20話 敗走
「くそっ!! 何なのよあいつら!?」
魔王城への帰り道、散々コケにしたアルゼイラと同じように人間たちに負けたロゼリは、なかなか収まらない怒りを叫ぶ。
「……まぁ、でも。人間どもの負の感情? ってやつはそれなりに集められたし、初めての魔王軍四天王の仕事にしては、上出来よね!!」
うんうん、と一人納得しながらも、主にミルフィユとユレイズに対しての怒りは収まらないらしく、ロゼリは辺りに炎をまき散らす。
「――あ、おかえり、ロゼリさん」
「あら、ヴィリアきゅん、ただいま~!!」
そうこうしているうちにロゼリは魔王城に到着し、そんな彼女を深刻な表情をしたヴィリアが出迎える。
「どうしたのよ~? そんな辛気臭そうな顔しちゃってさ~!!」
「実は、ロゼリさんが人間界に行ってすぐ、魔族が一人……いや、一匹? が聖女の封印から解かれたんだけど、目覚めたとたんに魔界から逃げ出して、人間界に向かって行っちゃったらしいんだよね……」
「ふ~ん? ま、でもいいんじゃない? もともと、人間界に行かせるために貴方たちは魔族たちの封印を解こうと模索してたんだし、大した問題でもないんじゃな~い?」
「……それもそうだね」
ロゼリの言い分にヴィリアは無理やり納得を示したものの、やはり心配であるのに変わりはない。
「ヴィリアきゅん、どうせまだ心配なんでしょ~! 大丈夫だって! 魔族なんだから、自分から姿を現そうと思わない限り、人間どもにそう簡単に見つかりやしないって!!」
「キュ、キュ~ン……」
「え? 猫?」
ロゼリとの戦いの後、とりあえずミルフィユとユレイズは自分たちの教室に戻ろうと保健室から出たのだが、教室へと向かう道すがら、ミルフィユはねこっぽい生き物を目にし、しゃがみ込みながらその生き物を観察する。
「いや、お前の目は節穴か? しっぽに炎を宿した猫など存在するわけ……しっぽに炎!?」
ユレイズは自らの発言に驚き、ミルフィユが猫と言った生き物のことを二度見する。
紺色の毛並みにとがった耳。瞳は翡翠のようにキラキラと輝き、長いしっぽには青い炎を宿している。……いやこんなの、明らかに猫ではないだろ。
「ライヴィジル様。学園の寮って、ペットを飼っても……」
「駄目だぞ? あと、こいつはどっからどう見ても猫じゃないし、何なら、魔族である可能性のが高い。俺の父上に見せに行くから、大人しくこっちに渡しなさい」
「ヤダ! そう言って、私とキュンちゃんとの絆を引き裂く気でしょ!?」
「キュンちゃんって誰だよ!? お前、そんなキャラだったか!?」
ミルフィユとユレイズがやいのやいの言っていると、背後から何者かにポンポンと肩を叩かれる。
「やぁ、殿下にアレスティファ君。ずいぶん仲が良さそうじゃないか」
「あ、リシュラ様、こんにちわ。授業はどうなさったんですか?」
「何か君、ずいぶん楽しそうだな……それはそうと、もう、とっくのとうに授業は終わったよ」
二人がいつの間に……と顔を見合していると、ねこっぽい生き物はその場から逃げ出そうとし、ミルフィユは慌てもせずにねこっぽい生き物を捕まえる。
「もしかしてアレスティファさん、猫が好きなのか?」
「? 猫なんて、全人類大好きでしょう?」
何言ってんだこいつとばかりにユレイズを見つめるミルフィユに、リシュラとユレイズは苦笑いを浮かべる。
「……っていうか、どうしてディスユイル様は私たちのところへ来たのですか?」
ミルフィユが疑問を口にすると、リシュラはあぁ、そうだとつぶやきながら、手をポンと叩く。
「実は今、昼間の騒ぎを聞きつけて国王陛下が学園にお越しになさっているんだよ。それで、殿下と、体調が良ければアレスティファ君も連れてきてほしいって伝言を預かってね」
「なるほど、父上が……。そうだ、ちょうどいい。父上に会いに行くついでに、そいつを預かってもらおう」
「え? い、嫌ですよ!! この子は私の家族です!!」
「あ! 全然気にしてなかったけど、アレスティファ君が抱いている生き物、よく見たら魔族じゃないか!? 危険だから、こちらに早く渡しなさい!」
しばらく拒否り続けていたミルフィユだったが、ユレイズとリシュラに引きずられる形で、ミルフィユはねこっぽい生き物もろとも、国王陛下の元へと連れられるのであった。




