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御寛恕できない人間感情  作者: 一二一二三
13/15

逸脱した殺害動機

生徒に「少女時代派? KARA派?」という質問をされることが、たびたびあります。うれしいですよ、K―POPを聴いていると思っていただけて。一二つまびら一二三ひふみです。よろしくお願いします。


毎日更新する予定でしたが、風邪をひいてしまったので1日空きました。インフルエンザではなかったのホッとしていますが、慙愧ざんきの念に堪えません。

「心配しなくても、高島康平くんの真の死亡理由を教えてあげるわよ」

 小流先輩はもったいぶるようにしています。

「早く言えー!」と憤慨しないよう、私は冷静に冷静に、トリックの公開を熱望しました。

 果たして――小流先輩は、事件の真相を述べました。

「高島康平くんがお風呂に入ろうとしたとき、私が彼を呼びとめたとこまではおぼえてる?」

「はい。たしか冷やかしたんですよね」

「便宜上そう言っただけで、実際はちがうよ。例の洗剤が入った、シャンプーとボディーソープの中身を捨てておくように頼んだんだ」

「どうやってですか?」

「そのボトルは水を入れて洗っといたから、入浴時にでも中身を抜いておいてね、と言ったんだよ」

「つまりはこうなりますね。康平は水だと思って洗剤を捨てた」

「そういうこと」

「でも、たとえ化学反応が起きなくても、溶液はツンとする臭いを発した筈じゃあ……」

「マスキングと鼻づまりだよ。高島康平くんは鼻風邪をひいていた。だから嗅覚が鈍っていても仕方がないし、もともとお風呂掃除もしてあるんだから、その臭いだと解釈してもおかしくはないんじゃない?」

「すいません。マスキングって……なんですか?」

 小流先輩は思い出したように、「マスキングっていうのは――」と解説してくれました。

「例をあげると、告白したのに電車の音で掻き消されたとか、そういう現象だよ」

「つまりベタな設定というわけですか?」

 小流先輩は首を振って、「ある刺激に対する感覚が、別の刺激に対する感覚によって遮られてしまう現象のことだよ。さっきの例を使うと、いくら大声で告白しても、電車の轟音しか聞こえないでしょ? という意味で……」

「わかりました。康平はゆず湯に浸かっていたから、ゆずの匂いに掻き消されて、塩素ガスの臭いを感知できなかったんですね」

「そういうこと……」

「飄々としてますけど、小流先輩が……いま私の目の前で……腹心を打ち明けた……胸臆を開いて語ったあなたが……犯人で、間違いないんですよね」

「抜かりないわ」

「ミステリー小説とは乖離かいりしたエンドロールですね」

「そうね」

 私は――

 このことを警察に話しさえすれば、小流先輩は捕まってくれるのだと信じていたので、取り乱さなかっただけです。

 もしもそれがなかったら、動機など聞かずに、抹殺してしまいたい心持ちでした。

 彼のカノジョにはなれませんでしたが、

 私は高島康平を……愛していたのですから。

「泣いても笑ってもこれが最後なんだけど、最期にこれだけは雑談させてほしいな」

 相変わらず意味深長で、意味不明なことを述べながら、小流先輩は閑談を開始しました。

「アメリゴ・ベスプッチって知ってる?」

「アメリカ新大陸を発見した人ですか?」

「いや、ごめん、まちがえた。その人じゃなかった」

 読者諸氏だけに予告しますと、小流先輩は遅かれ早かれ、もうすぐ死にます。

「ラスプーチンってわかる?」

「だれですか?」

「経歴を話すと長くなるから、死に様だけ教えるね」

「死に様って、こわいことを言いますね……」

 私はどん引きしていました。

「毒殺、殴殺、銃殺、撲殺……。その人はあらゆる殺人手法がいっさい効かなかったんだよ。凍死もしないし、失血死もしない」

「まるでホラーですね。どうやって死んだんですか?」

 さっさと話に終止符を打つため、私は核心をつきました。

「溺死、だよ」

 こわい。

 死因がとかじゃなくて、その話がです。

 戦慄している私に、「毒殺の場合、致死率(LD)100%でも死なない人はいるけど、ここまでくると、恐怖だよね」

 小流先輩はいかにも楽しそうに笑いかけました。

 私はそのラスプーチンという人が、死してなお蠕動ぜんどうする様子を想像していました。

 こわいを通り越して、思考が停止しました。

 あはは…………。よくわからん。

「さて、座談はこれで終了。動機を言ったら私は帰るね」

 小流先輩は無手勝流に決めて、

「私が高島康平くんを殺した理由はね、突き詰めていくと、興味があったからだよ。もし彼が死んだら、悠莉ちゃん、沙紀ちゃん、高島康平くんの三角関係はどのように軋むのか、ひずむのか。友情は崩壊するのか、それとも韜晦するのか。悠莉ちゃんたちには感謝してるよ。卒業論文を攻略するリアルなデータが採取できたからね。――友情は壊れないんだね、まさしく模範回答だ」

 はあ?

 なにわけの分かんねーことをごちゃごちゃと……。それが動機だあ?

 なめんじゃねーぞ、クソ女。

 私の感情は爆発寸前でした。

「じつはもうひとつあるんだけど……話したほうがいいかな?」

「なんですか……?」

 かみつくようにして私は訊きました。それはとても――酷薄な響きをおびていました。

「天網恢恢疎にして漏らさずとは言うけどさ、法律の網っていうのは随分と『漏れ』があるんだなあって思ったんだ……。物証がなければ裁判沙汰には持ちこめないじゃない? だったら合法的な殺人も――、まあ合法というか検挙されないという意味だけど、やってみたいなっていう好奇心が湧いちゃったんだ。あはは……悠莉ちゃんが大好きな作家、アガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』みたいだね。ちょっとちがうけど大過ないでしょ。……これが悠莉ちゃんに懺悔しようと考えた動機だよ」

「よく、分かりました……。小流先輩の……私利私欲で……無辜むこの命を……(沙紀ちゃんの)婿むこの命を……奪ったんですね?」

「勘違いしてるかな、学問の発展に犠牲はつきものでしょ?」

 小流先輩は、涼しい顔をしていました。

前書きで記述した、「少女時代派? KARA派?」の話に戻りますが、わたくしは個人的には、KARAが好きです。


ツーリングの際によく聴いています。あとメディアへの露出などもKARAの方が多い気がしたので、親しみやすさとかを考慮した上でそちらを選びました。

言わずもがな、少女時代も大好きです。

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