21話 和解
「まずはお礼をさせてほしい。不甲斐ない大人たちに代わって、我が校の生徒を守ってくれ、ありがとう」
リシュラに案内されて、ミルフィユとユレイズが学園長室に入室すると、二人は真っ先に学園長から感謝の言葉を送られる。
「いえ、俺は第一王子としてすべきことをしたままです。お礼をされるのは、アレスティファさん一人でいい」
平民の成果を素直に認め、称賛する。
落ち着いた声色で、これまでの彼ならば考えられないようなことを語るユレイズに、ミルフィユ以外のその場に居た全員が目を見開く。
「殿下、アレスティファ君と、一体何が……」
「なに、俺がただ、これまでの行いを悔い、反省しただけだ」
いまだ信じられないようなものを見るかのような目を向けられ、ユレイズは不審がられても仕方がないよな、ともらす。
「……本当か? アレスティファ君」
「はい。ライヴィジル様にはこれまでのことを謝罪していただいたうえで、私が彼のことを受け入れました。私たちの間にはもう、一切のわだかまりはありません」
ミルフィユに酷いことをしたユレイズのことを、リシュラは簡単には信用できない。
しかし、ミルフィユに力強い瞳を向けられながらそう言われると、リシュラは彼女たちの言い分を信じざるを得ない。
「……わかった。君がそこまで言うのであれば、僕は殿下のことを信用しよう」
ミルフィユの言葉を受け、真っ先にそう答えるリシュラは、ユレイズにはもう、疑惑の目を向けていなかった。
だが、ユレイズがミルフィユを傷つけたのも事実。そのことをこのまま水に流すわけにはいかない。
「まぁ、君らの因縁は私たちのいないところでつけてもらうとして……。そろそろ、本題に入ってもいいかな?」
これまで黙ってリシュラたちの様子を見ていた国王殿下が、ようやく口を開く。
「あ、すみません、陛下。こちらで勝手に盛り上がってしまい……」
「いや、いい。私も、ユレイズのつきものが取れたような顔を見られて嬉しからな」
微笑みを浮かべる国王陛下だったが、不意に、ミルフィユが一番触れてほしくないことに、容赦なく追及する。
「ところで、ミルフィユの腕に抱いている生き物は……?」
「キ、キューン……」
「こ、これは猫です!!」
どっからどう見ても魔族にしか見えない生き物を、いまだ猫だと言い張る根性だけは、素直にすごいとは思う。
しかし、彼女の言い分で褒められる部分はそこぐらいだ。
「……ミルフィユ、その子をこちらに渡しなさい」
ミルフィユをあまり刺激しないよう、穏やかな口調を心掛けながら彼女の説得を試みる国王陛下だが、彼の努力もむなしく、ミルフィユはねこっぽい生き物をさらにギュッと抱きしめる。
「どうしてですか!? こんなに大人しい子を殺すなんて……!」
「いや、殺すとは言っていないから! 今はまだ人間を襲ってはいないようだが、その子がいつ暴走するかはわからない。だから、その子を誰かと使い魔の契約を交わさせ、人間の言うことに従わせようと思ってな……」
使い魔の契約。かつてライヴィジル王国で猛威を振るっていた魔族を、人間が唯一従わせる方法。
使い魔の契約を交わした魔族は、契約者の言うことに抗えなくなるのである。
「なるほど。もちろん、そのこと契りを交わすのは、この私ですよね!」
「いや、この子の属性は闇魔法。それならば、契約者も闇魔法の使い手の方が、この子も本来の実力を発揮できるというものであろう」
ミルフィユは、残念ながら氷魔法以外の魔法は使えない。
そんなぁ……と項垂れるミルフィユがさすがに可哀そうだと思ったのであろう。
国王陛下はミルフィユに憐みの目を向けながら、最後の慈悲を見せる。
「ミルフィユはこの子のことをよほど気に入ったようだから、君の友達に闇魔法の使い手がいるのであれば、その子に使い魔の契約を任せよう」
「とも、だち……?」
ミルフィユも、小さいころは数人だが、友達と呼べるのであろう存在はいた。しかし、今の彼女には友達と胸を張って言える人はいない。
「……闇属性の魔法を扱える者は少ないからな。君の間近に条件に合う人物がいなくても仕方がないであろう」
そんなミルフィユの事情を知ってか知らずか、国王陛下はわざとらしく、明るい口調でそう言う。
「ユレイズとリシュラは、条件に合う人物の心当たりはあるか?」
「う~ん……パッとは思いつかないな」
国王陛下の問いに瞬時に答えるユレイズとは対照的に、リシュラはしばらく考え込んだ後、思い当たった節があるかのようにパンと手を叩く。
「そういうことでしたら、僕のクラスメイトに条件に合う人物がいますよ! ……アレスティファ君と気が合うかどうかは分かりませんが」
「ふむ……だが、物は試しだ。その人物に事情を話してみてくれ」
「承知いたしました。アレスティファ君も、それでいいよな」
「……はい」
渋々と納得の意思を示すミルフィユに、国王陛下は軽く頷く。
「理解していただけたようでうれしいよ。まだまだ聞きたいことはあるが、今日は疲れているだろう。その子は学園長に預からせておくから、君たちは寮に戻りなさい」
そう言いながら、国王陛下は入り口付近で控えていた護衛の一人に目配らせをし、ドアを開けさせる。
三人は深々と国王陛下に頭を下げながら、学園長室を後にするのであった。




