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御寛恕できない人間感情  作者: 一二一二三
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聴取取調べ(Ⅱ)

さいきん、ここに書くネタがなくて困っています。一二つまびら一二三ひふみです。


センベイ先生は今年2月の中旬頃から自動車の教習所に通うそうです。なんでもハイスピードプランで速攻で免許を取ると息巻いていました。

新潟に住んでいるので雪道での走行になりますが、ぜひがんばっていただきたいものです。

運転免許取得者の方、そっち方面のアドバイスもお願いします。

感想(一言)のらんに書いてくだされば結構です。4月からは内定が決まっているので早めに取りたいんだそうです。

 私は奈保ちゃんを発熱した沙紀ちゃんの家に送ってあげてから、自宅に帰りました。

 自動車を運転している際、私は、『高島康平が事故死した』という、暫定的に有力な説を思考していました。

 しかしどうしても、彼がそんな単純な凡ミスをしたとは思えません。

 では、他殺でしょうか? たとえばだれかに薬を飲まされて、入浴中に昏睡したという可能性は十分に考えられます。カプセル薬ならば溶解に費やす時間(薬が効き始めるまでの時間)を調節することが可能ですからね。これなら康平に風邪薬を飲ませた人物を追求すればいいのですが、残念ながらその当事者は石田沙紀ちゃんでした。沙紀ちゃんは康平のカノジョですから、問答無用で犯人ではないと思います。もちろん根拠はありませんが。

「つまり、他殺でも自殺でも事故でもない……ということね」

 これでは死因が八方ふさがりのままです。

 私はガレージに車をとめて、玄関の戸を開けました。――自宅にはまだ数名、警察官が残っていました。

「おや、これは渡りに船ですね。吉岡悠莉さん。たったいま、あなたに、ご連絡を差し上げようと思ったところです」

 その人は、私を見つけると気さくに声をかけてくれました。

 昨日、事情聴取をしてくれたあの刑事さんでした。

「裁判所から、逮捕令状をいただいてきました。もう少しで、犯人の仕業が解明できそうです」

抑揚のない話し方で刑事さんは、「それでは任意同行をしていただけますね。吉岡悠莉さん。断ったとしても公務執行妨害で連行するつもりですが」

「…………はっ? 何を言われているのかサッパリなんですけど」

「仔細は署でお教えいたします」

「要するに、私に対する礼状が出されたってこと?」

「はい」

「証拠は? 物証は?」

「もろもろの確認は署でいたします」

「なになに? 私を犯人扱いするってこと? 留置場行きになるの?」

「それはございません。潔白を証明できれば、ただちに釈放いたしますよ」

 刑事はにっこりとした優しい声で、「ご同行願えますね」

「まだよくわかんないけど、わかったわ。あなたのことを信じるわね」

 こうして私は、覆面パトカーによって、警察署まで連れていかれました。

 ここまで読んでくださった皆様は、「小流先輩の讒言ざんげんが原因だな。適当な口実をつくって警察を騙くらかし、私を逮捕させたんだな」と、人並外れた的外れな推理をなさってくれたかもしれません。

 しかしそれはハズレです。単なるミスリードです。小流先輩を怪しませたのはこのためなんですよ。

 それでは私が逮捕された理由をひと足先に教えましょう。これはもう鑑識による調査の賜物でした。

私の自宅(お風呂場)にあった、シャンプーの空容器からはトイレ用洗剤の成分が、ボディーソープの空容器からはお風呂用洗剤の成分が検出されました。この2つは混ぜると塩素ガスを発生させることから、謀殺の可能性も視野に入れられたのです。そこで警察は家主である私を重要参考人として連行したのでした。

 取調室に入ると、目の前におごそかなデスクが置いてあり、それに則すかたちで向かい合うように椅子が並んでいました。デスク上にあるライトスタンドは、青い色で発光しており、鉄格子越しに差し込む陽光よりも心を落ち着ける効果がありました。

 書記官はひとり用のデスクにかけています。

「念のため、テープレコーダーで録音させていただきますね」

 あの刑事は、デスクを通した向かいに座るとレコーダーのスイッチを入れて、机に置きました。

「私への嫌疑は、そうとう濃厚なようですね」

 私がカマをかけてみると、刑事は驚いたように、「なぜそのようにお考えなされたのですか?」

 興味深げに訊いてきました。

「いえ、やけに凝った下準備をなされるものですから……」

 刑事の探るような視線を避けながら、私は苦笑しました。

 もしかして余計なことを言ってしまったかしら。

「全然お気になさらなくて結構ですよ」

 私のそんな心配を察知したのか、刑事は弁解を始めました。「これはいわゆる儀式みたいなものですからね。なにも記録が残っていないと、あなたの清廉潔白を証明することができなくなってしまいます」

「そうですか」

 私はブルーライトで照らされた刑事に向かって言いました。「ですが、叶うならもうひとつだけ教えてくれませんか? なぜ私に疑惑の目が向けられたのかを」

「公務員には守秘義務があります。破れば懲戒免職もあり得る大罪ですよ。申し訳ありませんが教えることはいたしかねます」

 私は軽く舌打ちをして、「じゃあ、私も黙秘権を行使しようかしら」

 刑事は一切動じず、部屋の隅で待機している書記官は鼻で笑いました。

「なかなかの度胸ですね」

 刑事はパイプ椅子から立ち上がると、あてもなく部屋中を彷徨し始めました。

「殺人を自供した犯人はこれから裁定される量刑よりも、家族は外道と化した自分を迎え入れてくれるだろうか、周りから白眼視されていないだろうか、などといったことを考えるのだそうです」

 刑事は歩行を中断して、「ところで吉岡悠莉さん。あなたの現在の心境をお尋ねすることはできますか?」

 私は首肯して、「溺死かそれともガスによる中毒死か、それは司法解剖をすればわかるのではないでしょうか。肺に水があるかないかによって……」

 刑事は頭をかきながら、再び私の向かいに座りなおしました。

「一般人は警察の捜査方針に無闇に口出しをしないほうがいいですよ」

 と忠告してから、

「それよりもガスによる中毒死とおっしゃられましたね? なにか知っていることがあるんですか?」

 私が塩素ガスを発生させるくだりを説明すると、「なるほどあなたもご存知でしたか。じつは警察もその方面で試行しているところなんです」

 当たり前だが、警察もあのトリックを看破していたようだ。

 しかしさすがは本場、私とは情報量がちがった。

「その結果、吉岡悠莉さんの自宅(お風呂場)にあった、シャンプーの空容器からは、トイレ用洗剤の成分が、ボディーソープの空容器からは、お風呂用洗剤の成分が検出されました。これについてなにか心当たりはございませんか?」

 それを聞いて、初めは当惑しましたが、

「ありません。ですが……」

 私は親友の石田沙紀ちゃんがお風呂掃除をしてくれたことを話しました。

「なるほど、それはたしかに怪しいですね。掃除中ならだれにも悟られず、ボトルに洗剤を流し込むことができますからね。それ以外に、心当たりはありませんか?」

「これで全部です」

「そうですか、お忙しいところお手数をおかけしました」

 こうして取り調べは造作なく終わりました。

 さきに述べておきますと、警察はすでに遺体を引き取っており、司法解剖もすすめていました。解剖の結果では、薬物反応や絞殺の痕はなかったことから、他殺ではない可能性が示唆されることになります。 つまり捜査方針は、事故か自殺ということになるはずでした。

 ですが、すでにお気づきの読者諸氏もおられるでしょう、警察は塩素ガスのトリックを見破っているわけですから、一元的な捜査にはならないはずです。

 そして読者様だけに最終ヒントを与えてしまいますと、肺には水がたまっていました。

 ということは、一般的に考えれば溺死ということになりますね。

 そろそろ事件の全貌がお分かりいただけたでしょうか? ――まだわかりませんよね。

 その焦れったさこそがミステリの真骨頂なのです。

 …………。

 仕方ありませんね、読者の皆様。

『ヒントは、これだけかよ』みたいな顔をしていらっしゃいますから特別スペシャルヒントを提示いたしますよ。

 ここまで読んでくださったお礼です。

 犯人は、小流杏子先輩です。

 そして塩素ガスによる殺人でまちがいありません。

 さらに、彼女が犯行をおかす、または事件を誘発するようなシーンは、じつは本文中にしっかりと描写してあります。

 皆様、これでようやくお分かりになりましたでしょうか? 分かった人も分からなかった人も、事後展開はさらにお楽しみいただけますから、犯人が分かったからいいや、ではなくて、最後まで読んでくださいね。

センベイ先生は4月から国家公務員になるそうです。


職種は興味がないので聞いていませんでしたが、もし気になる方がいましたら、ぜひわたくしにお尋ねくださいませ。胸臆を開いてお答えいたします。

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