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ねこの手、貸します。 秋  作者: 白月 仄
にゃん四章 黄金の海原
22/25

よんのご

「────どうなってんだ、こりゃ??!? 僕らがさっきまで歩いていたのは無気味な路地だった筈なのに………………?」

 日立さんの誰となしに問うた詞に誰も返答をしようとしない。

 かくいう、アタシも日立さんの問いに返答するよりも先に、湧き起こった感情を整理しないと…………。



 ──吹き抜ける風に麦の穂はさざめき──


 ──生じた穂波は「お帰り」と囁く──


 ──胸に去来するは懐かしき郷愁感──


 ──そんな、幻想を抱かせるは──



 ──一面に拡がる金色の海、即ち──



 ──「黄金の海原」──



 ──そう、遂にアタシ達は辿り着いたのだ。

 日立さんが行きたがっていた場所。

 そして、日立さんのお父さんが居る場所。

 そういえば、先程から感動よりも驚愕が勝っていた日立さんが騒いでいたが、いつの間にか静かになっている。

 気になったので日立さんの方を見てみれば、

「──……あ…………」

 誰にも相手にされなかった事が余程ショックだったのか、彼は座り込んで地面に“の”の字を書いていた。

「『…………おいおい、ぽんこつ、お前は何時の時代の人間だ? いじけ方が古典過ぎるぞ』」

「……うるせいやい。何で、誰も周りが黒くなった前と後で景色が一変してるのに驚かないんだ? 普通、驚くだろ!」

 ──いや、まあ、そう言われても、ね~。

 日立さんを除く全員が同じ感想のようで、同タイミングで全員のアイコンタクトが一致。

「──……あ~、なんだ、鳴君、その……、オレらは既に鳴君が今し方経験した驚き体験は経験済みなんだ。だから、今更、驚くのもなんだしなんだよ」

 詩音さんが代表して、日立さんにアタシ達が驚かなかった理由を述べる。

 でも、ま、“コンクリート塀に挟まれた路地”から“何処までも拡がる麦畑の中を走る農道の真っ只中”に移動(?)していたら経験の無い人は驚天動地だろう。日立さんみたに。

「……なら、せめて、そういう事は事前に教えておいてほしかったっす……」

「いや~、そう言われても、先にネタばれとかしていたら新鮮味(?)っていうの……、そういうのが無くなるだろ?」

「僕は新鮮味よりも、独りだけリアクションが違ったっていう疎外感のほうが強く感じたっす……。それなら、まだ、先にネタばれしておいて貰った方がマシっす!」

「『やれやれ、これだから、ぽんこつは。いいか? 歌のにぃちゃんはお前の事を思って黙ってたんだ。其れを言うに事欠いて「自分だけリアクションが違ってボッチとか無いんですけど!?」だあ? ソイツは自分よがり過ぎるぜ、ぽんこつ!』」

「──…………いや、僕、そんな事、一言も……──」

「『黙らっしゃい! この、ぽんこつが!! 言っていようがいまいが同じ事。歌のにぃちゃんの心遣いを無碍にするとは、なんたる極悪人! 此こそ真に下衆げすの極────』」

「──もう、それ位にしなよ、ギーペ。日立さんに落ち度があったわけじゃなし、あんまりだよ……」

「『甘い! 甘過ぎるぞ、歌のねぇちゃん。この程度で凹垂れるようならば──ぽんこつ、テメェーは今直ぐに帰れ!』」

 ──ん? はて? 何だろうか、この違和感は?

 ペンギンが日立さんを揶揄うのは彼が『お店』の仲間になってから──日はまだ浅いとはいえ──日常茶飯事のこと。

 だけど、ペンギンのいまの物言いは“揶揄う”というよりも、明らかな──

「はあ? 何言ってやがるんだ、鳥モドキ!? 僕は『黄金の海原(ココ)』にいる親父に一言二言──いや、一発ぐらいぶん殴らなきゃ、帰るワケにはいかねーんだ!」

「『ハッ。青いな、ぽんこつ。…………今更、親への反抗期とは片腹痛いわ……────』」

 ──そう、明らかな言葉による精神的な攻撃。

 まるで、日立さんを試しているような──否、いるようなでなく、彼の精神こころを試しているのだ。

 ──でも、何故? どうして、ペンギンはそんな真似事を────

「──ねえ、ところで、日立さんのお父さんって人は何処に居るのかしら? 左を見ても右を見ても正面を見ても、無限に拡がる麦畑しかないわ」

 それは、ペンギンと日立さんの間に生じた暗雲などどこ吹く風と言った感じに割って入ってきた希ちゃんの疑問の声。

 それで毒気を抜かれたか双方とも口を噤んで、ぷいっと外方を向く。

 さて、改めて、アタシは今現在、自分達が居る場所を確認してみる。

 現在いま、アタシ達が立っているのは麦畑を走る農道の上。おそらく、端から見ればアタシ達は麦畑の真っ只中に立っているのだろう。

 そして、今度は周囲の確認。

 先ずは東。地平線まで麦畑が続いている。

 次に西。此方も東同様に地平線まで麦畑が続いている。

 その次に南。此方も又、東西同様に地平線まで麦畑が続いている。

 うん、希ちゃんが言った通り、首だけを動かして見える東西南の範囲は総て麦畑だけだ。

 しかし、まだ、見ていない方角がある。

 言わずもがな、北だ。

 アタシは首だけだった体の動きを今度は全身を使って、くるりと回れ右をする。

 すると、それまでの三方とはことなり、北には目測で300メートル以上先に森がデーンと横たわっていた。まるで境界線の如く──いや、それは境界線なのだろう。

 だって、森の両端は麦畑と競うかのように何処までも伸びているのだから。

 そして、他三方との1番の違いは──、

「──ねえ、見て! 森の手前に何か建物があるわ!」

 ──そう、希ちゃんが指差した先、彼女の言葉通りに森の手前に建物がぽつんと1軒。

 それが、他三方との1番の違い。

「『彼処が我々──いや、ぽんこつの目的地。彼処にぽんこつの親父さんが居る』」

 希ちゃんに続いて口を開いたペンギンだけど、どこか普段とは違って無機質で機械的な物言いだ。

「彼処に親父が居るのか!?」

 だが、日立さんは目的の終着点の方に気が向いているようで、ペンギンの詞の言い方には違和感を抱いていない様子。

 そんな事を考えていたからだろうか、ふと、周囲に視線を向けると、いつの間にやら皆が彼の1軒屋へと歩き出していた。

 ──って、置いてかないで~……。

 アタシは心の中でそう叫びつつ、皆の後を追ったのだった。


「──へぇ~、ログハウスか~。なかなか風情があっていいわね」

「うん。遠目からだと違和感の方が強かったけど、近付いて見てみると違和感どころか、風景の中にぽつんと一軒あるのが当たり前って思えてくる」

「まさに絵画の如き風景ですね」

「見てよ、ギーペ。あのログハウス、ウッドデッキがあるよ」

「『ほぅ~、洒落てるじゃね~か』」

「彼処にいるのは…………人か?」

「詩音さん、何処ですか?」

 希ちゃん、叶ちゃん、カレンちゃん、歌音ちゃん、ペンギンが感想を述べる中、詩音さんがのログハウスの何処かに人がいると口にする。

 アタシにはログハウスの何処の辺りに人がいるのか見付けられないので、早々に白旗を揚げて人を見付けたと言う詩音さんに問う。

「──ほら、ウッドデッキの所だ。まだ、遠目だが、……多分、椅子に座ってるだろう人影が見える」

 どれどれ…………。

 アタシは一見ただのアクセサリーにしか見えない片眼鏡に備わっている望遠機能をオンにする。

 この片眼鏡、元々は依頼で手先の細かい作業をする際の拡大鏡として購入したものなのだが、どういうワケか拡大率の幅が望遠クラスまであったのだ。

 どうも、原因──と、言ってもいいのだろうか?──は、希ちゃんに頼んで購入してきてもらったことで間違いない。

 希ちゃんが通販で買った物は高確率で本来の性能以上のモノだったり、理屈完全無視の超常的性能が備わっていたりするのだ。

 そして、この片眼鏡も例に漏れず。アタシが拡大鏡を通販サイトで物色していたところに、希ちゃんが「──いいモノ知ってますよ」って声を掛けてきてススメてくれたのが、この片眼鏡。

 拡大鏡といえば、ポピュラーなモノでは虫眼鏡型。たが、虫眼鏡型では片手が塞がってしまう。なので、両手を自由に使うには必然的に眼鏡型になる。

 しかし、眼鏡型の拡大鏡はなんて言うか今も昔もデザイン性には乏しい。それ故にどれにするか難儀していたのだ。

 そして、希ちゃんが教えてくれたのがコレ。デザイン性も高くアクセサリーとしても申し分ナシで拡大鏡の機能としても最高品質。ただ、アタシの使ってる通販サイトでは扱っていなかったので、やむなく希ちゃんに代金を渡して購入してきてもらったのだ。

 まさか、最大拡大率が付属の取扱説明書の記載以上だったとは露程にも思わなかったが……。

 閑話休題。

 詩音さんが指差した辺りを凝視しみると確かに、

「──誰かいるみたいですね」

 ウッドデッキに掛かる屋根の影で人相までは分からないけれど、人がいることは確認できた。

 ──彼処にいる人が、日立さんのお父さんか……。

「『──ああ、間違いない。歌のにぃちゃんが言ったウッドデッキに居る人影こそ、ぽんこつの親父さん──日立 轟だ』」

「──ッ!?」

「あ、日立さん!?」

 ペンギンの言葉に条件反射的に、ログハウスへと向かって駆け出す日立さん。

 ただ、──日立さんよりも先に駆け出していた人物たちがいた!

 それは、希ちゃんと彼女に引っ張られて付いていく叶ちゃん、それと、カレンちゃんの3人。

 歌音ちゃんも3人に続きたかったみたいだったけど、ペンギンが話し出したので仕方なく、この場に留まっていた。

「『──たくっ、若ー連中はせっかちだな~。慌てなくたって、何も逃げたりはしね~のに……』」

 え~……、それって、アタシや詩音さんは若くないって言うワケ?

「『アホか。言葉の綾だ。ホレ、オレ様たちもさっさと行くぞ』」

 ペンギンのその言葉を待ってましたとばかりに、ペンギンを抱っこしている歌音ちゃんが猛ダッシュで希ちゃんたちの後を追う。

「──さて、オレらはゆっくり行くか」

「そうですね」

 残されたアタシと詩音さんと大学生さんは急がず焦らず皆の後を追う。


「──あれ? 皆、こんな所で立ち止まってどうしたの?」

 皆からは後れていた詩音さんとアタシは、ログハウスまであと数十メートルくらいのところで、先行していた皆に追いついた。

 そして、追いついて早々にアタシは先の問いを先行組に投げ掛けたのだ。

「──おー、ナイスタイミングだよ、きびちゃん☆」

 ん? 何がナイスタイミングなのだろう? 希ちゃんの詞にアタシの脳内に疑問符が飛び交う。

「あのね、きびさん、ココから先に見えない壁があって、先に進めないの」

 叶ちゃんが希ちゃんの発言の続きを継いで状況説明をしてくれた。

 ──なる程、“見えない壁”か──。

「『所謂、魔法の結界ってやつだ。コイツは同じ魔法による解呪でないと消せねーシロモノだ』」

「日立さんの魔道士の腕じゃ、どうしようも出来ないし。きびさんの持ってる腕輪の能力なら、この見えない壁を消せるんじゃないかって、丁度、みんなで話してたところだったんだ」

 親切丁寧に叶ちゃんよりも詳細で正確な現状説明をしてくれるペンギン。

 そして、カレンちゃん、然り気無く──いや、無意識に日立さんをディスる台詞を……。ほら、日立さんがあっちでまた凹んでるよ……。

「『──ま、兎にも角にも、小娘、ちゃっちゃとその腕輪の能力を使って結界を解け』」

 はあ、まったく、いつもいつも偉そうな物言いをするペンギンだこと。

 ──はいはい、ちゃっちゃとやっちゃいますよ~。

「…………」

 アタシは意識を集中して、腕輪の能力の1つ、壊呪かいじゅを発動させる。


 ──壊呪──

 ペンギンが『なんちゃって陰陽師』と呼んでいる安部やすべ君から教えてもらったのだが、壊呪とは魔法を打ち消す魔法の一種。効果対象の種類と術者の力量によって、結果は一時的な魔法の無効化から魔法の解呪と、状況や条件次第で千差万別なんだとか。以上、壊呪の説明おわり。



 ──パリリィィーーン!


 ガラスが割れるような澄んだ音が響く。

 ただ、見た目に変化は無い……というか、もともと目視不可な見えない壁が無くなっているかどうかなんて一見では判別不能。

 だが、過去の経験から見えない壁が消えたであろうことはなんとなくわかる。

 現に希ちゃんを先頭に先行組の全員が──あー、いまだカレンちゃんの言葉に凹んでる日立さんを除く全員が、我先にとログハウスへと猛ダッシュ。

 そんな先行組の少女たちを見守りながら、詩音さんとアタシと大学生さんはまたもや後からゆっくりと後を行く。


 ──数分後。

「──? どうしたんだ?」

 漸く、ログハウスへと辿り着いた詩音さんとアタシと大学生さん。

 しかし、先に到着していた先行組の様子の異変に詩音さんが疑問を呈する。

「……………………お、……お兄ちゃん……あ……あの……あの……ね…………────」

 吃る、歌音ちゃん。

 こんな動揺する歌音ちゃんの姿は初めて見る。

 ──つまりは、非常事態。そして、これは先にペンギンが「『──忙しなくなる──』」って呟いていたことに関係があるか、そのものなのかもしれない。

 しかし、なんとも自身の冷静なことか。まあ、清美市ココに来てから驚天動地な事が幾度かあったから肝が据わったのかもしれない。

 そんな、自己分析でアタシ自身の心の準備を整えて、視線を歌音ちゃんから希ちゃんたちの方へと移す。

 希ちゃんたちは既にウッドデッキの方に上って、件の椅子に座る人物の側にいて、沈痛な面持ちを浮かべている。

 ウッドデッキに置かれたテーブルの上には開かれたまま且つスクリーンセーバー画像を映すノートPC・一般的なケータイ・メモ書き用と思われる手帳・その他諸々、あとは食べかけ飲みかけの飲食物が載っている。

 そして、テーブルの上にある物の所有者である肝心の人物は安楽椅子に身を委ね、眠って────


「──おい、親父! 客人が来てるんだから、起きて挨拶くらいしたらどうなんだ?!」


 どうやら、復活した日立さんが到着したようで、椅子に座る人物──日立さんのお父さんに声を掛ける。

 ただ、日立さんは場に漂っている雰囲気には気付いていないのか、ズカズカとウッドデッキに上がり彼のお父さんのもとへと近寄り胸倉を掴んで、

「おい、聞いてんのか!? クソ親父が!! アンタが此処で悠々としてる間にな、母さんは……母さんは亡くなってんだぞ!! なんで、……なんで、連絡一つも寄越さなかったんだ?! おい! なんか言ったらどうなん────」


「『──ぽんこつ、止めろ。永遠なる安息に臥した者を起こそうとするな』」


「────………………………は? なに、言ってるだよ、鳥モドキが。親父は生きてるだろ。ちゃんと、温もりだってある。死んでる筈があるワケ────」

「────亡くなってるよ、……その人……。素人診断だけど……、脈拍も……呼吸も……無かっ……たわ。……それに、コレ……を見て」

 震える声で、ペンギンが言った事が間違いでないと証言する希ちゃん。

 そして、テーブルに置かれた手帳を手に取ると、まっさらなページとミミズがのたくったような文字が書かれているページの見開きを日立さんに見せ、

「──ホラ、書かれている最後の頁の日付は二年前のもの。それ以降は何も書かれてないわ……」

「──なにを……何を言ってるんだ希ちゃん? そんな訳無いだろ? 現に親父はまだ温もりがあるんだ! 二年前に死んでるなら、少なくとも身体は冷てー筈だろう?」

「『“時忘れ”だよ』」

「は? ンだよ、その“時忘れ”ってのは?」

「『端的に言えば、“浦島現象”。勿論、浦島太郎側はさっき小娘が消した結界の内部に在ったモノ全て。詰まりは、ぽんこつの親父さんが亡くなってから外では二年以上経過しているが、結界の内側にいた親父さんの亡骸はせいぜい亡くなってから小一時間程度しか時間が経過していないのさ。だから、いまだにぽんこつの親父さんの遺体には温もりが残ってるんだ。分かったか? 分かったのなら、さっさと親父さんの胸から手を放せ。

 それと、歌のにぃちゃん、音恋のヤツに連絡を入れてくれ。アイツには前以て手筈を整えておくよう言っておいたからな────』」



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