よんのに
「おいおい、鳴君。最後の決めゼリフでトチるのは流石にないぞ」
「そうだよ。羊くん、そこまで言ったなら、ちゃんと、ビシッとキメなきゃ」
「うわ~、今や創作物の中だけでしか聞くことのない、クサすぎる台詞を口にする人がいたなんて驚き!」
「鳴さん、ドンマイです」
「zzz……」
なんと!?
声の聞こえてきた方向に振り向けば、其処には、詩音さん・音恋さん・カレンちゃん・大学生さん・歌音ちゃん──歌音ちゃんは半ば無理やり連れられてきた感は否めない──達がいた。
猫達を除く『お店』の住民全員が──へっ?!!!
あー、音恋さん達の陰で見落としていたが、月明かりが差し込むカフェのフロアには十三対の瞳が月光を反射して此方を興味深げに見詰めていた。
即ち、真に『お店』の住民全員が、いつの間にやらこの場に集合していたのだ。
ま~、流石にこれだけのギャラリーが居たら、俄か仕込みの一大決心での告白なんて恥ずかしくて続けられないだろう。
しかし、告白側である日立さんは湯気まで出しちゃって狼狽までしているのに、告白された側であるアタシは先程の“好意がある”発言のときより全くと言っていいほど心がピクリとも動かない。
やっぱり、アレだろうか? カレンちゃんが言ってた「創作物の中だけでしか聞くことのない──」通りの台詞に現実感が薄れたのかもしれない。
「──さて、羊くんで遊ぶのはこれくらいにして、こんな夜中になに騒いでたの?」
音恋さんの言葉に、場の空気がおちゃらけムードから真剣なモノに切り替わる。
そして、場に居る殆どの者達の視線は自然と一点に集まる。
その一点にいるのは言わずもがな──ペンギンである。
「『ん? ……ああ、歌のにぃちゃんには前以て言っておいたのだが、猫女には云わなかったのか?』」
ペンギンは一瞬怪訝な態度を見せるも直ぐに何か気付いたようで、確認の問いを詩音さんに投げかける。
「そうなの? 詩音くん」
それに伴って今度は詩音さんに視線が集まる。
「………………あ! スマン、確かにギーペから“鳴君をストーキングしている連中が何かしてくるかもしれないが、万事オレ様に任せておけ。”って言われてたが、まさか、近所迷惑になるような事態になるとは露程にも思ってなかったから忘れた……」
「もう、詩音くん。一見、他愛ないような事でも“店員”に関わる案件なら、“必ず、報連相する”って、決めたでしょ。ダメじゃない、怠っちゃ」
そういえば、音恋さんは先日にあった“希ちゃんと叶ちゃんの一件”以来、目に見えて店員のみんなに対する心遣いが増していた。
勿論、アタシたち店員全員も音恋さんと同じく仲間への心遣いが増したけど、音恋さんは人一倍顕著だった。
──そして、その心遣いは新しく仲間に加わった日立さんにまで及ぶのは言うまでもなく。
「──まったく……。
それに、ギーペもギーペよ。詩音くんに云ったなら私にも云っておきなさいよ」
「『ハッ。猫女はぽんこつの歓迎会の準備で忙しなかっただろうが。だから、歌のにぃちゃんにしか伝えられなかったんだよ。
それに、近所迷惑にならねぇーようにしておいたから、安心しなよ、歌のにぃちゃん』」
成る程、確かに、音恋さんは『お店』の営業が終了してからこっち日立さんの歓迎会の準備にかかりきりだった。
アタシやカレンちゃんと歌音ちゃんも歓迎会の準備に勤しんだけど、音恋さんの働きっぷりはみんなが目を見張るほどで、──そう、アタシの眼からは音恋さんは新しく日立さんが仲間が加わった事に、とてもはしゃいでいたように見えた。
おそらく、ペンギンにもアタシと同じように見えたのかもしれない。
だから、敢えて音恋さんには伝えなかったのだろう。
それに音恋さんはじめアタシ達に気を煩わせるような事にはならないと踏んでいた──現にペンギンは、アタシと日立さんが見守っている中で襲撃者達を派手な演出ではあったが軽々と撃退して見せたのだから。
「……ホント、ギーペのクセして気兼ねとか、生意気よ」
「『へいへい、さいですか。ま、お褒めの言葉として受け取っておくぞ、猫女。
さて、紆余曲折はあったが、偶然にも『此処』に居る全員が揃った事だし、お預けになっていた本題に入ろうか』」
ペンギンの言葉に今一度視線がペンギンに集まる。
「『──まず、簡潔に述べるが、ぽんこつが行きたがっている『黄金の海原』の“『鍵』”が見付かった。ほれ、小娘、皆にも見せてやれ』」
はいはい、分かりましたよ。
アタシは身体を音恋さん達の方へと向け、手の平の上に浮揚する白い光が周回している正八面体の結晶体をみんなに見えるようする。
「『フッ。コイツは歌のにぃちゃんが推測した通り、ぽんこつが中学時代に淡い恋心と共に小娘に贈った腕輪の中──厳密には違うんだがな──にあった』」
「ほう、まさか手掛かりどころか本命そのものが隠されてったワケか」
「ほどほど、羊くんは間が抜けてたってことね」
確かに。音恋さんの言う通り、日立さん──中学時代の──は間抜けとしか言いようがない。
なにしろ、お父さんから託された大切な物を、アタシに友情の証として贈っちゃったのだから。
「『──ま、ぽんこつのボンコツさに呆れるのはそれくらいにして。
それでだ。コイツはオレ様からの頼みでもあるのだが、出来るだけ早いうちにぽんこつを伴って『黄金の海原』へと行ってくれねぇか? 小娘たちにはさっき言ったんだが、早々にぽんこつの親父さんの件にケリ着けねぇと、また、ぽんこつの周囲を不審者が彷徨きかねないからな』」
「──そう。……わかったわ。じゃあ、今週末がちょうどいいわね。幸い、今のところ依頼の予約も入ってないし」
「ああ、そうだな」
音恋さんの言葉に詩音さんが同意する。
決まりだ。
「『ありがとよ。んじゃ、一緒に行くメンバーだが────』」
「全員で行けばいいじゃない」
ペンギンの詞に横入りして言う音恋さん。
確かに、音恋さんの言う通り、全員で行っても別段問題も無いと思うのだけど……?
「『──あのな~、今回の目的はぽんこつの親父さんに会いに行く事だ。大勢でゾロゾロ行ったら迷惑だろーが』」
「確かに、それもそうね」
……あー、成る程。
「『ってなワケで、ぽんこつと一緒に行くメンバーだが、まずは『黄金の海原』の『鍵』の現所有者の小娘、歌のにぃちゃん、それと、オレ様、の計四名だ』」
「えー! わたしも行きたいんだけど?!」
ペンギンのメンバー発表に待ったを掛けるカレンちゃん。
どうやら、彼女は『黄金の海原』に興味津々の様子。
「…………」
「『ん? なんだ、みぃ、お前も行きたいのか?』」
──コクコク。
なんと!? さらに、超巨大猫のみぃ迄も『黄金の海原』に行きたいようだ。
「『──あー、だから、な。今回は大勢で行ったら迷惑になるって、言ったろ』」
「でも、ギーペが行くのなら、ギーペを抱っこ係が必要だよね?」
「『う゛。……だ、大丈夫だ。歌のにぃちゃんに運んで──』」
──チラ。チラチラ、チラッ。
おや? 今のはカレンちゃんから詩音さんへのアイコンタクト。
カレンちゃんとは一緒の布団で寝たりする仲だが、残念ながらアタシではカレンちゃんのアイコンタクトをうまく解読できない。──が、なんとなく内容は解る。
「……………………あ、あ~、スマン、ギーペ。実は長らく黙っていたんだがな、オレ、羽毛アレル……────」
「『あー、もう、皆まで言うな、歌のにぃちゃん。…………たくっ、分かった分かった、行きたいヤツは全員付いて来りゃいいさ』」
「やった♪」
「……♪」
あ、ペンギンが折れた。




