあっというまだね」
そんなことを話していると、近くのテーブルに仲のよさそうなカップルが座りました。
私はそれをみて、うらやましいとかそんなことを思ったわけではありませんが、康平ともこんなふうに付きあえたらいいのになと愚考してしまいました。
康平はもう沙紀ちゃんのものなのに、私はどこまで卑怯で怯懦な女なのでしょうか。
「ねえねえ、悠莉ちゃん」
沙紀ちゃんは明るい声で、「康平くんとのデート楽しかった?」
私は照れと本音をまじえて、
「図書館に行ったんだけどね、あっちはレポート書きが終わってなかったみたいで、それに付き合わされただけだよ」
すると沙紀ちゃんは憮然とした表情で、「そう……。そんな簡単な役目が、私じゃなくて悠莉ちゃんだったんだ。……やっぱりね。こういうときは表面上のカノジョよりも、相思相愛の本当のカノジョを誘いたいんだろうね」
そんなことないよ、私なんか暇つぶしに利用されただけだよ。と儀礼的に言おうとしましたが、そんなことであってほしいと願うあまり慰めてあげることさえできませんでした。
ミスタードーナツの店内から出て、沙紀ちゃんは、「うー、だいぶ冷え込んできたね。あっ、そうだ。トイレ用洗剤とゆずを買いたいんだけど時間ある?」
暗い話から一転し、明るい話題に切り替えました。
「えっ……ゆず? トイレ用洗剤はわかるけどなんでゆずを買うの?」
トイレ用洗剤は生活必需品だけど、ゆずはどうする気でしょう。たしか沙紀ちゃんは柑橘類は食べられなかったはずです……。
それにゆずは秋の季語なんですよ。
不審そうにしている私をみて、沙紀ちゃんは笑顔で、「お風呂に入れるんだよ。日本では江戸時代頃から、冬至にゆずを浮かべたお風呂に入る習慣があって、『ゆず湯に入れば風邪を引かない』とも言われているんだよ」
「へー、博覧強記だね。いろんなことを知ってるんだね」
ドアを開けて車に乗り込み、私は感心していました。
「じつは奈保ちゃんから聞いたんだー。ちなみにゆず湯は冬の季語だから、季節的にもピッタリなんだって」
「そうだね。血行促進にもいいしね」
車を発進させて、私たちはスーパーへ行きました。
「ただいまー」
家に帰ってから買い物袋を玄関に置き、石田沙紀ちゃんと2人で私の部屋へと向かいました。
杞憂だとわかっていても、念のために高島康平の容体を確認したかったのです。
「おかえりー!」
鼻声ではありましたが、康平は元気にしていました。
マスクを着用し、窓は全開にして、掃除機をかけていたのですから、ほとんど回復したのでしょう。
「ついでだから部屋を掃除しておいた。一宿一飯の恩義に報いないとな」
康平はにやりと笑い、窓を閉めました。
沙紀ちゃんはやっぱり私と康平の仲を疑っているようでしたが、核心に触れるような言動はしませんでした。
しばらくしてから、先述したとおりの豪奢なディナーを堪能するシーンが始まりました。
「お風呂いただくよ」
「どうぞー。今日はわざわざ掃除まで手伝わせちゃって悪かったわね」
「その前に康平くん。ちょっといいかな……」
小流先輩は康平を廊下へ連れ出して、なにやら密談をしていたようですが、すぐに戻って来ました。なにをしていたのか聞いてみると、茶化してきたのよと笑いながら言われました。なんだか私まで恥ずかしくなってしまいました。
このあとです。
康平はお風呂場で死にました。
死体は浴槽に沈んでいたので、私見ではありますが溺死かなと思いました。お風呂場は換気扇がまわっていて、網戸ごと窓ガラスは開いていました。シャンプーやボディーソープの容器は散乱しておらず整然と並べられたままでした。
センベイ先生は今年はどんな海外小説を読むのでしょうか。個人的にはアダム・ファウアーの『心理学的にありえない』や『数学的にありえない』を読んでいただきたいですね。皆様にもお勧め致します。もちろん二先生にも一読することを慫慂していますよ。
さて、『故意的で好意的な恋』が意識している作品に話を戻しましょうか。
わたくし一二一二三は、松本清張の『砂の器』を参考にしているのではないかなと思いました。
三人称多視点で文体はやや軽め。
(『故意的~』の場合、後半の文章は破綻していましたが……)
ラノベもほとんど読まないそうなので、まずこれで間違いないはずです。
真偽の方は、次回作の前書きで述べます。(覚えていればですけど……)
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