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妹を誘拐したと頬を叩かれたが真相は真犯人が気に入らない長女を消すためにした母親の自作自演だった

作者: リーシャ
掲載日:2026/07/20

 妹はまだ幼い。だから、一人で行動させないようにしていたし、うちは貴族なので使用人たちが面倒を見てくれているから親や姉妹が見る必要はない。


 昔からそうなので見るという意識がないのだ。だからだろうか。今日妹が昼にいなくなったと帰宅して聞かされる。そうなのか、としか思わなかった。

 妹は歩くことがまだできないから誰かが連れていくことでしか移動は無理なのだ。

 自ずと誘拐という認識で屋敷全体が固まっている。そうはいってもセキュリティが万全なところでどうやって連れていったのかという疑問はある。


 身内の犯行ではないかと警らは言う。いなくなった時間のアリバイを聞かれて、本当に聞くのだなと他人事で思った。


 いなくなったときかされても、だれかが散歩をさせているのではないかと薄っすら楽観視を心理的にやってしまっていたのだと、後から指摘されて言われてみればそうかもしれないと納得する。


 とは言え、やはり赤ん坊の行方など知るわけもないのでどこにいるのか探偵のように予測することもできない。


 夕食の時間になって食卓に行くと父が席に座っており、母はいなかった。


「お母様は」


「食欲がないと部屋で休んでいる」


 そう言えばいなくなったと聞いた時から姿を見ていなかった。てっきり出かけていなかったと思っていたのだが、屋敷にずっといたらしい。


「お前の妹のことは聞いているな」


「はい」


 食事に手をつけつつ返事をする。父はあまり話さない方で、シンリアも同じくあまり話さない。


「あの子に会ったのはいつだ?」


「生まれた時です」


 父の手が止まる。


「一年以上会ってないのか?」


 問われても意味がわからなかった。


「お母様が近寄ると嫌がるので」


 シンリアは素直に答えた。母は妹を溺愛している。シンリアはそんな母を一度も見たことがなく、妹を見に行ったというより母を観察しに行く目的が当時は強い。


「免疫力が少ない妹に近寄ると色々なものが移るから話しかけるなと言われましたので」


「……あいつがそれをお前に?」


「はい。私ではなくても大人たちが囲んだら移るのではないかと指摘しようとしたら部屋から出されて、今も言えずじまいです」


 妹がいることは知っているが妹が可愛いとか憎いとか嫌いという感情は、そもそも近寄ってもいないので生まれようがない。


「そんなことは初めて聞いた」


「そうなんですか」


 父はその時初めて、親への認識と妹への愛が欠片もないとわかったのだろう。酷く驚いていた。今更妹に関われと言われても他人の子供という感覚しか生まれなさそうだ。


「母親と話したのはいつだ」


「妹に近寄るなと言われて以来でしたら、ないです」


「会話をしていないのか」


「はい。私を好きではないようなので」


 そんなことはないと口を開きかけたが、何年も話していない上に最後に話したのは会話ではなく姉妹を差別するような注意。それは話したとは言わない。言わなければいけないことを言っただけだ。娘だから言ったのではなく、自分たちの世界を作るために隔離を企んだ台詞。


「気付かなかったのは私の落ち度だ」


 食卓のことを思い出しても母が娘に話しかけたり興味を抱いたりしていなかったことを思い出す。妻が語るのは妹の方ばかり。姉の時は同じ歳の時に同じ熱量で話していたか思い出したものの、無関心で乳母に任せっきりだった。


「そうなのですね」


 なぜ妹で急に育児に興味が出たのか。姉と妹で何か違いはあるのだろうか。


「母親はなにか言ってきたか」


 今回の事件で一番取り乱しているのは母親だ。


「特に何も。私に話しかける人ではないのでこのまま今まで通り話しかけて来ないでしょう」


 母親ではなく同居人を語る温度だ。父親にはまあまあの親である相手への温度を感じるからこそわかる。


「そこまで遠ざけていたのか」


「気付かないのも仕方ありません。興味がないのは私も同じなので」


 それは家族に対してなのか母親に対してなのか、父親や妹に対してなのか。全てなのか。シンリアは何も写さない瞳をしていて、今になって教育以外にも与えられなかったものがあったことを当主は知ってしまった。


 母親に期待しても絶対に可愛がったりしないだろう。乳母に育てられたから子供とは思えなく、妹は自分で育てたから愛着が起こったのかもしれないと思案。


 食事終わりに呼び止めて紅茶や菓子を食べなさいと慌てて言うと、何を言われているのかわからない顔をした娘。父親は冷や汗をかき、これに気付かなかったことに唖然とする。


「最近どうだ?」


「最近?特になにかはないです」


「それはそうだな」


 何か特別なことがあったとも聞いていない。


 バンッ


 ドアが突然乱暴に開け放たれて、そちらに顔を向けると目のところを赤く腫らした妻が立っていた。乱暴にこちらに足音をさせ、長女の方へ来ると徐に手を振り上げた。

 気づいた時には娘が音を立てて椅子から弾き飛ばされて落ちていた。鈍い音を立てて皿も菓子も地面に落ちて割れる。使用人たちが取り押さえるが妻がヒステリックに色々叫ぶ。


「お前が妹を攫ったんだわ!誘拐するなんてなんて卑しい子なの!嫉妬するのなら私に文句を言いなさい!聞いてるの!返事をしなさい!これだから私の子供と思えないのよっ。自分の手で育てた妹はあんなに可愛いのにお前はちっとも可愛くないわ。無表情だし、私を見る時のめなんて他人を見る目よね!あなたがそんなんだから私はあなたを愛せないのよ!全部お前のせいなのに妹に八つ当たりして誘拐するなんて、恥を知りなさい!」


 妻が何を言いたいのか大声で聞き取りづらかったが、つまりは妹を攫ったのは姉で。今まで話しかけなかったのは育てたのは自分じゃない。だから、妻が自分から寄り添うことがなかったことを棚に上げて他人に対応するように見てくる子供が嫌で、遠ざけていた。


「あなたが消えればいいのよ!出ていきなさいよ!私たち家族三人の中から出ていきなさいよっ!」


 子供は叩かれた頬に触った体勢で倒れたまま、俯いていた。父親は娘を抱き起こすと母親に鋭く黙れと叫んだ。


「なによっ」


「黙れと言ったのがわからんのか!?」


「な、私に向かって怒鳴るなんてっ。あなたの妻なのよ!?」


「妻である前に子供の母親だろう!他人に育てられたからと子供ではなくなるのなら、私は両親の子供じゃなくなることになるんだぞ?お前だって両親から丁寧に世話をされたのか?理論が破綻しているのがまだわからないのか?」


 父親はまた声を吸う。


「それを言うのなら、貴族のほとんどの人間は全員家族じゃないということになる。貴族たちは基本親に直接的に世話をされないとわかっていての発言なのか?まさか、うちだけがそんな特殊なお前が勝手に決めたルールで家族じゃないなんてか言ってるんじゃないな?」


「え、な、そ」


 母親は真っ赤な顔を青くする。


「娘を濡衣で叩く思考になる前に、お前は私と話すのが先だった。子供は私たちが決めて生まれてきたんだ。お前の腹に無理矢理入って生まれたわけじゃない!私たち二人が決めて生まれたんだ。勘違いするな!わかったか!?」


「ひ!だ、だっ、て……!この子が、誘拐した、から」


「どうやって使用人に囲まれている中で手際よく見られずに誘拐できる?四六時中あの子には目があった。お前ももちろんわかってるとは思うが。その疑問を無視して楽な方に考えた結果が今なんだろうな」


 父親は蔑んだ目で妻を見た。家族として愛していたが、さすがに問答無用で暴力を働いた妻を見過ごすにはやり過ぎた。


「ち、ちが、この子は、家族じゃないのよ?私たちの子供じゃないっ」


「子供の前にお前はいつこの子の母親になった」


「……え」


「妹みたいに撫でたのか?褒めたのか?名前を呼んだのか?最近話したのは何年も経ってだろう。お前は家族という言葉を自分勝手に使う。私も悪いとわかっていて、言う。今叩いたお前はどの立場で叩いたんだ。今さら母親だとは言うなよ」


 母親は何か言っていたが、使用人に閉じ込めておけと当主に言われた者たちに連れられて去る。


「大丈夫、ではないな。医者を呼ぶから休みなさい。守ってやれなくてすまなかった」


「いえ、なんだか納得しました」


 娘は相変わらず興味もなさげに連れられていく。その後、一時間も経たずに妹は見つかった。母親の部屋にあった洗濯籠の中にいたのだ。子供部屋から自分の部屋に移した母親は少し別のところへ腕を休めるために置いたあと、使用人たちに休むから何か持ってきてくれと言った後十分ほど居眠りして、その後娘が動き籠に紛れ込み運ばれたのだとわかった。


 つまり。


「犯人はお前だった」


 ぶるぶる震える妻が耐えられないとばかりに泣く。


「私、本当に少し眠っただけで。あの子が私の部屋から攫ったと」


「お前の部屋にあの子は一度でも入ったことがあったのか?」


 ないと知っている上で聞く。


「分かりません。だって、あの子はたまにこちらの部屋に近寄って見てきて。あの目、私を見てくるのが嫌で」


「普通ならお前があの子を部屋に呼んで茶をしたりするのが、親子だと思わなかったのか?近寄ったのは子供なら親の視界に入りたいという意思表示だろう。お前の勝手な被害妄想だ。本当に娘を娘と思ってなかったんだな。よく、わかった」


 父親はふうと息を吐き離縁届けを突きつけた。


「え、なぜ、見つかったのに」


「自分の非を娘にわかっていて濡衣をかけた以外に、なにかあるのか」


 低い声で怒りを装った様子に母親は後ずさる。


「書け」


「嫌ですっ。なぜ私が!?」


「なんの罪もない子供に手を挙げた女が母親なのは教育に悪い」


「そんな!あ、その、あ、あの子だけでも。次女だけでも連れて行きたいです!」


 言うと思っていたが本気で言うとは。


「お前の言い分じゃ親が育てなければ家族ではなくなるんだから、気にする必要もなくなる」


「あの子は私の娘です!」


 男は女をじっと見つめて自嘲した笑みを浮かべた。


「そんなものは大きくなったら忘れる。お前が母親と覚えている長女の方は忘れられない可哀想な思いをさせるがな」


「な、またあの子のことばかり!」


 手を腰に叩きつけて癇癪を起こす相手に男は気にも留めない。


「誘拐だのなんだのと騒いだ挙句に子供に罪を着せるお前に育てられなくて、今心底安心しているよ」


 *


 シンリアが婚約者に語った結末に彼は度し難いと言いたげな顔をする。長女と婚約してまだ二年しか経過していないが母親と違い感情型ではないことも知っている。妹の誘拐などと言う感情の爆発的行動などあり得ないとわかっていた。


 母親はそれすらわからず自分勝手な持論で濡衣を被せたのだ。気に入らなかった娘を家から追い出せると一石二鳥を狙ったのかもしれない。聞いてもどうせ素直に答えないだろう。


「災難だったね。叩かれたところは今は」


「もう腫れもなく違和感もないです。暫し食べにくかったのは辛かったですが」


 静かに答える女の子はどんな感情なのか悟らせてはくれない。実は傷ついているのか平気なのか。


「でも、今回のことで利益もありました」


「母親は離婚なんだってね」


「それよりも、母親として扱わなくてもよくなってホッとしてるんです」


 思っていた返答ではなく、男の子は目を丸くする。


「どうして?」


「同居人として思っていたのに周りは母親として認識していて面倒でした。母親との思い出を語る人たちの前で話せることもなく、どんな声なのかも正直忘れてるくらいで」


 父親に話しかけるからどんな人なのかはなんとなくわかっていたが、こちらを見る目に邪魔者を追い出したい気配を察していつもどうすればいいか、と悩んでいたらしい。


 なんという母親なんだと婚約者はため息を吐く。女子を邪魔に思うなんて。


「叫ばれた時にやっぱりそうなんだったのかとか、私と思っていたことは同じだったんだとか、安心したんです。私もあの人もお互いの存在を退かしたがっていたと」


 シンリアは紅茶を一口飲む。婚約者の男はそれもそうだと頷く。話しかけないのに邪魔するなという視線だけ寄越されれば、同じく子供も親を邪魔に感じるのはわかる。

 無理矢理家族になったのではなく親が生まれろと望み生まれたのだ。決めたのは両親なのだから邪魔に思われる筋合いはない。


 親の庇護下に置かれるはずの子供がその庇護してくれるはずの大人からすげなくされるとなれば、次の相手を変えたいと感じるのは自然なこと。父親もいまいち気づいていなかったというのだから呆れた。


「僕の母上たちがいる。自分の親だけに決めるのは時期尚早だ」


「あなたの親なので」


「気にしないで。兄弟たちもいっぱいいるから別に構わない。婚約者だけどお試しに妹とか姉に囲まれてみてはどうかな」


 彼の兄弟姉妹の数を思い出し、彼方に行くといつももみくちゃにされる未知の体験を受ける。それはとても嫌なことではない。小さな子に絵本を読んでくれ、髪を触らせてくれ、ごっこ遊びしようと手を掴まれる。


「いつも真面目に付き合ってくれるから毎日呼べって言われてるんだよね」


 彼が苦笑してくる。別に構わない。


「妹がもう少し成長したら連れて行ってもいいですか?」


「勿論、いいよ」


 彼の人に与える優しさは心を温めてくれる。凍りついた口元はいつの間にかわずかに緩み切っていた。婚約者と会うといつもこうなることを両親は知らないままだろうな、と他人事に思いつつお喋りを楽しんだ。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。ブクマも是非。今回の話は「犯人お前やないかい!」です。

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妹が何歳か知らないけど、動ける成長の赤ちゃんを部屋に置いて何十分か昼寝って怖。。現実の母は寝落ちでやっちゃいますけど、貴族なら使用人いるのにね。 一緒に昼寝なら、そもそも、姉が部屋に入った時(としたら…
生んで愛せたらよかったのにね 生んだのに愛せないというのは母親の精神にも異常をきたすもんだ
まぁ家族とは言え性格も違えば相性があるので、合う合わないは仕方が無いとフォローしつつ 妹が生まれて産まれた子を守らなきゃなガルガル状態からの長女遠ざけが発端で、母娘関係がトコトン噛み合わなくなった、っ…
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