前世を思い出した国王、人妻を娶り過ぎて妻が1000人を越える
アグラス王はある日、唐突に前世を思い出した。
寵愛を受けるシルヴィアは正妃より着飾って、ベタベタとアグラス王の腕に絡み付き、楽しげに話している。
それが厭わしく感じた。
アグラス王の前世では実家の権力順に正妻が決まる。権力のない妻は実家が整える衣食住も整えられず、見窄らしくなるからだ。
だが、この国では夫の財力頼りで、夫に愛されるかどうかが、予算配分に反映される。実家からの援助が無ければ、その妻は見窄らしくなるのだ。
だから、正妻――第一夫人が同じ権力順でも、寵愛を得ていたシルヴィアは正妻以上に着飾ることができた。
「シルヴィア。節度を持て」
「どうかしたんですかぁ、アグ?」
可愛らしいと思った舌足らずな話し方も、癪に触る。
ああ、節度を持てと言ったにもかかわらず、従わない言動が気に障ったのか。とアグラス王は自己分析した。
「シルヴィア、謹慎を命じる」
「ええ〜? どういうことですか、アグ?!」
「謹慎ができぬなら、離縁だ。酌婦のような妻は要らぬ。連れて行け」
「はっ」
二人の散策の警護を務めていた騎士たちが答え、一人がシルヴィアの手を引いて連れて行く。
「アグー! アグー!」
アグラス王が思い出した前世は昔の東アジアの記憶だった。
今と同じように一夫多妻だったが、似て非なる制度の国であった。
「正妃に先触れを出せ」
◇◆◇
「正妃。余は妻を娶ろうと思う」
「左様でございますか」
言葉は丁寧だが正妃の声は取り付く島もないほど、素っ気ない。
それはそうだろう。
側妃であるシルヴィアを寵愛し、正妃を蔑ろにしていたのだから。
「其方は貴族の第一夫人で蔑ろにされている者がわかるだろう。リストを作れ」
「・・・? 人妻を娶るお積りで?」
正妃にはアグラス王の意図が読めなかった。
それはそうだ。
側妃であるシルヴィアを寵愛し、正妃とは距離を置いていたのだから。
今更、シルヴィアと離縁しても、その考えがわかるほどの付き合いはない。
「夫が大切にしない妻でも、政略結婚の旨みがあったのであろう? それなら、余が娶れば、王家にも利益があるはずだ」
「なんということを。政略結婚ですのよ?!」
「政略結婚は結婚しているという事実だけで、正妻を虐げても構わない等という戯言を言わせるものではない」
「ですが、これは政略結婚です!」
「それが破綻しているから、余が娶るというのだ」
「・・・?」
言葉を重ねても、やはり、正妃にはアグラス王の意図が伝わらない。
「わからぬなら、余の命に従っておけ」
「かしこまりました」
◇◇◆
正妃は命じられた通りにリストを作成した。
リストアップされたのは、下は結婚年齢の最低限である14歳から上は86歳まで。計1034名。
その数に正妃はさもありなん、と思った。娘を嫁に出すことは、事業提携の証でしかないからだ。
ある家など、当主の母親、妻、息子の妻と三世代がリストに載った。
これには、リストを作った正妃も驚いた。
アグラス王はそのリストにある人妻を離縁させ、娶った。
王宮の宮の幾つもが王の妻たちで溢れ返った。実家の身分の低い妻はメイドとして宮で働き、実家の身分のある妻たちは主人格として収まった。
そんな彼女らに正妃を立てるように、アグラス王は命じた。
それが彼の前世の価値観だからだ。
このことに妻たちは不満がなかった。
地獄のような婚家から出られたのだ。
メイドとして働く妻たちにも異存はなかった。アグラス王は再婚者に対して、白い結婚を提案したからだった。
妻たちの実家も不満はなかった。
面会も比較的自由で、数年ぶりに顔を見られた。数十年ぶりに笑顔を見られたと好評だった。
夫にとってはどうでもいい第一夫人も、誰かの娘であり、姉妹であり、叔母である。
蔑ろにされて、良い気はしなかった。
それでも政略結婚の旨みがあるからと、妻も親族も双方が耐えた。
その政略結婚の旨みも、国主導の事業にとって代わられた。
第一夫人を冷遇していた家は没落していった。
そして、アグラス王と再婚することで自由になった元第一夫人たちは、政略結婚をする意味がなくなった為に下賜という形か、一度、離縁をして想う相手と結婚をした。
アグラス王の寵愛を受ける妻もいたが、彼は正妃より上に出ようとする妻を容赦無く離縁した。
それが彼の前世の価値観だった。
恋愛と権力は別。
国王を侮っていた貴族たちも気を引き締めた。
後世、アグラス王は人妻を奪って妻の総数が1000人を越えた好色王だと言われたが、彼のおかげで、非常に信頼できる国だと、周辺国に言われるようになった。
すべては、政略結婚の正妻を大事にするようになったからである。
正妻も他の妻や愛人の子どもが後を継ぐのは面白くはないが、誰もが正妻を大事にするので、見苦しい振る舞いが出来なかった為に家内が荒れにくくなったそうな。




