23話 貴族の令嬢
「おはよう、アレスティファさん」
「おはようございます。ライヴィジル様」
これまでの警戒心丸出しの挨拶とは違い、お互い、和やかな挨拶を交わすミルフィユとユレイズ。
昨日、二人は紆余曲折あって和解することができたのである。このことを一週間前の二人に言っても信じられないであろうが。
「――あの、平民……じゃなくて、アレスティファさん!」
ミルフィユがユレイズに勧められ、彼の隣に腰を下ろそうとすると、クラスメイトの一人にそう声を掛けられる。
「その……昨日の感謝を伝えたかったの……ありがとね、助けてくれて」
突然の感謝の言葉にミルフィユが困惑している間に、クラスメイトはさっさとミルフィユのそばから離れる。
「……彼女はルメイシア伯爵家の令嬢、ミリア嬢だが、知り合いか?」
「いえ、そんなはずは……あ!」
よくよく考えてみれば、彼女は昨日、ミルフィユがロゼリからの攻撃を庇った女子生徒ではないか。
「貴族としては、一度敵対心をもった平民に感謝を伝えるなんて、そうとう勇気がいることでしょうに……」
「?」
ミルフィユの言葉をいまいち理解できていない様子のユレイズをクスリと笑いながら、こっそりとこちらの様子をうかがっているメアリをじっと見つめる。
これできっと、彼女とその取り巻きたちは敵ではなくなるだろうと考えながら。
放課後。ミルフィユとユレイズは、拾った (?) 魔族の契約者候補と話し合うために、1‐Aで落ち合おうと約束をしていたリシュラを、いまかいまかと待つ。
「ディスユイル様は私とキュンちゃんの契約者候補の方と気が合うか心配していましたけど、いったいどういう方なのでしょうか……?」
「さぁ? 俺も詳しく聞いたわけではないが……なんでも女子生徒らしく、入学初日からずっと懐かれていて、隙さえあれば常に一緒にいるらしいぞ」
「え……」
リシュラが自分以外の女子生徒と仲良くしているのを想像し、ミルフィユは自分の胸がチクリと痛むのがわかる。
リシュラは性格上、誰とでも仲良くなれるのであろうとミルフィユも思っていたが、改めてその事実を突きつけられると、何故だか ”いやだ” と思ってしまう。
自分の中からどんどん知らない、嫌な感情があふれ出てくるのを感じ取り、ミルフィユは無意識のうちに、氷の結晶を模した髪飾りに手を伸ばす。
「……そういえば、お前の髪飾りって」
「――お待たせ、アレスティファ君!!」
ユレイズが気になっていたことを口にしようとすると、タイミングよくリシュラが教室に入ってきて、ユレイズの声が遮られる。
「いえ、全然待っていませんよ……って、ライヴィジル様、何か言いましたか?」
「……いや、何でもない」
ミルフィユの髪飾りについては、彼女の心の奥底に触れてしまう行為なのだと感じ取り、ユレイズは自分の疑問を胸の内にしまい込む。
リシュラほどではないが、ミルフィユのことは誰に促されることもなく、彼女が自ら話しても良いと思ったときに聞きたいと思った。
「……なるほど、リシュラの心当たりのある人物とは、ソルリナ嬢のことだったか」
その後、ユレイズはリシュラの背後に控えている女子生徒に目を向け、若干猫を被りながらそう呟く。
「あら、わたくしのことを覚えていただき光栄ですわ、ユレイズ様……!」
ユレイズの言葉にパッと笑顔を浮かべる女子生徒だったが、ユレイズのそばに平民であるはずのミルフィユがいるのを目にし、顔をこっそりしかめる。
「……初めまして。わたくしはレイベスティア公爵家の、ソルリナ・レイベスティアと申します」
制服の裾を持ち上げながら、優雅にお辞儀をする女子生徒――ソルリナに触発され、ミルフィユもぺこりと頭を下げる。
「私はミルフィユ・アレスティファと申します。よろしくお願いしますね」
ミルフィユは挨拶をし終えた後、頭をあげながらソルリナのことをひっそりと見つめる。
ソルリナは長い金色の髪を持ち、まるでお人形のように可愛らしい、整った顔立ちをしている。
とても闇魔法を扱うようには見えないソルリナだが、リシュラが闇魔法の使い手と語っていたのだから、疑う必要もないだろう。
「リシュラ君、わたくしに話とは、いったい何なのかしら?」
しばらくの間無言でソルリナのことを見つめていたミルフィユだが、彼女の一言でハッと我に返る。
「あぁ、実はな……」
そう言って、リシュラはこれまでのことを語り始めた。




