よんのいち
「『『黄金の海原』──お前さんの親父さんがいるところだ────』」
「…………あ~、僕としても『黄金の海原』に行くこと自体はやぶさかじゃないが、“『鍵』”が無いんじゃ立ち入れないじゃなかったか?」
確かに。『悠久なる四季』に立ち入るには期間限定の“『Pass』”か“『鍵』”が必要と詩音さんも言っていた。
しかも、“『Pass』”の有効期間は逃しているので、必然的に“『鍵』”でないといけないとも。
「『はあ~? “『鍵』”なら、既にあるだろうが。なに寝惚けたことを言ってるんだ、ぽんこつは? ──あ、いや、現在は夜中だから、寝惚けていても仕方ないな』」
うわ~、ホントこのペンギンはヒトをおちょくるんだから。
そんな事したら、大概の人なら──ほら──
「──おい、鳥モドキ。誰が寝惚けてるって?! 既に“『鍵』”があるだぁ? そっちこそ、寝言は寝て────」
「『──寝言なんかじゃねーよ。小娘、出せ』」
──……………………はい?
…………あ~…………、ペンギンはいったい何を宣ったのだろうか?
「『──小娘、出せ』」って、一体なにを──いや、ペンギンと日立さんのやり取りから“モノ”の見当は付いている。が、しかし、アタシはそのような“モノ”を持ってはいない。
つまり、持ってはいない“モノ”を出せと言われても、アタシにはどうしようも────
「『はぁ~…………。小娘、お前は察しの良し悪しにすごいブレがあるな』」
失敬な。アタシは自身が察しがいい方だとは思わないが、悪いとも思ってない。詰まりは普通。普通、万歳だ。
「『ハッ、まあ、今は小娘の察し能力については横に置いておいてだ──』」
かー、自分で話を振っておいて、このペンギンはッ──!
「『──いいから。とっとと、お前が身に付けている腕輪が扉になっている局所事象変異形成亜空間から『黄金の海原』の“『鍵』”を出せ。それと、以前にも言っておいたはずだが、オレ様が否応無しに小娘の表層思考を読んでしまうからって、他人がいる前では言いたい事は口に出して言え。ぽんこつがオレ様を怪訝な目で見てるじゃねーか』」
ああ、そうだった。つい、ペンギンとのやり取りはいつも“ペンギンがアタシの考えている事を読み取って、それに対してペンギンが応える”っていうのが当たり前になっちゃってて、現在じゃ音恋さんをはじめ『お店』の人たちの前でも、時折、やってしまっていたりする。
さて、それはそうと、“局所事象変異形成亜空間”って?? っていうか、この腕輪がその“ナンチャラ亜空間”の扉で、その“ナンチャラ亜空間──面倒いから亜空間だけでいいか──”……その“亜空間”から『黄金の海原』の“『鍵』”を出せってことは──………………!
昼間に詩音さんたちの話を聞いていたときに腕輪の機能を試していて出てきた“アレ──よく見もせずに仕舞ってしまった──”が、『黄金の海原』の“『鍵』”だったのか。
まさに詩音さんたちの憶測がドンピシャだったようだ。
「──な、なあ、スミス。さっきから、鳥モドキがお前に独り言(?)を掛けてるが、ありゃなんだ?!」
あー、ペンギンが人の思考を読み取れる事を日立さんは知らないんだっけ。
なら────
「『──小娘──』」
──ん?
────んんん??
何々、「『黙っておけ。後々ぽんこつをからかうときにネタバレしていたら、面白くない』」。
ペンギンの全身をつかったジェスチャー。
それはそう読み取れた。
しかして、その解釈は合っていたようで、ペンギンはコクコクと肯く。
はてさて……、どうしたものか?
アタシとしては黙っておく義理はペンギンには無いし、そもそもバラしたところでなんら支障などないと思うのだけど。
しかし、ペンギンはそうでは無いようで、ジェスチャーで「『バラすんじゃねぇー。それを相応の対価を提示するから、頼む』」
そう、応答してきた。
──ふむ、「『それ相応の対価』」ね……。
そう云われても、別にアタシにはペンギンに対して望むモノなんて特には無いし……。
えっと、「『──ならば、オレ様を毎日5分間だけならば、“抱っこ”させてやる』」
え!? マジで? いいの?!
──コクコク。
ペンギンは首肯して間違いではないことを表明。
──ってことは。
おっしゃーっ!!
…………コホン、コホン。
くぅ~……。苦節八ヶ月。『ココに来た春の日のその翌日の朝に精神的超打撃と共にペンギンに抱っこする事を拒否された時に感じた細やかな絶望感が、今、払拭される。
──よし! 承った!
十秒に満たない僅かな間にアタシとペンギンは日立さんの気付かないところで約定を交わす。
ってなワケで──、
「──あー、ホラ、ペンギンって普段から『声を出す機械』で会話をしてるワケなんだけど、この『声を出す機械』って装着者の思考に反応して音声を出してるのよ。それは理解してる?」
「ん? ……ああ、声が出る仕組みはなんとなく……」
「そう。それでね、そのペンギンが身に付けている『声を出す機械』って最新型の試作品らしくて、たまに心の声も拾って音声にしちゃうみたいなの。ね」
「『──?! ……! ああ、そうなんだ。ったく、これだから試作品ってのは……──』」
アタシのデマカセに合わせて、ペンギンは話を合わせ日立さんにデマカセの愚痴をこぼしつつ言葉巧みに御茶を濁して事無きを得る。
「『────てなワケだ。
さて、話は元に戻すが小娘、さっき云ったとおり、お前さんの腕輪から『黄金の海原』の“『鍵』”を出せ』」
はいはい、分かりましたよ。
アタシは寝間着の袖を捲り、腕に嵌められた腕輪を露わにし、それに意識を集中して、そして────
──Vocare,──
幻聴──もとい、おそらくシステム音声みたいなモノがアタシの脳内に響くと、腕輪より下の空間が陽炎のように揺らぎ其処に正八面体の結晶体が姿を顕す。
ソレはほんの一瞬の間だけ空中に静止するも、直ぐに自由落下に入る。
──って!?
アタシは慌てて落下を開始した結晶体を結晶体が床に到達するより前になんとかキャッチする。
「──ふぅ~……、セーフ……」
「『──おいおい、床に落としたくらいじゃ割れたリなんざしねぇーが丁寧に扱えよな』」
はいはい、分かりましたよ~だ。
アタシは心中でペンギンの忠告に返答しつつ、手の中に収まっている正八面体の結晶体を見やすい高さまで持ち上げて矯めつ眇めつ観察する。
すると、結晶体は手の平の上から独りでに数センチほど浮かび上がり、さらには白い光が出現し、その白い光が結晶体の周りを回り始めた。
「──へぇー、詩音さんの持ってたヤツとは対照的なんだな、『黄金の海原』の『鍵』は。どれ、僕にもよく見せてくれよ、スミス」
そう言って、日立さんはアタシの手の平の上に浮揚している結晶体に手を伸ばす。
──ン? はて? ……確か、この結晶体って、持ち主が許可を出さないと────
──バチィィッ!!
「いぢィーっ!?」
────ホラ、言わんこっちゃ無い。見事なまでの昼間の再現だ。
「『…………あー、ぽんこつ、お前さんは過去の失敗を鑑みるという事をしないのか? それともアレか、三歩以上歩くと失敗した経験を忘れる体質なのか?』」
「ひとを鶏か何かにみたいに言うな、この鳥モドキが!」
売り言葉に買い言葉。ペンギンの何気ない嘲りに過敏に反応する日立さん。
そんな日立さんの反応に揶揄いの虫が疼いたかペンギンは調子に乗ったようで、
「『ハッ(笑)。丸っきりまんまだったから、そう言ったわけだが、お気に召さなかったか?』」
「ああ、召さないね。確かに僕は迂闊者かもしれないが、失敗から何も学ばない愚か者じゃない! 現に今回は“スミスならわざわざ許可の承諾を口頭で問わなくても、アイコンタクトだけで許可を出してくれる”と信じて触ろうとしたんだからな」
──え!? あったっけ? アイコンタクトなんて……。
……。
……──あ──うん。思い返すまでもなく、日立さんからのアイコンタクトは無かった……ハズ。アタシ的には。
しかし、もしかしたらアタシが見逃してしまった可能性も捨てきれないので、一応、確認をば、
「──あの~……、日立さん。日立さんはいつアタシにアイコンタクトを──?」
「ん? いつって、ついさっきさ。ホラ、中学ん時にもやってたろ」
──え?? 中学の時に?
……………………やってたっけ??
……
…………
……………………。
──うん。休み時間とか放課後とか登下校時なんかにはよく話をした記憶はあるけれど、アイコンタクトを取った記憶はとんと無い。
ん? 何でそんなに昔のことを詳細に思い出せるのかって?
あ~、ほら、アタシって大学生時代終期まで友人が少なかったから、友人との思い出ってかなり鮮明に憶えてていたりするのよ。
ン?? はて? アタシは一体誰に向けての弁明(?)をしているのだろうか?
……………ま、いいか。
兎に角──。
だから、改めなくとも断言できる。日立さんの言うアイコンタクトの思い出は、彼が自身のアイコンタクトがアタシに通じていると誤認したモノか、思い出を振り返った際に混じった誤情報によるモノ。
「ごめんなさい。アタシ、中学生の時も現在も日立さんのアイコンタクトにはまるっきり気付かなかったわ」
「──そ──んな!? …………僕の思い違いだったのか……」
「『あっはっはっ……。ぽんこつ、お前さん余程、小娘に入れ込んでたとみえる』」
「──な!! ななな……、そんな僕が……、ス、スミスの事が好きだなんて────?!」
──へぇ~、ふぅ~ン。日立さんはアタシに“好意”を持ってくれてるんだ。
「『おや~、まさかとは思うが、ぽんこつは現在も小娘の事が──いや、違うな。
……………………………ああ! そうか!
ぽんこつは小娘との偶然の再会に、もしかして運命を感じちまったんだな~』」
「な、なに意味不な事を言うかなーこのと、鳥モドキわ……は?!」
正直、恋愛なんて、親に資格や免許を持つ有用性を説かれて其れ等の修得に熱意を傾けて以来からずっと他人事だった。
だから、“好意”があると暗に云われても今はイマイチ“ピン”とはこない。──ただ、ピンとはこないけど、淡いナニカが心の内に芽生えたのは確か──。
「『フッ。思春期真っ盛りの時に気にしてたあの娘が、再会したら見目麗しく──見てくれはいいからな、小娘は──成長してて、惚れ直しちまったってヤツだな(笑)』」
「だだ、だだだ、だから、ぽぼ僕はスす、スミスのことなんて、こここれっぽっちも意識なんて、して、してないんだからな!
す、スミスも鳥モドキのざ、戯れ言を真に受けるんじゃ、ねぇーよ、な!」
う~ん、明ら様な事実を見なかった事にしてくれと言われても……、でも、日立さん当人はそうしてほしいみたいだし、…………うん、ココは日立さんの言い分に同意しておこう──。
──……っていうか、話が脱線しまくり。
「──そう。わかったわ。ペンギンが言った“日立さんがアタシに好意がある”発言はペンギンの空想妄想早合点で、実際は日立さんにはアタシには対する友誼以上の好意は無いってことでいいですね」
「…………あ、はい…………そ、それで、いいです……………────」
あれ? あれれ?? なんか、日立さんがスゴく凹んでるけど、どうしてだろう?
「『かー、小娘は恋愛経験浅いワリに、やる事が小悪魔どころか鬼か悪魔だな。其処は大抵は茶を濁すようなやんわりとした曖昧な言い方で、言ってやるもんだぜ』」
そうなの?!
「『──…………つーか、オレ様も少し悪ノリが過ぎたか。
──さて、話は戻すが、────』」
え~と、話を本題に戻すのは構わないのだけど、日立さんが凹んだままなんだけど……。
「『──チッ、仕方ねぇな。
おい、ぽんこつ。たかだか一回の告白で脈無しだったからって、これから先まで脈無しのままとは限らんだろ。テメェーの想いを伝えたんだから、へこたれてねぇーでこれから意識してもらえるよう努力すればいいだろうが。要はテメェーはスタートラインを切ったにすぎねぇ。初めの一歩で躓いたくらいで諦めるなんざ、──古臭すぎる言い草だが──ぽんこつは男としてもポンコツなんだな!』」
「────なっ?! 確かに僕は魔道士としてはぽんこつかもしれない。──だが、誰が男としてもポンコツだと!? いいさ。僕が男としてポンコツでないところを見せ付けてやるよ!
っつうか、鳥モドキに恋愛指南される謂われもねぇ!!」
「『──ほう、なら、見せ付けてくれよ。男としてポンコツでないところをよ(笑)』」
あ、うん。日立さんが立ち直ってなにより。
ただ──また脱線しちゃってるよ…………。
「ああ! 見せ付けてやるさ!
──スミス!」
「はい?」
「い、今は僕の事を友人としてしか見てくれていないみたいだか、何時か必ず、スミス──いや、メアリ、お前を僕の……お、お、お…………おッ?!」
うにゅ?
恋愛モノによくある台詞を口にする、日立さん。
けれども、その台詞は最後の〆のところで変な途切れ方をした。
しかも、何故が日立さんは茹でダコもかくやといわんばかりに顔を赤らめ固まってしまった。




