8話 スイーツ店
「いらっしゃいませ!」
店員のさわやかな挨拶に出迎えられながら、ミルフィユとリシュラは、スイーツ店に入店する。
「わ……!」
店に入った瞬間に目に入る、カウンター脇にあるショーケース。
ショーケースの中に納まっているスイーツたちは、宝石のようにキラキラと輝いており、ミルフィユは一瞬にしてくぎ付けになる。
「ディスユイル様はどれになさいますか?」
「うーん、そうだな……僕は無難に、ショートケーキにしようかな」
どれにしようかと悩むミルフィユに対し、リシュラはあっさりと注文を決める。
「……じゃあ私は、レモンタルトにします」
ミルフィユはリシュラを待たせては悪いと思い、大人しく自分の好物に決める。
「了解。注文は僕が済ませておくから、君は適当な席に座っていてくれ」
「え? でも……」
さすがに申し訳なくて、リシュラの申し出に引き下がるミルフィユだったが、「いいからいいから」とリシュラに優しく背を押され、渋々、二人で座れそうな席を探す。
「あのぉ……注文はお決まりでしょうか」
そんなミルフィユのことをほほえましげに見つめていたリシュラだったが、店員の一言で我に返り、注文を進める。
「……あ、お客様方は恋人でしょうか?」
「こ、こい……っ!?」
会計を済ませようとしたリシュラは、店員の唐突な質問に、顔をブワッと赤くさせる。
「実は、この店では恋人のお客様に割引をさせていただいており……」
「あ、そういうことですか……」
宰相の息子であるリシュラには、割引なんて必要ないくらいには金がある。
だがしかし、”恋人”という言葉の響きには、どうしても魅かれる。
(……って、何考えてんだ、僕! 嘘をつくのは良くないだろう!!)
いや、待てよ。先ほどだって、ミルフィユは自分に嘘をついたのだ。こちらも一つぐらい、嘘をついたっていいだろう。
「あ、あぁ。ぼ、僕らはその……恋人、です……っ!!」
「お、お待たせ!!」
リシュラは注文を済ませた後、商品をもって一人静かに席に座るミルフィユの元に近づき、そう声を掛ける。
しかし、先ほどの出来事の後ろめたさから、ミルフィユをまっすぐに見つめることができない。
「?」
様子のおかしいリシュラにミルフィユは一瞬戸惑うが、深入りされたくないかもしれないと思い、気づかないふりをする。
「……私の代わりにご注文、ありがとうございます。代金は後程、お支払いしますね」
「え?……あぁ、いや、大丈夫だよ。僕の方から誘ったんだし、ここは僕におごらせてよ」
「いえ、そういうわけにもいきません。これ以上、ディスユイル様にお気を使わせるわけには……」
先ほどとは違い、簡単には引き下がらないミルフィユを、どうすれば丸め込めるか、リシュラはしばらく考える。
「あ、じゃあさ」
いいこと思いついた、とでも言いたげに、ニヤッと笑いながらリシュラはミルフィユに提案する。
「また今度、僕と一緒に遊びに行こう。その時に、今日の分を返してよ」
「え? そんなことでいいのですか?」
怪しげな笑みを浮かべるリシュラがどんなことを言うのかと身構えていたミルフィユだったが、拍子抜けするほど簡単な要求で、素っ頓狂な声をあげる。
「あぁ。僕にとっては、君と一緒にこうして話しているときが、一番楽しいからさ」
自分と話すのが楽しいって、何のメリットもないのに? とミルフィユは疑問に思うが、人それぞれに趣味はある。
ミルフィユは、そう一人折り合いをつけ、「じゃあ、そういうのなら」と、素直に答える。
「よっしゃ……! ありがとな、アレスティファ君!」
小さくガッツポーズをしながら嬉しそうにお礼を言うリシュラを不思議そうに見つめながら、ミルフィユは「今度はこちらから誘いますね」と伝える。
すると、リシュラはさらに笑みを深め、再度お礼を言ってくる。
「――?」
そんなリシュラの様子を見て、ミルフィユは自分の体の奥底から、得体のしれない感情が湧き出てくるのを感じ、彼が持ってきてくれたタルトを一口、口の中に放り投げ、湧き出た感情と共に飲み込む。
(この感情は、一体……?)




