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ねこの手、貸します。 秋  作者: 白月 仄
にゃん四章 黄金の海原
21/25

よんのよん

 そんなこんなでバスに揺られること約30分。

 アタシ達はグランドパークの最南端にある森林ハイキングコース前の停留所でバスを降り、眼前に広がる常緑樹が生い茂るハイキングコースの入り口に佇む。

「──さて、いよいよ『黄金の海原』へと向かうわけだが、みんな、心の準備は出来てるか?」

「あたしはモチのロンよ!」

「ボクも、モチのロンだよ。早く『黄金の海原』を見てみたいな」

「私も出来てるよ、お兄ちゃん」

「わたしもオーケーだよ、詩音さん」

「皆、元気ね。なんだかガールスカウトの引率者になった気分ね」

「はい、出来てます」

「……♪」

「ああ。心の準備は出来てるっす。待ってろよ、親父──」

「『おし! んじゃ、此処から先は歌のにぃちゃんの指示に従って進めよ』」

「うん、出来てるようだな。んじゃ、出発だ。逸れないよう付いててきてくれよ」

 詩音さんの出発の号令にアタシ達は森林ハイキングコースの中へと足を進める。


 森林ハイキングコースはまるで阿弥陀籤あみだくじのように、縦横無尽に道が張り巡られていて、一定間隔に設置されているハイキングコースの全体マップと交差点に設置されている地図座標の標識が無かったら、迷子──いや、遭難すること受け合いだ。

 アタシ達は詩音さんの先導とペンギンに時折注意喚起を促されながら、和気あいあいとハイキングコースを右に曲がり左に曲がり森林の中を奥へと進んでいく。

 そして、進むこと小一時間。

 常緑樹に囲まれた長い一本道になっているハイキングコースの途中で、先頭を歩く詩音さんが足を停めた。

「ここだ。此処から『道』に入るから、皆、しっかり付いてきてくれ」

 そう言って、詩音さんが指差したのは、彼が立っている場所の真横の木立。

 しかし、其処は下草の処理などの手入れはなされてはいるが、どう見ても道が在るようには見受けられない。

 ただ、だからといって其処に『道』が無いというわけではない。

 なんでも、『道』というものは其処に『道』が在る事を識っていないと、認識することが非常に困難らしい。

「じゃあ、行くぞ」

 立ち止まっていた詩音さんが再び歩き出し、彼が自ら指差していた木立へと向かって進み出す。

「──なッ?! なっ!? し、詩音さんが消えた?!!!」

 突然、驚愕の声をあげる日立さん。

 まあ、確かに目の前で人の姿が搔き消えたように見えたのだから致し方ない。

 わかってはいても、アタシも詩音さんの姿を見失った瞬間、少々ビビったし。

「『──たくっ。これだから、ぽんこつは。いちいちこの程度の事で驚くな』」

「でもよ……、詩音さんが一瞬で消えちまったんだぞ!?」

「『……はぁ~。あのな~、ぽんこつ。歌のにぃちゃんは消えたんじゃなくて、『道』っつう外界からの認識が曖昧になる領域に入った所為で、『道』からは外界側である正常な領域側にいる我々からは認識しづらい状態に為ってんだよ。現に歌のにぃちゃんはさっき立ち止まった位置から木立の方へ数歩進んだ場所に居るからな』」

「ッ!? マジ……かよ?!」

「マジだよ、鳴君」

 いまだ姿を認識出来てはいないが、詩音さんの声は確かに先程立ち止まっていた位置から少し木立側にズレた場所から聞こえてくる。

「──詩音さん、ホントにそこに居るんすか?!」

 日立さんはおそるおそる詩音さんの声がした場所を指差し、念押しの確認をとる。

「ああ、いるぞ。鳴君、ウソだと思うなら、オレがさっき立ち止まった位置に立って、オレが指差した方向に進んでみな」

「…………分かったっす。」

 詩音さんの言葉に従って日立さんは意を決して前に進み出て、先程、詩音さんが立ち止まった位置に立ち、詩音さんが指差した木立の方に向かって足を踏み出す。

「──!!」

「な、いたろ」

「ついさっきまで、詩音さんの姿が見えなかったすのに……」

「『それが、『道』の特性の一つだ。分かったのなら、さっさと先に進むぞ。

 やれやれ、全く暢気なものだ。……着いてから、忙しなくなるというのに──』」

「? 何か言ったか、鳥モドキ?」

「『──なに、ぽんこつはまだまだガキなんだなって、言っただけだ』」

「──なっ!? ざけンなよ、鳥モドキがッ!!」

 ……………………。

 どうやら、日立さんはペンギンが零した言葉を聴きそびれたようだ。

 けれども、アタシは聴き逃さなかった。

 でも、いったい何が忙しなくなるのだろうか?

 そんな、疑問を抱きつつ、皆の後に続いて『道』へとアタシも踏み入っていく。

「あの~、詩音さん」

「何だい、鳴君?」

「『道』ってーのはどうしてこんなにも奇妙なんすか? この前、行った南側の『道』も、歩いているうちに気付いたら入ってきた所に戻る“幻惑の迷宮”が仕掛けられていたりしてたっすし……」

 確かに。日立さんの言った通り、『道』は奇妙だ。

 コンクリート製のブロック塀に挟まれた無機質の道路が延々と続く、出来の悪い悪夢のような景観。

 さらに空には雲は無く、蒼が全面に拡がっている。

 ──そう、蒼が()()()()()()()いるのだ。

 本来であれば、在るべきであり、無くてはならい筈の()()が、何処にも()()のだ。

 常識的に考えて、眼が見えているということは必ず何処かに光源が在るハズのだ。

 なのに、この『道』という空間には、その光源たり得る存在モノが何処にも見当たらない。

 それ故か、『道』の空間内では地面をはじめ何処にも影が無い。

 ただ、例外的か其れともアタシ達は異物──『道』という空間内に於いて──だからか、アタシ達の身体上には、ちゃんと、衣服や頭部など体を動かした際に生じた影がある。

 なんとも摩訶不思議。ただ、この空間内には光源が無いのだから影も無いというのは当たり前な事なのかもしれない。

 逆にこの空間内で影を生じさせている異物たるアタシ達は間違った存在なのかもしれない。

 そんな、出鱈目な思考を湧き起こさせてしまうトンデモ空間、『道』。

 ──ホント、意味不明。

「…………“どうして?”と問われても、オレにも、皆目、見当も付かないな。ただ──」

「──ただ?」

「──ギーペなら何か知ってるんじゃないか?」

「『おいおい……、歌のにぃちゃん、オレ様は全知の存在ものじゃないんだぜ。あんまりオレ様を買い被り過ぎないでくれ。如何にオレ様でも『道』が何故に奇妙奇天烈摩訶不思議な空間に為っているのかなんて知る由もない事だ』」

「──んだよ、肝心な時に使い物にならないのかよ、鳥モドキは!」

「『はぁ? オレ様よりも無知なクセに何言ってんだ、ぽんこつ』」

「別に~。普段はこっちが聞いてもいないのにべらべらとうんちくを傾けるのに、肝心要な時に使えないから、使えないって言ったまでだ!」

「『~~っ。あのな、オレ様は単に識らなきゃいけない事柄を否応なく知らされているだけの、只の管ri……──いや、これ以上話しても、ぽんこつには詮無き事。

 それに──着いたぞ。小娘、“『鍵』”を出して、目の前に在るマンホールの上に立て』」

 先程までの売り言葉に買い言葉だった日立さんとの掛け合いを突如として切り上げたペンギン。

 そんなペンギンの態度に又もや釈然としない日立さん。

 そんな1羽と1人を尻目にアタシはペンギンの指示通り、『黄金の海原』の“『鍵』”を出して“ソレ”を手に此処に到るまで『道』の中では一度も見掛けなかったマンホールの上へと進み出る。

 ……。

 …………。

 ……………………。

「…………………………………………何も起きないんだけど?」

 そう、何も起きない。

 春に音恋さんに連れられて行った『永遠桜』に入る際は、音恋さんが“『Pass』”を出して翳しただけで、立体スクリーンが沢山出てきたのに……。

「『……………………あ! スマン、忘れてたわ。“『鍵』”の持ち主が変わった際に新しい“『鍵』”の持ち主が初めて局所事象変異の維持・管理・監視するスポットへと立ち入るには、所謂、『儀式』が必要なんだ』」

「ぎ、『儀式』?」

「『まぁ、そんな身構えて戦慄おののかなくても大丈夫だ。『儀式』といっても、簡単なものだ。

 いいか。此れから、オレ様が言った詞を小娘が復唱するだけでいい』」

「……それだけでいいの?」

「『ああ、それだけだ』」

 ──ふぅ……。なんだ、つまりは『おーぷんざせさみ』を唱えるだけか。

 『儀式』と聞いて、かなりビビったが、蓋を開ければなんてことはない。

「『んじゃ、此れからオレ様が言うことを復唱しろよ。

 ──我、継承す』」

「──我、継承す」

「『忘却へと連なる扉』」

「忘却へと連なる扉」

「『開きし、三つの鍵』」

「開きし、三つの鍵」

「『内が一つ』」

「内が一つ」

「『Clavis de Autumnus.』」

「Clavis de Autumnus.」

「『後は小娘、お前の名前を言うんだ』」

「後は小娘────」

「『阿呆か!』」

 ──すぺんッ!

「いきなり、何するのよ!?」

 其れは真に電光石火。

 先程まで、歌音ちゃんの腕の中で抱っこされていたペンギンが目にも止まらぬ早さでアタシに駆け寄ってくると、大きくジャンプしてツッコミを入れてきたのだ!

「『テンプレなボケをかますんじゃねーよ!』」

「アタシは別にボケをかましてなんていないわ。ちゃんと、ペンギンが言った通りに復唱していただけじゃない!」

「『それがボケなんだよ!! ──はぁ~……、まあいい。兎に角、さっき教えた通りに“Autumnus.”まで唱えたら、小娘、お前の名前を言うんだ』」

「それならそうと、先に言ってほしいものだわ。分かったわよ、最後にアタシの名前を言えばいいのね?」

「『ああ。ったく、手間かけさせるな……』」

 ──むかっ。

 ホント、ペンギンはひと言余計なんだから。

 ま、いいわ。今はペンギンに腹を立てていても仕方ないし……。

 アタシはいつの間にやら再び歌音ちゃんの腕の中に収まっているペンギンを一瞥してから、改めて『おーぷんざせさみ』を唱える。



 ──我、継承す

   忘却へと連なる扉

   開きし、三つの鍵

   内が一つ

   Clavis de Autumnus.


   スミス メアリ──



 ──ピコッ。


 それはまるで、PCを起動したときに鳴るような起ち上げのSE。

 ──すると、『永遠桜』に行った時と同じく、それまで見えていた風景が全面真っ黒に塗り変わり、アタシ達を360°囲むように視界いっぱいの立体スクリーンが現れ、物凄い早さで何らかの情報を処理しながら出たり消えたりを繰り返していく。

「──ッ??!! 詩音さん、何すか、コレ!? 何がどうなってんすか?!」

 突然の事にパニクる日立さん。

 まあ、それも致し方ないと思う。

 アタシも初めては驚いたし。

「ああ、こいつは“スポット”に立ち入る者を精査してるのさ、鳴君」

「精査っすか?」

「そ。所謂、“スポット”に入る為の最終チェックってヤツだな」

 周囲を囲む立体スクリーンが目まぐるしく情報を処理していく中、アタシは1つの変化の無いスクリーンを見付ける。

 そして、そのスクリーンには──


 ──『現在、管理者マスターを除く、人間6名、猫1匹、鳥1羽、魔道士1名の立ち入りを審議中』──


 ──と、そう表示されていた。

「『おー、よかったな~、ぽんこつ~。セキュリティシステムにはお前さんのことを“魔道士”って認識してくれたぞ~♪』」

 明らかな、ペンギンの日立さんに対するおちょくり。

 それに対して、当然の如く反応してしまう日立さん。

「──ハッ。き、機械に魔道士と認められたって……う、嬉しくも、なんとも、無いんだからな!

 ────………………つうか、何で“魔道士”だけ別枠なんだ? 此じゃまるで“魔道士”が“()()()()()()()()()”みたいじゃないか」

「『あ!? なんだ、ぽんこつは知らなかったのか? “()()()”はまるで人間とは別の生き物じゃなくて、紛う事なき“()()()()()()()()()”だ。なにしろ、魔道士ってのは人為的に遺伝子組み換え技術でもって生み出されたホモサピエンスの()()なんだからな』」

 ──…………………は?

 いきなり、ペンギンは何を言い出すのかな??

 魔道士と呼ばれている人たちが人間の亜種??

 しかも、人為的に生み出されたって…………────

「──な、何を言ってやがるんだ、鳥モドキは?! 僕ら魔道士の祖は彼の『ノアの方舟』伝説の時代より以前から存在した一地方文明の一族だ。そんな古代に『遺伝子組み換え技術』とか、有り得ねーだろ!!」

 ──そう。少なくとも世間一般に教わる歴史に於いて、人類が生命の遺伝子にまともに手を加えられるようになったのは20世紀に入ってから。

「『ハッ。古代において確かにこの地球の人類には遺伝子組み換えなんて芸当は無理だっただろうが、──他所の星から来た奴なら?』」

「ギーペ、それって、異星人が実在するって事なの?」

 どうやら、希ちゃんがペンギンの話に興味を示したようだ。

「──おいおい、希ちゃん、流石に異星人は飛躍しすぎじゃないかな? むしろ、オレらホモサピエンスとは全くの別系統でスゲー文明文化の進化が早い人類がいて、其奴らが魔道士の祖先を生み出したってのが可能性としてはアリなんじゃないかな。……ほら、あの有名なアトランティスとか辺りの……」

「詩音さんの方こそ飛躍しすぎだと、あたしは思うな。それに、ギーペだって『他所の星──』って言ってたじゃない。寧ろ、異星人説を頭ごなしに否定するのは愚の骨頂だと断言するわ!」

「いやいや……、いまだ我々地球人類は起源を異なる星とする知的生命体と邂逅したことは歴史的事実上一度たりとも無いんだよ。…………────」

 あれれ?

 いつの間にか、話の本題が古代で遺伝子操作云々から、異星人はいるか・いないか論争にすり替わってる。

「────ねえ、ギーペ。結局のところ、異星人っているの?」

「『──さあな……。オレ様自身は異星人を見た事無いから、なんとも言い難い。

 それよか、ほれ、遂に『黄金の海原』に御到着だ』」

 ペンギンのはぐらかしな回答に会話に参加していないアタシでも釈然としない面持ちになったが、続く『黄金の海原』に到着したという言葉に、この場に居る全員が色めき立つ。

 そして、黒に塗り潰された景色の中にいつの間にやら1つだけ残っている立体スクリーンには一言──


 ──『立入許可』──


 ──と、表示されいた。

 その最後の立体スクリーンも、やがて、黒の景色の中に溶け消えていくと同時に、黒の景色が変化を起こす。

 それは、視界を妨げていた濃霧が風に流されて霧散するが如く────


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