16話 目障りね
(魔王軍、四天王……!? ま、まさかあのアルゼイラと同等の存在なの!?)
先日のアルゼイラのことを思い出し息をのむミルフィユに、ロゼリは愉快そうな笑みを浮かべる。
「あらあらあら~!! もしかして貴女、先輩のことを思い出してるのぉ~?」
「先輩……?」
「あぁ、アルゼイラってやつのことよ! 一応、私ら新米よりも長い間、魔王軍四天王をしているらしいから先輩って呼んでんのよ。まぁ、先輩を敬う気持ちなんて、一切ないけどねぇ~!!」
と、四天王のことをさらっと語りながら、ロゼリはいったん止めていた魔法攻撃を再開させ、生徒からは悲鳴が飛び交う。
「みなさん、急いで逃げてください! 早く!!」
そんな生徒たちを急いで安全な所へ避難させようと、教師は声を張り上げながら指示を出す。
「えぇ~! せっかく的を壊すのを手伝ってあげたのに、逃げられたらロゼリ、悲しいじゃな~い!!」
キャッキャと笑いながら、ロゼリは生徒の退路を塞ぐかのように、炎をまき散らす。
「い、嫌っ!!」
ちょうどミルフィユの近くにいた女子生徒の一人にロゼリの魔法の一部がかかりそうになり、咄嗟にミルフィユはロゼリの魔法と女子生徒の間に入り込み、氷の盾を生み出して女子生徒を庇う。
氷の盾は、ロゼリの魔法を防ぎ切った瞬間にパリンと音を立てて割れてしまったが、女子生徒を守り切っただけ上出来としよう。
「怖いのは分かります。でも、早く逃げてください!!」
腰が抜けてしまったらしく、へなりとその場に座り込む女子生徒に、ミルフィユはそう励ましの声を掛け、その場から離れることを促す。
そんなミルフィユたちの様子を見て、ロゼリの高らかな笑い声の音量は、さらに増していく。
「もっとも~と私と遊びましょ! 間違って殺しちゃっても許してね♡」
「君は――ッ!! 君は人の命を何だと思っているんだ!?」
ロゼリの人の命を弄ぶような発言に、怒りをあらわにするのは、まさかのユレイズ。
ミルフィユは、真っ先に逃げると思っていたユレイズがロゼリに立ち向かっていることに動揺を隠せない。
「俺ら人間は、信じられないくらいに脆い。何かあればすぐに致命傷を負い、簡単に死んでいってしまう……。それでも、俺ら人間は日々を精一杯耐え抜き、悔いのないように生きようとしているんだ。君が俺らの命を遊び感覚で奪おうとしているのならば、俺は絶対に君を許さない!!」
ユレイズは周りに自分の本性を知らない人間がいようがお構いなしに、ロゼリに怒りをあらわにして訴えかける。
「どんな命だろうが、そこに命の重さがあるのに変わりはない。罪もない人間の命を奪うなんて、到底受け入れられざる行為なんだよ!!」
ユレイズの言葉に、ミルフィユは密かに息をのむ。
そうだ。人の命は、すべて平等だとは言わなくても、みな重いもの。だからこそ、自分は人の命を奪う輩が憎くてしかたがないんじゃないか……。たとえそれが、自分でも。
「キャハッ!! 私、本来なら貴方のように自分に果敢に挑んでくる人、だ~いすきなんだけど……なんか、貴方だけはいけ好かないわね」
ロゼリは、にこにこと笑いながらも、ユレイズを見つめるその瞳の奥は、ぞっとするほどに冷たい。
……まるで、死人のように。
「――ッ!!」
ロゼリの瞳に、ユレイズは見覚えがあるのかピクリと肩を揺らす。
「ライヴィジル様……?」
ミルフィユは唐突に黙りこくったユレイズを不審に思い、彼の名前を呼ぶ。
しかし、そんなミルフィユの声に気が付かず、ユレイズはいまだ、ロゼリの瞳にくぎ付けになっている。
「母さん……?」
ユレイズの小さなつぶやきに、ロゼリは面白いものを見つけたかのように目を細める。
「キャハッ!! 私が貴方のお母さん?そんなわけないじゃな~い!! 私と自分のお母さんを重ねるなんて、貴方のお母さん、そうとう狂ってるのね!!」
「――いい加減にして!!」
ロゼリの言葉にしびれを切らし、反射的にそう言い返すミルフィユ。
彼女の瞳は、いつの間にか憎悪で染まり切っていた。
「何も知らないくせに、人の家族をこき下ろすなんて……!」
「――いや、いい。いいんだよ、アレスティファさん」
これまで散々酷いことをしてきたのに、まるで自分のことのように怒るミルフィユの肩に手を置きながら、ユレイズはかつての記憶を呼び起こす。
なんの代わり映えもしない、それでも、確かに幸せだった毎日。そんな日常が、突如として崩れ去った、あの日のことを。




