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ねこの手、貸します。 秋  作者: 白月 仄
にゃん一章 オータムフェス~準備開始~
3/25

いちのに

 さて、“何事も無く”無事に駅前の観光案内所に着き、音恋さんから頼まれた『清美市について』のフリーペーパーを各一部ずつ手に入れ、あとは『お店』にまっすぐ帰るだけなのだが、

「うわ、本降りだ……」

 雨が降ってきたのだ。

 『お店』を出るときに、『この雲行きなら行って帰ってくるまでは保つだろう』と踏んで傘を持ってこなかったのだが、観光案内所から出たところで、これ見よがしに雨が降ってきた。

 ま、普通なら『傘を持ってくればよかった』とか途方に暮れたりするところだけど、わたしには『コレ』がある!

 ──『踊る(saltatio)妖精(nympha)』。

 お父さんが中心となって、とある人物からの糸目ない援助を元に開発された玩具『超能力者気分になれるシリーズ』の最後にして最高傑作。玩具と呼ぶには逸脱し過ぎた性能。玩具としてはまずあり得ない販売価格。故にとある動画がネットに出回って有用性を見出だされるまでは、見向きもされなかった代物。

 それが現在では何の因果か、試験的とはいえ改良型が公安維持組織の装備に採用さているのだ。ただ、まぁー、お父さん自身は現在進行形で気が進まないみたいだが。

 その『踊る妖精』の有用性を見出だされる切っ掛けとなったシールド展開機能──お父さん曰く、『サイ・シールド』──はいろいろと使用用途の応用がきく。

 例えば、傘代わり。『サイ・シールド』の面を地面と水平にして自分の頭上に浮遊させれば即席の傘になる。

 なので、わたしは『お店』の制服に忍ばせてある『踊る妖精』を取り出そうと、フリーペーパーを持っていない方の手で、制服のポケットの中を探っているのだが、

「おかしいな……?」

 『お店』の制服を着ているときにはいつも『踊る妖精』を忍ばせてあるヵ所のポケットの中には指先に触れる物が無く、他のポケットの中も探ってみるが出てきたのは、ハンカチ・ポケットティッシュ・ケータイ・財布といったほぼ常に持ち歩いている物ばかり。

 ……。

 …………。

 ………………あッ!

 あー、そうだ! そうだった。

 わたしの『踊る妖精』はお父さんが新しい機能──使い方等etc...──を追加するからって、お父さんに預けたんだった。早ければ明後日辺りには持って来るって云ってたっけ。

 しまったなー……。

「……どうしよう……?」

 自分が濡れるのを覚悟で雨の中を突っ切るのは構わないが、さすがにフリーペーパーを濡らすワケにはいかないし……。

 タクシーを使おうにも財布の中身をさっき見たら、キャッシュは千円ちょっとで電子カード(チャージ式)もチャージしないとジュースも買えないほどしか残ってなくてお父さんから持たされたカードは余程の時にしか使わないよう保管して持ち歩いていないし、しかも駅前のココから『お店』までは歩きと違って車だと遠回りになって千円ちょっとじゃ料金不足。

 ならば、キャッシュをおろすかカードをチャージするかすればいいのだが、ATMを置いてある店は観光案内所から濡れずに移動できる距離には無いときた。

 ハァ~……。こんなことなら、電子カードは引き落とし式にしとけばよかったかな? あー、でも、遣い過ぎないようにってチャージ式を選んだワケだし、それに電子カードの使用様式──引き落とし式orチャージ式──の変更は手続きに手間が掛かる。

 なので、タクシーは使えない。

 他に、バスには乗れるが、『お店』から最寄りのバス停までは少し距離があるので、濡れるのを覚悟で雨の中を突っ切るのと同じ理由で却下。

 これは、お手上げ……。

「あれ? カレンちゃんじゃん。どうしたんだい、こんなところで?」

 ん!?

 それは、天の采配か偶然か。

 困り果てていたわたしに声を掛けてきた人物、それは──、

「どうも、音色さん。『お店』の用事で駅前まで来たのですが、天気を読み違えて足止めになってるんです。

 ところで、音色さんの方こそ──音恋さんから聞きましたが──『オータムフェス』のミュージックアート部門の責任ある立場に就かれているのに、街をブラついていていいんですか?」

 チャラついた見た目に反して世界的に有名な作曲家の音色さん。

「ああ。いろいろと野暮用でね」

「ナンパですか?」

「……………………いや、違うよ」

「…………」

 疑わしい。否定するまでにあからさまな間があった。

「ホントだよ! 本来の用事のついでに先方が綺麗な美人さんだったから、ちょっとお近づきになろうとしただけで……」

「…………」

 いや、そんなことまでは聞いてないし。

「──そ、それよりさ、詩音しおんの奴は『店』に居るかい?」

「詩音さん、ですか?」

「ああ。『オータムフェス』関連での話があるんだ」

「緊急の依頼が入ってなければたぶん『お店』に居る筈です。いま確認しますね」

「──っ!? あー、カレンちゃん、ちょちょ、ちょっと待って!」

 ……??

 ケータイを取出し、操作しようとしたわたしを慌てて止めに入る音色さん。

「思い出したよ! ──そう、思い出した。カレンちゃんに声を掛ける前に詩音には連絡を入れてたんだったわ……。ほら、おれってさ、現在いまは『オータムフェス』の責任ある立場だから、スゲー忙しいのよ。考えなきゃいけない事がいっぱいあるから、ついうっかり詩音に連絡したのを忘れてわ。あはは……──」

 それは、見え透いた出任せ。

 何故なら、音色さんの手には、片方に傘が、もう片方に駅周辺で人気No.1のスイーツ店の箱が握られているのだ。確か、音色さんのケータイはスマホ型だったから、両手に荷物があっては扱えない。

 因みに、両手が塞がっていても『AIナビ』を利用すればケータイを扱えるだろうと思われがちだが、“この街ではスマホ型をはじめとした手で持つことを前提としたケータイ端末の『AIナビ』は、防犯上などの諸事情で使用者が手に持っていないと屋外では作動しない”ようになっている。

 なので、音色さんは出任せを言っているという結論に至る。

 ま、音色さんの大方の魂胆が、相合い傘なのだろうということの見当は付いている。

 それでも、わたしとしては渡りに船なので、敢えてツッコミを入れず、

「──あ! そうだ。カレンちゃん、カレンちゃんがよかったらでいいんだけど、一緒に『お店』まで行かない?」

「はい、お願いします」

「あー、うん、やっぱり、そうだよね。知り合いに目撃されたらあらぬ誤解間違いなしな相合い傘をするなんて、やっぱイヤだよね…………へッ?!」

 わたしの返答が耳から入り鼓膜を振るわせ神経を通って脳に到達して理解した途端、音色さんは間の抜けた顔になる。

 どうやら、ダメ元なのは当たり前と思って誘ったのが予想に反してわたしがオーケーしたことに戸惑いを隠せず狼狽える音色さん。

「え? エ? ゑ? ヱぇーーーーっ!? ──…………マジ?」

「はい、お願いします」

 営業スマイルを追加して、音色さんの誘いを受ける事を伝える。

「──……わ────」

「『わ』?」

「────我が世の春が来たーーーーーっ!!!!」

 あー、コレってもしかしなくても、以前──この街に来たての春──に詩音さんから「相手次第ではややこしい事になるから、陥らないように」と注意しておくよう教えてもらった状況まんまだ。

 それと併せて、原因となる誤解を招く言動も教えてもらったのだが……──……………………あ~、うん、ついさっきの自分の言動はアウトだ。

 ちゃんと、言い訳をしておかないと……。後々に現実に気付いた場合の音色さんへの精神的ダメージはかなりのモノになるだろうから。

「あの、音色さん。狂喜なされているところ恐縮なんですが、わたしが音色さんのお誘いを受けたのは“此方の身勝手なやむを得ない事情で”ご厚意に甘えさせていただいた次第で、他意はありません」

「──ッ!? ………………ですよね~~~~ェ~。…………やっぱ、おれにそうそう上手い恋話なんて有るわけねぇ~よな~……──」

 目に見えて落胆する音色さん。

 しかし、一度もナンパに成功した事のない音色さんが、なんら疑いを抱かなかったのは違和感──いや、違うか。わたしの音色さんに対する先入観が勝手にそう思わせたのだ。反省────。

「……いや~、おれとしたことが、突然の予想だにしない事態につい舞い上がりし過ぎちまったよ……アハハ……ハァ~……」

 見ているこちらがイタイと感じるほどに見るに堪えない音色さんの空元気。

 うわ~……! なんか、音色さんの纏う空気がどよよ~んと淀んできてるぅ~~っ!?

「……ハァ~……、こんなのは何時もの事なんだから……くよくよしても仕方がねーよな……。

 うし。それじゃ、行こうか」

 しかし、長年の経験から培われてきたと思われるタフネスな精神力ですぐに立ち直った音色さん。

 ただ、よくよく観察すると、やっぱり無理しているのがあちこちに散見できた。



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