インスタント兵士 :約2500文字 :SF
よおよおよお、ようこそ。焦げた肉と鉄が香る素敵な戦場へご来場いただき、誠にありがとうございます。
本日のディナーはシェフ自慢の人肉となっております。焼き加減はレア一択。素材の持ち味を存分に活かした硬くてしつこい一品です。でも、それが癖になるんだよ。
明日のモーニングも人肉。ランチも人肉。ディナーも人肉。お前さんが生きていようが死んでいようが、その献立だけは変わらない。皿の前に座るか、皿の上に座るか。違いがあるとすればそれだけだ。なあ、些細な差だろう?
さあ、おれの言葉をよーく噛み締めろよ、新人。
あー、おほん。我が軍は、人類史上最高に最低でいかれた発明を成し遂げた!
その名も――“食べられる兵士”だ。
ああ、もちろん正式名称はもっと長ったらしくて堅苦しいぞ。第何とか戦術適応かんたらとか、軍事何とか資源管理だとか、まあ、覚えるだけ脳の無駄遣いだな。硬いのはお偉方の頭と肉だけで十分だって話。名称が短いほうが地獄に提出する際に楽だろう。
さて、胎児の段階で遺伝子をいじくり回して、親の望みどおりのガキに仕立てる技術があることは当然知っているよな。
運動神経を良くしたり、病気に強くしたり、目の色や髪質を変えたりと、クソほど金がかかるが、だいたい何でもできる。だが、できの悪いガキを育てるのにも金がかかるんだから同じこと。むしろ最初から当たりくじを引けるんだから安上がりだよな。金持ちって、なんであんなに計算が得意なんだ? それとも計算が得意だから金持ちになれたのか。卵が先か鶏が先かってやつだな。まあ、卵がなくても、鶏でも鷹でも作れる時代なんだがな。
そうして生まれたのがおれたちさ。ああ、皆まで言うな。わかってるよ。おれたちの親は金持ちなんかじゃない。顔すら見たことがないが、たぶん見られたもんじゃないだろう。墓の中にいるのならまだマシかもな。喋らない分、憎たらしさは差し引かれるからな。
最新技術に真っ先に触れられるのはどんなやつだと思う?
金持ちと最底辺さ。もちろん、前者は客で後者は実験台だ。
おれたちは“改良”されて生まれてきた。兵士として使うためにな。
身体能力の強化と成長速度の促進。十代前半で立派な鉄砲玉の完成さ。ただ、頭の出来はさほど良くない。賢くしすぎると上官を撃ち殺しかねないからな。
もっとも、そのあたりはおまけみたいなもんだ。遺伝子をあまりいじりすぎると失敗率も上がるし、金もかかるらしいからな。
だから本命は別にある。
そう。“食える”ことだ。
戦場で死んだ仲間の肉を食うことで、そいつが持っていた記憶や技能の一部を取り込めるのさ。すげーだろ。
ほら、経験は何にも勝るって言うだろ? 射撃に索敵に危機察知能力――そういった経験や勘が要求される技能は兵士なら誰もが涎垂らして欲しがるもんだ。それをただ食うだけでほとんど受け継げるのさ。構え方や照準を合わせるときの癖、反動の逃がし方まで、まるで自分が昔から知っていたことみたいに身体に馴染んでくる。目で見て覚えるのとは違う。頭で理解するより先に身体が勝手に動くんだよ。訓練に何年もかける必要もなければ教官にぶん殴られる必要もない。いや、殴られはするかな。だが安心しろ。うまい殴られ方は特に染みついているからな。
ほら、昔もあっただろ。食えるノートだの食えるトイレットペーパーだの、資源の有効活用ってやつさ。おかげで基地へ輸送する食糧を減らして、そのぶん弾薬を積めるってわけ。おいおい、いったい一石何鳥だよって話。計算が苦手なもんで――クソでも食ってろ、ゴミムシ野郎!
おっと、悪い悪い。口が悪いのはカイだ。こんなふうに食ったやつの人格がこっちの精神に影響を与えちまうこともあるんだよ。
クソと一緒にひり出せたらいいんだが、あいにく吸収率が良すぎるもんでな。長い付き合いになるぞ。
まあ、クソした程度で全部忘れちまうようじゃ意味がねえからな。お前さんも長生きはしたいだろう? 多少うるさい同居人が増えるくらいで生き延びられる可能性が上がるなら万々歳さ。諸手を上げて歓迎ってわけ。頭から脳みそぶちまけるよりは、口からクソみてえなことを垂れてるほうが、よっぽどマシだ。
本当に……本当に死にたくないよお、死にたくない! 死にたくない!
あっと、悪い。ケビンはヒステリックなところがあってな。
おいおい、そんなに引くなよな。大丈夫だ。食った肉の持ち主に精神を乗っ取られるなんてことはねえから。お前さんの目ん玉に指を突っ込んじまうなんてことはねえよ。
まあ、あまり煙たがってくれるなよ。死んだ仲間がいつまでも自分の中で生き続ける――ほら、そう言えば聞こえがいいだろ?
ロマンチストなのはカリーの影響だ。よろしくどうぞ。
まあ慣れちまえば、この暮らしも案外気楽なもんさ。撃って、殺して、食って。撃って、殺して、食って。撃たれて、殺されて、食われて……なーんてな。でも、エコだろ?
まあ、自分が死んでも味方の中で生き続けるって考えれば、少しは死の恐怖も薄れるんじゃないか。そんなことない! 僕は死にたくなかった! 帰りたい!
ははは、こらこら、落ち着けよサミー。ま、食うのが味方の肉だけでよかったと思おうぜ。もし敵まで食えたら、頭ん中がどえらいことになりそうだ。殺してやる! 殺さないでくれ! 死ね! 殺す! やめろ! 痛い! ざまあみろ! 嗚呼、どっちがどっちで、どっちがどっちだ、どっちやらってな。朝も昼も夜も頭蓋の内側で敵味方が喚き続ける、地獄の箱庭の完成だ。自分が誰なのかすらわからなくなるぜ。ははははははは!
さて、まあこんなとこだ。初心者講習はこれにておしまい。おれの説明でわからなかったことは? へへ、ないよな。口が達者だって仲間内で評判なもんでな。
どうだ、ちゃんと飲み込めたか? ん? どうなんだ?
ははは、どうだい。うまかっただろ。
おれはよ。




