石田沙紀ちゃんとの関係
朝のニュースって、みなさん何をご視聴なされていますか?
侃々諤々の議論をしても勝てる気がしないのですが、わたくしは「ZIP!」をみています。さいきんのニュースはバラエティ化してきているのでおもしろいですよね。
自宅のチャイムを鳴らすと、マスク着用でほうきを片手に玄関掃除をしてくれている後輩の笹柳奈保ちゃんがいました。
「あっ。先輩方、お帰りなさい。ずいぶんお早いデートでしたね」
「いや……。だから、デートじゃないってば」
私は誤解をとくのが先決だろうと思い、成り行きを説明しようとしましたが、「あれ、奈保ちゃん。何でそれを知ってるの?」
高島康平が小首をかしげました。どうやら彼が変に情報を漏洩したわけではないらしいのです。
「いやですねぇ、高島先輩。この不便な時代では、FacebookとかTwitterとか、mixiとかLINEとかそんなのがたくさんあって、情報にこと欠かないじゃないですかあ」
「じゃあ、奈保ちゃんはFacebookとかTwitterとかmixiとかLINEとかでチェックしたの?」
私の質問に奈保ちゃんは「いいえ。ちがいますよ?」と、手を振って否定しました。
「石田先輩の情報です。なんでも石田先輩の友人が、先輩方の密会現場を目撃したらしくって……」
「そんなにコソコソしてたわけじゃないけどね」
私は密会という言葉に反応しました。それは照れ隠しではなくて、康平に彼女がいるからです。
私の現親友で、過去の戦友。元恋敵。
先程の会話にも出てきたでしょう、石田沙紀ちゃんと付き合っているんだから、そんな横恋慕みたいなことができるはずもありません。
康平のことを好きだったあの頃には……、無邪気で純粋で潔白だったあの頃には、もう戻れないのです。
「まあいいや。とりあえず上がってくれよ。お茶くらい出すからさ」
康平はまるで、友人を自宅に招待したときみたいに振る舞いました。
「いや、お茶を出すからって……。他人の家で言う? どんだけ傍若無人なの」
私は叱責して、居間に行きました。
そこには小流杏子先輩がいました。カーペットの上を掃除機できれいにしています。
「わざわざすいません。こんな……汚い部屋を」
私が謝罪すると、「なに言ってるのよ。鼻水くさい。誕生日くらいゆっくりしてなよ」
小流先輩は高島康平をみつけて、「君もさ、ホテルに連れ込んで、ガバってやんなきゃダメじゃん。女はね、待ってんだよ。自らの貞操が破られるのを」
「待っていませんから」
私は言下に否定しました。
「えっ? そうなの。てっきり鵜呑みにしちゃうところだったよ」
高島康平がおちゃらけたので、「だ……だったら、小流先輩と、ね……寝ればいいんじゃない?」
私はそのように挑発しました。
すると康平は、「小流先輩には悪いけどさ、好きな女以外を抱くことはできねーよ」と予想外の答えを発しました。
私は自分の発言のおろかさに気付き、恥ずかしくなって、「ばっかじゃないの、カッコつけちゃってさ」とお茶を濁しました。
その後しばらくは、小流先輩と私と康平で、楽しく談笑していましたが、「こんな時に悪い。ちょっと体調があんまり良くなくってさ。寝てれば治るんだろうけど」
高島康平が赤い顔をして言いました。もしかしたら図書館から出た際に、私が長電話していたことが原因かもしれません。
「無理しないで帰って寝てる? せっかく来てもらったんだけどさ」
小流先輩は帰宅をすすめましたが、「私の布団貸そう? いちおうファブリーズしてるから、臭くないはずだよ……」
私はそれを阻止しました。
「ごめんな。じゃあ、布団を借りて寝てるから、開宴になったら起こして」
康平はそういい残し、私の部屋へと向かいました。私の寝ていた場所に康平が寝る。なんだか間接キスみたいで素敵だなと、私は妄想していました。
「おお、おお、若いねえ。若いか和解かでいえば、顔が赤いよ」
小流先輩はテンションが上がると、意味不明なことを述べますが、今回がその典型です。
「それではお掃除お願いしますね」
私は小流先輩と別れ、冷蔵庫からポカリスエットを出して康平が寝ている部屋に行きました。
「失礼しまーす」
自室であるにもかかわらず、律儀に声をかけて入室しました。
敷布団では康平が横になって寝ています。カーテンは閉まっていて、クレセント錠までしてあります。他にだれかが侵入した形跡はありませんでした。
さて、この舞台をみて読者の皆様はいかが考えますか? べつに崇高なご意見を賜ろうというわけではございません。
ハレンチなことを想像されるか、密室殺人を空想なされるか、それとも病床に臥したただの幼なじみがいるだけと空間的にとらえるか、それは個々の自由です。ちなみに私は2番目に述べた密室殺人だったら面白いなと不謹慎ながら思いをはせましたが、一番最初に記述したとおり、高島康平はまだ生きています。
そんなこと信用できるか、一人称特有の叙術トリックなんじゃないのか、などとさすがの慧眼をお持ちの読者諸氏は疑問を呈することでしょう。
あいにく私は寡読にして未読ですし、寡聞にして知りませんが、エドガー・アラン・ポーの『お前が犯人だ』や、サミュエル・アウグスト・ドゥーゼによる『スミルノ博士の日記』のように、語り部が犯人だということはありません。そこはフェアに明示します。ご安心ください。
主人公が犯人というと、私はアガサクリスティーの『アクロイド殺人事件』を思い出しますが、皆様はどうでしょうか? 博学なあなた方は千差万別の答えを返してくださることでしょうね。枚挙に暇がなさそうなので閑話休題いたします。
ただ単純に眠っているだけの康平を起こして、ポカリスエットを渡しました。すると彼は悪寒がすると訴え、「ポカリよりもビタミンガードが良い」とわがままを言いました。
私はタイミング良く、無聊をかこっていたので快諾し、「他にウイダーとかお菓子とかはいらない?」と訊きました。
「チョコとポテチを買ってきて」
臥せっていた康平は、脇の下から体温計を取り出して、そのように頼みました。体温計は37度9ぶを示していました。
「それじゃあ、安静にしててね」
私はポカリスエットを冷蔵庫にしまって、小流杏子先輩と笹柳奈保ちゃんに買い出しにいく旨を伝えて、家を出ました。
車をちょっと走らせたところにあるセブンイレブンで、ビタミンガードやチョコレート、ポテトチップス、ウイダーにおでんを買ってから帰宅しました。
高島康平に買い物袋を見せると、「絢爛豪華だな」とほめて(?)くれました。
私はリビングから持ってきた熱冷まシートをひたいに貼ってやり、「お大事に」と部屋を出ました。
それをしたはいいのですが、今度はいよいよ暇なものですから、リビングやら玄関やらを右往左往しておりました。
すると親友の石田沙紀ちゃんが、なにをするでもなく佇んでいる私をみかねて、「トイレの掃除とお風呂の掃除が終わったから、いっしょに映画みにいかない?」と誘ってくれました。
子どもみたいな笑顔でした。
「うん、いいよ。それじゃあ小流先輩や笹柳奈保ちゃんたちが終わるの待つ?」この問いには、 しかし首を振って、「ううん、2人で行こう」
私はしばし思案をしてみたものの、まあなんでもいいや、と投げやりな回答に到達しましたので、「わかった、じゃあ小流先輩と笹柳奈保ちゃんに伝えてくるからちょっと待っててね」
私と石田沙紀ちゃん、この2人で映画をみにいくことに対し、小流先輩は、「ふーん、明言は避けるけど気をつけてね」と、なにやら意味深長なことを述べ、笹柳奈保ちゃんは「そうですか。私もいきたかったのに残念です」
つまはじきにされたと思ったのか、落胆したように言いました。
「いってきまーす!」
声をそろえて玄関を出て、私たちは自動車に乗って映画館にいきました。
私にはとりわけみたい映画があるわけではなかったので、石田沙紀ちゃんに付和雷同しました。洋画のスパイ映画でした。
字幕版と吹き替え版があったのですが、私たちは時間の都合もあったので字幕版を鑑賞しました。
こぼれ話で恐縮ですが、読者の皆様にだけ申し上げますと、じつは私、上映中はずっと眠っていました。
ちなみに夕方のニュースはUX(テレビ朝日)をみることが多いです。