9話 互いのこと
「――それにしても、ここのスイーツは噂通り美味しいね」
「はい。ディスユイル様のケーキも美味しそうです」
「うん、美味しいよ……あ、そうだ! 君も一口食べる?」
リシュラはミルフィユをからかうようにそう言いながら、フォークでショートケーキを一口切り分け、「あ~ん」と彼女の口元に近づける。
きっと、これでミルフィユの焦る姿が見れるはず。
そうたくらんだリシュラだったが、ミルフィユの予想外の行動で、彼のたくらみは一瞬にして崩壊する。
「――それじゃあ、遠慮なく」
先ほどまで、リシュラが使っていたフォークに、食べかけのショートケーキ。それが何だとでも言うかのように、ミルフィユはためらいもなく、差し出されたケーキをパクリと口に含む。
「!?」
顔を真っ赤にさせながらカチコチに固まるリシュラの様子に、ミルフィユは焦り半分、戸惑い半分の表情を浮かべる。
「ディスユイル様……!? か、顔が赤いですけど、大丈夫ですか……?」
「だ、大丈夫。大丈夫だから……!!」
まさか風邪? とまるで自分のことのように焦るミルフィユを安心させるように、リシュラは顔をパタパタと手で仰ぎながら大丈夫と繰り返す。
「ただ……今みたいなことは、僕以外にはしないでくれよ……?」
「え? えぇ……第一、ディスユイル様以外に、二人でお出かけするほど仲が良い人はいませんから」
「いやでも、万が一のために、ね?」
鈍感だなぁ、この子は、と思いながら、リシュラは一向に収まる気配のない頬の熱が早くひくよう祈る。
「――あ、そうだ! ディスユイル様も、私のタルトを食べますか?」
「いや、食べないから!!」
全力で自分の申し出を拒否するリシュラをみて、「そうですよね……」とシュンとなるミルフィユ。
「や、君の食べかけが嫌とか、そういうのじゃなくてさ……!! ほら、ここは公共の場だから、気軽にそういうことをするのは良くないんじゃないかなぁと思って!」
「……そういうものですか?」
「そういうものなの!!」
口元を手で覆いながら、リシュラはこの子と居ると調子が狂うと考える。……まぁ、自分からミルフィユを誘ったし、何なら一連の彼女の行動も、自分のせいなのだが。
「……しかし、迷惑、でしたよね」
「!!」
見るからに落ち込んでいるミルフィユを見て、リシュラは己の考え事など一瞬で放棄して、彼女を励ます方向へとシフトチェンジする。
「迷惑とかじゃなくて! それに、元々は僕の方から言い出したんだし……」
「キャ――ッ!!」
リシュラが言い訳じみた発言を繰り返していると、彼の声を遮るかのように、耳をつんざくかのような女性の悲鳴が辺りに響く。
スイーツ店内にいた人々も、突然の出来事に何事かと混乱し始め、店員たちもてんやわんやしている。
「――ッ!! 行きましょう、ディスユイル様!!」
「え、ちょ……!? スイーツは!?」
「そんなものを悠長に食べている暇なんてありませんから! とにかく、早く!!」
変な所で真面目だなぁ、と思いながら、ミルフィユはリシュラの手首をつかみ、力強く引っ張る。
急な出来事に慣れているかのように、瞬時に動くミルフィユ。
しかしリシュラの見間違えでなければ、彼女の額には、無数の冷や汗が浮かんでいた。




