12話 カウントダウン
魔王軍四天王。
彼らは人間よりもはるかに強い魔力を持つ魔族の中でも、ひときわ強い魔力と知能を持つ。
魔王への忠誠心も高かったが、一人を除いて聖女アステナとの戦いにより死亡し、唯一生き残った風魔法を専門とするアルゼイラも、彼女に封印された。
魔王。
圧倒的な魔力とカリスマ性を兼ね備える、魔王軍のトップ。
彼は聖女の魔力に強くひかれるらしいが、いまだ謎の多い存在。
「……魔王軍についてか」
「ディスユイル様……はい、その通りです」
学園の図書室で、ミルフィユが一人、魔王軍についての書物を読んでいると、いつの間にか彼女の背後に立っていたリシュラに、そう話しかけられる。
「やっぱり、先日のことを気にしているんだね」
二人が城下町へと出かけ、魔王軍四天王と名乗るアルゼイラと遭遇してから、一週間ほどが経過した。
ミルフィユもリシュラも、あの日のことはほとんど覚えていなかったが、二人の記憶には、いつの間にか姿を消していたアルゼイラのことが刻み込まれていた。
「はい、それもありますが……何故だかよくわかりませんが、魔王軍のことについて、私はよく知らないといけないと、そう感じたんです」
自分でも、訳がわからないことを言っているのは、十分自覚している。
しかし、ミルフィユはそう感じずにはいられなかった。
(おかしな子だって、思われるよね……)
「なるほど……そういうことなら、僕も手伝うよ。魔族について書かれている本を、適当にとってくればいい?」
「へ……?」
リシュラの言っていることが上手く呑み込めず、素っ頓狂な声をあげるミルフィユ。
まさかリシュラは、自分の狂言じみた発言を、信じてくれるというのだろうか……?
「……やっぱり、ディスユイル様は変ですよね」
「急になんでそんなことを言うの!?」
小声で言ったつもりの発言が、ばっちりリシュラの耳に届いていたことに軽く目を見開きながら、ミルフィユはクスクスと笑いだす。
そんな彼女につられ、リシュラも訳が分からないまま、控えめに笑いだす。
ミルフィユは、今ばかりはこの学園生活も悪くないと、そう思った。
「…………」
魔王軍について知れば知るほど険しくなっていくミルフィユの顔を見て、リシュラは心配そうな表情を浮かべる。
4000年以上の歴史を持つライヴィジル王国の中で、もっとも強い魔力を持つとされる聖女アステナですら、魔王よりも実力は劣り、四天王一人とやっと互角に戦えていたという。
聖女アステナが、その命に代えてでも封印した魔族たち。それがいま、復活しようとしているのなら……?
「ッ!!」
目覚めたばかりと語っていたアルゼイラですら、今のミルフィユでは手も足も出なかった。
……もっと、強くならなければ。
「ディスユイル様、私と特訓をしていただけませんか?」
ミルフィユの突然の提案に、リシュラはしばしの間、目を瞬かせるのであった。
「――アイス・スピア」
「くっ……!!」
ミルフィユの激しい攻撃を、リシュラは風魔法で流れを変え、何とか防ぐ。
「いつまでそうやって逃げ続けているつもりですか? 貴方の方から仕掛けなければ、私に勝つことはできませんよ?」
「そんなの、わかってるけどさ……!!」
ミルフィユに攻撃を仕掛けようにも、彼女に隙なんて見当たらず、リシュラはただ、一方的に攻撃を受けるのみ。なんとかして、攻撃に転じたいが……。
「?」
ミルフィユのすきを窺っていると、リシュラは彼女に何か違和感を感じる。
「……アレスティファ君、何か焦っているのか?」
「ッ!? け、決してそんなことは……」
「じゃあ、どうして君は急に僕と特訓をしたいと申し出たんだ? 君が理由もなくそんなことを言うなんて、僕には考えられない」
「……」
リシュラに諭され、ミルフィユは観念したかのように、戦闘態勢を解く。
「そうです。私は貴方の言う通り、焦っているのでしょう」
「一体、何故……」
「ただの憶測です。先日のアルゼイラという者の言い分が正しければ、もしかしたら、魔族が1500年前の聖女アステナによる封印から解き放たれようとしていると、そう思ったんです」
「でも、この前のあいつの言うことは、真っ赤な嘘かも……」
「――じゃあ何ですか!! この世には、アルゼイラのように人を平気で傷つけるような、そんな輩がいるとでも言いたいのですか!?」
珍しく取り乱すミルフィユに、リシュラは息をのむ。
焦り、戸惑い、そして、何かに怯えきったミルフィユ。
「私は、あんな奴が人間だなんて、信じたくないんですよ……」
ポロポロと大粒の涙を流しながらのミルフィユの言い分は、酷く感情的だ。
でも、彼女にはそう思わずにはいられないほどの事情があるのだろう。それならば、リシュラはミルフィユの言い分を聞き入れるしかない。
「……わかったよ。別に僕は君の事情を聞こうとは思わない。魔族復活の件は僕もまだ納得しきれていないけど、陛下に調査依頼はしておこう。だから、さ……君は僕を信じてよ。僕はアレスティファ君を裏切るような行為は、絶対にしないと誓うから」
まっすぐに自身を見つめられながらそう言われると、ミルフィユは否が応でもリシュラを信じたいと思わされる。
「……信じても、いいのですか……?」
「あぁ」
「たとえ私が最低な人間だったとしても、助けてくれますか?」
「もちろんだとも」
「……たとえば、私が人を殺していても……?」
「……あぁ、その出来事が今の君をつくっているのならば、僕は君がどんな人間だったとしても、味方でいよう」
ミルフィユの最後の問いに対し、リシュラは力強い返答をする。
きっと、ミルフィユの問いは、すべて ”もしもの話” だと、リシュラはそう思っているのだろう。
真実を言えば、リシュラは自分の味方でいてくれるわけがない。
それでも、ミルフィユはリシュラの主張を、最後まで信じていたいと思った。




