6話 醜い負け犬
翌日。入学してから一週間ほどは座学の時間らしく、ミルフィユは授業開始に向け、昨日と同じように教室の隅で、一人静かに座っていた。
「今日もよろしくね、アレスティファさん!!」
「……」
そんな彼女に、キラッキラの笑顔を向けるながら挨拶をするのは、なんとユレイズ。
何が目的だ、と言いたげな目を向けるミルフィユなんてお構いなしに、当たり前のように隣に座るユレイズは、彼女にとって恐怖の対象でしかない。
それに、相変わらずクラスメイトからの視点が痛く、ミルフィユはこの地獄のような時間が早く終わってくれと願い続けた。
結局、教室が教師に入ってきた後も、ミルフィユは居心地の悪さを感じ続け、授業がやっと後半に差し掛かったころには、すでに疲労しきっていた。
「――それでは、この問題を解ける人はいますか?」
教師の問いかけには誰も答えず、しばらく沈黙が続いたが……。
「先生、アレスティファさんが答えられると言っていました」
教室内に漂う、重苦しい沈黙を破ったのは、ミルフィユの隣に座るユレイズ。
勿論、今彼が行ったことは全くの嘘である。
「クスクス……平民ごときがあんな問題を解けるわけないじゃない」
「きっと、ユレイズ様が隣にいらっしゃるから、見栄を張っちゃったのね」
「こら! まだアレスティファさんが問題に答えてもいないのに決めつけるのは良くないでしょう。アレスティファさんも、無理はしないでね?」
「……いえ、大丈夫です」
ミルフィユは、色々と言いたいことを何とか飲み込み、その場から立ち上がりながら問題に向き合う。
といっても、大して難しい問題でもないのだが。
「……聖女アステナ。今からおよそ1500年前に、ライヴィジル王国から魔王の脅威を打ち払った、救世主と呼ばれる存在です」
ミルフィユは言い終えた後、教師に不安げもなく「ちがいましたか?」と、問いかける。
「あ……さ、さすがアレスティファさんです! 完璧なご説明、ありがとうございます!」
教師も、まさかミルフィユが問題に答えれると思っていなかったのだろう。
若干挙動不審になりながら、ミルフィユにお礼を言う。
そんな教師を見て、呆れたようにふぅとミルフィユはため息をつき、一番彼女が問題を解けないだろうと思っていたはずの男の方をちらりと盗み見る。
「……っ!?」
彼は、自分の思惑通りいかなかったことがよほど悔しいのであろう。
顔を真っ赤にさせながら、ぎろりとミルフィユを睨みつける。
一方、ミルフィユにとっては知っていることを答えただけで、ユレイズに睨みつけられる筋合いは一切ない。そのため、彼女には今のユレイズの行動など、ノーダメージだ。
彼女が顔を真っ赤にさせるユレイズのことを見て考えたことは、もうこれに懲りて、自分に関わってこなくなるかな、ということであった。




