5話 リシュラ・ディスユイルのはかりごと
王立魔法学園の地下室は、原則として立ち入りが禁止されている。
しかし、地下室内ではたびたび人の話し声が聞こえるという噂があり、その噂が飛躍して、学園の地下室では何やら怪しげな実験をしているのではないかという噂が、生徒たちの間で広がっていた。
「……それで、調子はどうだい? リシュラ君」
学園の地下室にて。まるで噂は本当だったのだと裏付けるように、白衣を着てモニターに集中しきった怪しげな男が、地下室に入ってきた男子生徒――リシュラの方を見向きもせずに、そう問いかける。
「はい。先ほど、対象と王子殿下が接触。言い争いが起きましたが、無事に事なきを得ました」
「ふむ、なるほど……しかし、殿下のことだ。これからも彼女に何かしらを仕掛けることであろう……そうなった場合、君はどうするべきかな?」
「僕は……対象を命がけでも守ります」
「うん、上出来じゃないか。たとえ主君だろうが容赦しない。それが君の役目だからね」
「……はい」
リシュラ・ディスユイル。彼はライヴィジル王国の宰相の息子であり、その優秀さから、幼少期から宰相の跡を継ぐことを期待されていた。
そんな彼が、王立魔法学園の入学が決まってからしばらく経ったある日、学園側からとある命を受けた。それは、学園唯一の平民・ミルフィユを、あらゆる脅威から守り切ること。
リシュラも、最初はそんな命なんて断ろうとした。座学も実技もできる君にしかできないのだと言われても、ピンとこなかったから。
でも、教会にいた彼女を一目見た瞬間、彼女を守るのは自分の天命だと、直感的にそう感じた。
どうしてそう感じたのかは、今でもよくわかっていない。それでも、彼女と一言でも話をするたびに、彼女を守れるのは自分しかいないという思いが強まっていった。
リシュラにとってミルフィユは、一種の麻薬であったのだ。
学園側の目的も、目の前にいる男のことも、そして、ミルフィユのこともよく知らない。
でも、それでいい。リシュラの目的は、誰よりもミルフィユのそばにいる。それだけだったから。




