10話 襲来
「――誰か……! 誰か助けてっ!」
「アレスティファ君、あっちだ!」
リシュラの示した先を見ると、確かに、異様なほどに人が多い。
騒ぎの現場はあそこの近くで間違いないだろう。
しかし、急いで二人が騒ぎの現場と思われる場所に近づこうにも、野次馬に阻まれて簡単にはたどり着けない。
「ちょっとどいてください!」
切羽詰まった声で、ミルフィユが目の前で行く手を阻む中年の男性に訴えかけても、男性は良い顔をしない。
「おい嬢ちゃんたち、この先は危険だ! さすがの俺でも、そう易々とあんたらを見逃すわけには……」
「――ッ!! いいから、早く!」
「おい、嬢ちゃん!」
こうなれば、強行突破だ。
ミルフィユは無理やりにでも男性を押しのけ、現場へ向かって人混みの中を進んでいく。
そんなミルフィユのあとを追うように、男性の横を通り抜けるリシュラだったが、男性のそばから立ち去るさい、驚くべき程冷たい声で、小さくつぶやく。
「それでは、俺らはこれで失礼する。……あんまりあいつを舐めるなよ?」
男性の目には一瞬だけ、リシュラの目が紅色に染まっているように見えた。
「やだやだ、怖い! みんな見ているだけじゃなくて助けてよぉ……!!」
女性の悲痛な叫びがミルフィユの耳に届く。
⦅……怖いよぅ……誰か、助けて…………!!⦆
その声に呼応して、ミルフィユが記憶の奥底に無理やり封じ込めていた記憶が思い起こされそうになり、彼女は首を振って、それらを振り落とす。
(今は思い出している暇がない……!)
ミルフィユは何かに耐えるように唇を噛みしめながら、精一杯走る。
どうか、間に合ってくれ。そう切に願いながら。
「ふふふ、あなたの恐怖に歪んだ表情、実に素晴らしいですねぇ」
怖がる女性の首を右手でいともたやすく掴み、上空でおかしそうに笑う、緑髪の男。
「やだ、お願いだから誰か、助けて……」
男に捕まった女性がどんなに嘆願しようとも、その場に居た誰もが一歩も動こうとしない。
「ふふふ、人間は愚かですねぇ。あなたがどんなに頼もうと、自分に害が及ぶかもしれないと考え、助けようとも思わない。……ふふふ、可哀そうなあなたに、一度だけチャンスを与えましょう……私たちの仲間になりませんか?」
「――そうはさせない!!」
半ば叫ぶような声が辺りに響くと同時に、男の頬に冷たい、槍状の何かがかすめる。
男が声のした方へ視線を向けると、そこには、怯えなんて微塵たりとも感じさせない、こちらに明らかな殺意を向けた、一人の少女の姿があった。
「ふふふ、まさかこの場で私に歯向かう人間がいるだなんて、夢にも思いませんでした」
「……それにしては、ずいぶん余裕そうだな」
「えぇ、だってあなたごとき、私たちにとっては何の脅威でもありませんし」
ふふふ、と、耳障りな笑い声をあげながら、緑髪の男は、自分に歯向かってくる少女――ミルフィユのことを、よく観察する。
「ふふふ、あなたの魔力、かなり大きそうですねぇ……真っ向から勝負をすれば、もしかしたら負けてしまうかもしれません」
次の瞬間、ミルフィユは男から明らかに人間のものではない魔力を感じ取り、思わず身構えてしまう。
「ふふふ、私の力に気が付きましたか。中々興味深い。……あなた、名前は?」
「他人に名を訪ねる前に、まずは自分から名乗ったらどうだ?」
「おぉ、これは失礼。では、改めまして……私は、魔王軍四天王の一人、アルゼイラと申します。以後、お見知りおきを」




