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水本繁雄  作者: 柳田陽
1/2

渋滝トンネル

世の中どうなってやがる?

おもしろくない!全くもっておもしろくないぞ!

人類が思いのほか賢くない事には薄々気がついていたが。

「馬鹿は死ななきゃ治らない」

という言葉は裏返せば、

「馬鹿は死んだら治る」

ってことだろうが!

だが、今はっきり分かった。

人類は死後も馬鹿のままだ!


何が馬鹿かって、ヤツら人を見る目が無い!

俺は小学生の頃から心霊現象に遭遇して、心霊写真を撮る事を夢見てきた。

心霊スポットと聞けばすっ飛んで行ったし、

「掌のシワを赤で三角になぞると霊感がアップする、はたまた掌に赤で鳥居を描くと霊に遭遇する」

と聞けば

「どっちだよ!」と突っ込みながらもどちらも試した。

しかし、二択を迫っておいてどちらもハズレとは、そんな理不尽がまかり通ると思ってるのか?

その他にも色々試した、合わせ鏡、四面の部屋、コックリさん、しかし全てハズレのまま齢も19を数えた。

二十歳までに一度も見たこと無いやつは一生見る事が無いと言われているこの業界。

残された時間はあと半年、俺の焦りは今ピークに達している。


「あたしは33歳で、結婚を焦っている」

ジジイと結婚しろ。

「もうすぐ卒業なのに就職が決まらなくて焦ってる」

起業しろ。

「明日で30歳だけど、童貞で焦ってる」

風俗行け。

世の中、大体の焦りには解決策が用意されているが、俺の焦りには何の答えも用意されていない。

だからこそ、俺は誠意を尽くした!

尽くしてきたのに、、、ぐぎぎぎ、、、


写真部の部室であほ共がしゃべっている。

「昨日、エミたちと車で渋滝トンネルに行ったんだけどよ」

「え?こないだうちの大学の生徒が事故で死んだ所だろ?お前も好きだな」

「いや、それがよ、あそこはガチでヤバイぜ。トンネルの入り口でさすがにちょっとビビってたら、後ろからパキパキ乾いた音がするのよ」

「マジかよ?それで?」

「後ろを振り返ったら人魂が四つ飛んでてよ、慌てて車に飛び乗って峠を降りて来たんだよ」

「おいおい、怖えな」

「いや、まだ続きがあってよ、峠を半分降りた辺りで振り返ると後ろから車のハイビームで照らされてよ、なんだ?ってよく見たらエンジンの音はするのに車の姿は無いんだよ。あの光なんだったんだろ?」


ふ、ふ、ふざけるな!!

どう考えても何かを伝えたいんならあんなチャラいあほ共より俺の方がいいだろうが!

何時間でも話を聞くぞ!いや、聞かせて下さい!

道連れを求めてるんなら俺の腕力の無さったら凄いぞ!

さあ、殺れよ!どこへなりと連れて行けよ!

抵抗なんてしないぜ!無駄だからな!

全てを捧げる覚悟のある俺には何の音沙汰もなく、女とキャーキャーやりたいだけのあほ共には貴重な体験を与える。

こんな不公平は許さないぞ!!


「おい、水本、さっき月島からすげー話聞いたぞ」

「う、うん」

お前らはつまんねーくせに声がでけーから全部聞こえてたよ。

「なんかよ、渋滝トンネルに幽霊出るらしいぜ、お前も試しに行ってみろよ」

「う、うん、そうだね」

このあほが!俺様を誰だと思ってる!

そんな話を聞かされて黙っていられるか!


作品展に出す写真を撮るという名目で上げられる露出が最大のカメラを借りて帰った。

なんとなくだが、デジカメじゃ霊は写らない気がするのだ。

そもそも、芸術になんの関心もない俺だが写真部の中で1番カメラの知識を持っている。

それもこれも会心の心霊写真を撮るためだ。

この気持ち、今夜こそ届け!


帰宅し早速、カメラとライトを担いで自転車にまたがる。

月島のあほは車だからいいものの、自転車だと渋滝トンネルはなかなか思い出に残る距離だぜ。

夕方家を出て目的地に着いたのは深夜0時だった。

汗だくだ、これで何も起こらなかったら怒るぜ。

とりあえず、トンネルの中に入る。

ライトで壁を照らし、シャッターを切りまくる。

フィルムはしこたま用意して来たのだ。


トンネルを何往復も出たり入ったりで、かれこれ一時間ぐらいウロウロした。

なんかもっとこう、ゾクっと背筋が寒くなるとか、女の笑い声が聞こえるとか、線香の臭いがするとかそういうサービスは無いのか?

暗いだけで何の手応えもないぞ!

少し腹が立ってきたがここは辛抱だ。

明日部室で現像したらすげーのがデロンと写っているかもしれないじゃないか!


フィルムも残り少ない。何往復目だろうか、出口に差し掛かった時、強い光に照らされた。

「キャー!!」

女の叫び声、やった!ついに!!

「誰かそこにいるの?」

「おい、お前、人間だろ?幽霊じゃないよな?」

こちらからライトを当てて見ると若い男女が4人立っていた。

がっかりしながら答える。

「あの、はい、僕は人間ですよ」

女1「なーんだ」

男1「君、1人でこんな心霊スポットに来たの?」

「はい、まあ、」

女2「わかった!来てみたものの怖くなって入り口付近で入るか迷ってたんでしょ?」

男2「おい、ゆうこ、初対面の人に失礼だぞ」

女2「はーい、とりあえず一旦トンネルの外に出ましょう」


トンネルの外に出て街灯の下で輪になった。

こいつら、完全にナメてやがる。心霊スポットはダブルデートのためにあるんじゃねえ!、、、いや、待てよ、

このチャラさ!霊を怒らせるには持ってこいじゃないか!

月島のあほもここで霊現象に遭ったんだ。このパーティ、いける!!

聞いてもいないのにそれぞれ自己紹介なんぞ始めやがって、腹立たしい、だが今は、それがいい。


女1「君はなんていうの?」

「あ、水本、茂夫です」

男1「ふーん、水本っていうのか、こんな所まで1人で来れるなんて度胸あるんだな」

女2「水本君は大学生?」

「は、はい、そうです」

女2「どこの大学?」

「恩良大学です」

女1「うそ~私達も恩良大学よ」

男2「へ~偶然だな!」

つまんねーことペラペラペラペラしゃべりやがって。

そんな事どうでもいいだろうが。

そこから約30分、右から入って左から出るようなマヌケな会話が続いた。

だが、念願叶えるため仕方がない、ここは堪えよう。


男1「じゃあせっかく来たんだしそろそろ中入ろうか?」

女2「えー、本当に入るの?」

男2「嫌なら外で待ってろよ」

女2「そんなの余計怖いじゃん、一緒に行くよ」

女1「水本君はどうする?」

「あ、僕も行きます」

男2「よし、決まりだ!」

男1「ん?水本君カメラ持ってるの?本当に度胸あるな」

女1「そうだ、入る前にせっかく水本君に会えたんだからみんなで記念写真撮りましょうよ」

男1「じゃあ俺がシャッター押してやるよ」

記念写真だと?フィルムも残り少ないのにふざけんな!と普段の俺なら思うだろう。

だが、今、俺は猛烈に浮かれている。

間違いない、このあほ共のテンション、

俺なら七代祟る!

男1「はい、撮るよ~」

パチリ!

俺が出したこのピースサインは世間一般のあほ共が反射的にやるピースとはものが違う!

勝利を確信したヴィクトリーサインだ!


早速、ヴィクトリーロードを歩み出す!脳内BGMは威風堂々だ!

トンネルの半ばに差し掛かった頃、パキパキと音が聞こえた!

やった!!これがラップ音か!生まれて初めて聞いたぞ!

こんな人間の関節が鳴るみたいな乾いた音なのか!!

女2「ちょっと、変な音出さないでよ!怖いでしょ!」

男2「ごめんごめん、緊張して歩いてたらなんか膝が鳴っちゃって」

男1「運動不足なんじゃない?」

一同「あはははは」

あははじゃねえ!

俺の一瞬の感動を何だと思ってるんだ!

関節の音に聞こえたわけだ、関節が鳴ってたんだからな!

なんと、もうすぐ片道終了してしまう。

急いでカメラのシャッターを切る。

女1「ちょっと、水本君、そんな事して霊が怒って出てきたらどうするの?」

「あ、うん、ごめん」

霊が出てこない事を願うんなら心霊スポットなんか来るなよ!!

お前はディズニーランドでミッキーが現れないよう願うっていうのか?

何も起こらないまま、あっけなく片道が終了してしまった。


一旦トンネルの外に出る。

女2「なーんだ、なんにもいないじゃん」

男2「そんな事言いながらトンネルで俺の手をギュッと掴んでいたのは誰だよ」

女2「えへへっ」

とりあえずお前ら2人は死刑だ!

しばらく、くだらない雑談が続く、

すると突然茂みから小さな光の粒がフワリと舞い上がった!

出た!オーブだ!これが出たとなると霊体本体が近くにいる!

急いでカメラを構える!

男1「郊外まで来ると蛍も見れるんだな」

女1「本当、綺麗ね」

蛍だと?そんなもん撮りに来たんじゃねえ!

男1「蛍も見れたし、そろそろ戻ろうか?」

女2「うん、もう深夜2時だしね、帰って寝なきゃ」

おいおい、マジか?折り返しは本当に頼むぞ!

祈るような気持ちで足を進める。

頼む、頼む、、、


やはり今回もダメだった。

エクセレントな心霊体験は次におあずけか。ちくしょう。

今から自転車で飛ばせばちょうど、大学の門が開く頃か。

こうなったら一刻も早くフィルムを現像したい。


男1「水本君は車で来てるの?」

「いえ、自転車です」

女2「ねえねえ、水本君、お家はどこなの?」

「髪久世町です」

一同「えーっ!!そんなに遠くから自転車で来たの?」

男2「車に自転車積めるから一緒に乗って行きなよ」

男1「うん、そうしな、家まで送ってあげるよ」

うるせーな、この役立たず共が、こんな奴らとこれ以上、一秒も一緒にいたくない。

「あ、僕、大丈夫なんで、自転車で帰ります」

そう言い終わるかどうかで俺は自転車めがけて走り出し、さっさとまたがり漕ぎ出した。

一同「ちょっと水本君!」

4人は一斉に追いかけて来た。

なんだコイツら、ちょっと話してやったくらいで馴れ馴れしいやつらだな。

なぜか必死に追いすがってくる4人を俺もムキになって引き離した。

役立たずなクセになかなか足の速いヤツらだ。

しかし、最早、用済みだ。

大学で会っても馴れ馴れしく話しかけてくるなよ。

アディオス!


峠を半分くらい下った頃、後ろから車でヤツらが追いかけて来た。

軽快に下り坂をぶっ飛ばす俺の行く先をハイビームで照らしてくれているらしい。

群れたがりのあほ共には困ったものだが、まあ視界が良くなった事は確かだ。

一応、礼だけは言っておいてやるよ。

ありがとな。


なんとか眠い目をこすりながら大学までたどり着いた。

もう、しばらく自転車には乗りたくない。

早速現像室でフィルムを焼く。

まだかまだかと暗室で浮き上がってくる像を眺めながら俺の胸は子供のように高鳴った。

大丈夫!今回は絶対写っている。

写真の数が多くて、なかなか大変だったが苦ではない。

写真の束を持って部室へ行く。


霊は、、、写っていない!これも!これも!これも!これも!

ぬおおおおおおお!!!!

写っていないだとおおおお!!

ふざけんなー!!

俺は頭にキたぞ!!何が心霊スポットだ!!

月島の話もきっと目立ちたいがためにでっち上げたホラ話なんだろうよ!!

あー馬鹿馬鹿しい!

完全に時間を無駄にした!

もう今日は授業も出ずに帰って寝るぞ!

「おお、水本、たくさん現像してんな、作品展に出すヤツか?ちょっと見せてくれよ」

いつものあほ部員か、こんなヤツにかまってないで一刻も早く寝たい。

渋滝トンネルはあまりに遠かった。

「うん、いいよ、でも、もういらないから捨てておいて」

よろける足で部室を出た。

早く帰ろう。


「その写真なんだ?」

「おう、月島、俺冗談で言ったのに水本のやつ、本当に渋滝トンネルに行って来たみたいだぜ」

「うげ、マジかよ。あんな怖えとこよく1人で行けるよな」

「これ、自動シャッターで撮ったのかな?一枚だけトンネルの前で水本が写ってるよ」

「あいつ、こんな暗い所に1人、満面の笑みでVサインかよ、俺、

水本の事あんまり知らないけど、案外凄いヤツなのかもな」


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