さんのご
────……………………う~ん、寝付けない。
ベッドに入ってから早小一時間。目を瞑って眠ろうと頑張るも眠気は一向にやってこず、いまだに 目がさえている。
今日は日立さんの歓迎会をやったので、いつも以上にお酒が飲ったから直ぐに寝られると思ったのに……。
「あ~、ぜんぜん眠くならないよ~……どうしよ~……」
なんとなしに愚痴てみるも、それで眠気がやってくるでし。
──参ったなー…………
………………
…………
……
ん~…………、あ! そうだ。おなかに少し食べものでも入れれば直ぐに寝れるかもしれない。
なにしろ、人に限らず腹が充たされると生き物は眠気を催すモノなのだから。
だって、ほら、お昼を食べた後ってスゴく眠くなるし。
うん、間違いない!
というわけで、善は──もとい、膳は急げ。
夜食が体重増加の原因になる事には今は目を背け、いざ、台所へ。
ふっふ~ん……──
この間、食料品の買い出しに行ったときに自腹でいろいろと買い込んでおいて正解だった。
やつぱ、『こんな事も有ろうかと』と備えておくことは悪いことじゃないわね~。
ガチャ。
アタシは台所にあるインスタント食品を仕舞っている棚の扉を開けて、何を食べようかなと物色を始めるる。
いろいろ買ったから、どれにしようか迷っちゃうな~……。
む~………………
ど・れ・に ・し・よ・う・か────
──ドーォン……
──!?
……こんな時間に、花火??
──ドーォン……
まただ。
いったい何処の阿呆ンだらだろうか?
夜中に花火をするなんて傍迷惑な非常識者はッ!
折角の夜食気分が萎えてしまったじゃない。
──よしッ。
ここはひとつアタシがガツンと一言申してやろう。
……ただ、もしも見た目が危なそう人だったら、即 、公的治安機関──警察に通報しよう。うん。
ってなワケで夜食は一旦お預けにし、アタシは台所から花火の音がする方──お店の方へと向かう。
台所からお店のフロアへはさほど距離はなく、台所から出て左に進むと直ぐ右手に猫達の寝室があり、そこを通り過ぎると今度は一段床が低くなっている昇降場に着く。
其処で皆で共用しているサンダルを履き、お店フロアと居住区を間仕切っているドアの前に立つ──
──ドーォン! ドーォン!
うわっ! さっきよりも凄い爆発音。
どんだけ物騒な事をしてるのかしら?
──ゴクリ。
うわ……、なんか急に変な汗が出てきて緊張してきた。
勢いだけでここまで来たけど、なんかヤバそうだし引き返そうかな……?
──いや、待て、アタシ。花火の音は外なのだから、お店の中から相手に見付からないように隠れて覗えばば無問題。
うん。それで、夜中に物騒な花火なんてやっている非常識者の姿を確認した後に通報すれば、丸っと解決よ。
意を決して、アタシは間仕切りのドアのノブに手をかける。
──ガチャリ。
ドアノブを捻る音が異様に大きく聞こえたような気がする。
そんな気のせいを頭の隅から追い遣り、ドアを徐に引いて開ける。
──ドーォン! ドーォン! ドーォン!
なっ!? 眩し!
立て続けの爆発音に爆発音の回数と同じだけのフラッシュが瞬いた。
堪らず、アタシは本能的にその場に踞る。
──一体全体、何なのよーッ!!
アタシは心の中で絶叫しつつも、身を起こしてお店フロアに足を踏み入れる。
「外に出るのはお止めになった方がよろしいですよ」
「わひゃっ?! ──って……、マスターさんじゃないですか。驚かなさないでくださいよ~」
間仕切りのドアの先、最初に目に入るのは右手ににゃんこルームで左手にはカフェのカウンター席。
そのカフェのカウンターの内側にいつもと変わらぬ姿でマスターさんが佇んでいたのだ。
普段は営業終了後の後片付けと明日の準備を終えると「精神体だけといえども休養は必要ですので──」と、直ぐに就寝(?) されるのに。
なのに、マスターさんは起きている。
これって、もしかしなくとも異常事態??
「それは失礼致しました。ですが、今現在、ギーペ殿が危惧なされていた通り、強盗と思われる賊が『我らが店』に侵入せんとばかりに狼藉を働いております。故に、外に出ることをお止めしたのです」
「マジ……ですか?」
「マジ、ですよ」
…………。
「……えっと、それって直ぐさま警察に通報するべきなんじゃ──」
「はい、私もそうするべきだとギーペ殿に申し上げたのですが、「『万事、オレ様に任せとけ』」と、おっしゃられました次第で」
は?! ナニソレ?? 意味不明なんですけど………………
──ドーォン! ドーォン! ドーォン! ドーォン!
「わきゃーッ!!」
またもや爆発音とフラッシュの嵐。
──ホント、もう! 何なのよー!!
アタシは再び床に踞り、爆発音とフラッシュの生ずる所──『お店』の出入口の外に視線を向ける。
「ああ、それと、ギーペ殿は「『『店』の中にいる限りは安全だから、物見にきた奴に外に出ないよう釘を刺しておいてくれ』」ともおしゃってました」
──へぇー、そうなんだ。『お店』の中は安全……ね。
アタシは無意識的に『お店』の中を見渡す。
確かに。ペンギンがマスターさんに言伝た通り、音は轟いているのに震動が無いとは摩訶不思議。
反射的に耳を塞いでしまうような爆発音がしているのに建物はおろか『お店』の中にある一切合切の物が揺れた形跡すらない。
つまり、『お店』の中の安全が本当に確保されているということは──ついつい好奇心がうずいてしまう。
アタシはマスターさんに断りを入れて、カフェのカウンターの内側に入り、地続きになっている『にゃんてSHOP』の受付兼会計レジのカウンター内側へと雰囲気的に身を隠しながら歩を進める。
──ドーォン!! ドーォン!! ドーォン!! …………
受付カウンターの内側にたどり着くと、いよいよ爆発音は最大音量になった。
なにしろ、受付カウンターの真正面に『お店』の出入口 はあるのだ。
アタシはそろそろと受付カウンターの上に顔を出して、出入口ドアのガラス部分越しに外を覗う。
すると、『お店』の外にある街灯の明かりの中に浮かぶ人影が複数。
よくよく目をこらして人影を観察すると、全員が全員同じ衣装に身を包んでいることが判明した。
黒のリクルートスーツに黒のグラサン。
──って、アンタ等何処の黒服さんですかッ?!
思わず、心の中でツッコミを入れてしまった……。
ゴホン。
気を取り直して、改めて不審者達を観察してみる。
顔はグラサンで目が隠れてはいるけれど、輪郭の感じからして西欧系だろうか。
そんな彼等は、なんて言ったらいいのか……強いて例えを上げるなら、テレビのCMなんかで見掛ける“バトルアニメのキャラが必殺技を出したポーズ”をしていて、端から見なくとも実に滑稽。
ただ──そんな滑稽なポーズをしている不審者達の手の前の宙空に、なんの前触れもなく突如として光球が現れる。
ソレは歓迎会の時に日立さんがやった“超科学の実演”で出現した光球とは異なり、発光具合いは明らかに鈍く、色合いもくすんだ皓色。
──うげ……見るからにヤバそうな感じ。
そんなことを思っていると、そのくすんだ皓い光球は不審者達のモーションも無しに彼等の手の前の宙空から此方──『お店』に向かって前進を始めたのだ!
そして、『お店』の出入口のドアの少し前まで来たところで────
──ドーォン!!!! ドーォン!!!! ドーォン!!!! ドーォン!!!!
──のあ~ッ?!!? 目がっ、目が~っ!!!!
盛大な爆発音と強烈なフラッシュを発した。
──ううーぅ……まともにフラッシュを目にしちゃったよ~…………。
でも、声を上げなかったアタシ偉いぞ。
アタシはフラッシュによる目の眩みに床の上で悶えながらも自分を鼓舞して、自身がいまだ冷静であることを自己確認。
……………………
…………
……
──よし!
なんとか見えるくらいには目の眩みが治まった。
──今度、また皓い光球が出現したら、直ぐさま受付カウンターの下に顔を引っ込めるようにしよう。うん。
アタシは教訓を胸に刻んで、再び受付カウンターの上にそろそろと顔を出す。
そういえば、「『万事、オレ様に任せとけ』」と大見得を切ったペンギンは何を────
「『テメェー等、他人様の家を訪ねるには非常識な時間帯にやって来るとは嘗めた根性してやがるなっ! しかも、ノックが乱暴な上に近所迷惑──いや、ノックの仕方も識らねえ無作法者とは西洋の魔法使いも落ちぶれたものだな……。ハッ!』」
まるでアタシの心の声を見透かしたような──否、あのペンギンのことだから見透かして、タイミングを見計らったところで登場したのだろう。
──……それにしても、おそらくペンギンは『お店』の外にいるのだろうけど、普通に『お店』の中にいるアタシにも声が聞こえるのはどういう絡繰りなのだろうか?
そんなことを頭の隅で考えながら、ペンギンの登場によって場がどうなっていくのかの事の次第をアタシは見守る。
『お店』の外では、朗々と響いたペンギンの声に不審者達は慌てふてめき、声の主の姿を探し四方八方に視線をさ迷わせる。
「『──オイオイ、テメェー等、何処に眼を付けてやがるっ! オレ様は此処だぜ!!』」
全然、ペンギンの姿を見付けられない不審者達にイラッときたのか、ペンギンは声を張り上げ自らの居場所を曝す。
そのペンギンの声に不審者達は一斉に上を仰ぎ見る。
成る程、ペンギンは現在、『お店』の屋根の上にいるのか。
アタシの脳裏に屋根の上で得意満面な顔をしたペンギンが不審者達を見下ろしている様がありありと想像される。
「『はッ、どうしたテメェー等。オレ様の超絶ぷりちーな姿に見惚れて声も出せねぇってか?』」
明ら様な挑発をするペンギン。
そんなペンギンに対して、何を思ったか──たぶん、カチンときたのだろうとアタシは憶測──不審者の一人がペンギンのいる屋根に向けて先ほどの皓い光球を出して解き放ったのだ!
「『そいつが返答か。いいだろう、軽~く遊んでやるぞ』」
不審者の行動による返答にペンギンは気を害したようで、声のトーンが低くなった詞を吐くや、
「『テメェー等の魔法なんざ、オレ様からしたらトーシロがネタがバレバレな手品をするに等しい事だと思い知れ!』」
屋根の上から啖呵を切りながら『お店』と不審者達とから丁度中間点辺りの地面にペンギンは飛び降りてきた。その手──いや、翼の先につい先ほど不審者がペンギンに向けて放った皓い光球を携えて。
「──ッ!?」×6
不審者達の顔が驚愕に引き攣る。
今更になって正式に白状するが、アタシは魔法云々に関してはチンプンカンプンで、魔法が実在するなんて摩訶不思議現象を目の当たりしても未だに懐疑的。
なので、不審者達が何に驚いているのか皆目見当も付かない。
「マジかよ……、あの鳥モドキ、他人の“魔法の支配権”を奪い取るなんて人間業じゃねー……!!」
そりゃ、ペンギンは鳥なのだから、人間じゃない。
って、────
「メェ~君っ?! いつの間に!?」
「あ、いつからこの場にっていう意味ならつい今し方、何か起こってるって気付いたのは用を足して部屋に戻ろうとしたら表の方から花火みたいな音が聞こえてきたときかな」
「そうなんだ」
「ああ。
ところでよ、あの鳥モドキと対峙してる連中って何者なんだ?」
「うーん……、よくは分からないけど、ペンギンは“西洋の魔法使い”って言ってたわ」
「西洋……? ってことは奴ら『ユーロ協会』の連中か!」
“『ユーロキョーカイ』(?)、って何ぞ?”と一瞬だけ疑問が湧くが、識ったところでどうでもよさそうな気がするので、スルーする。
それよりも、いまは外の成り行きが気になるので意識を外の状況に戻す。
「『どうした? もう、ゆうに十秒は同じポーズのままだぞ。……はは~ん、さてはテメェー等、オレ様とこおり鬼がしたいんだな~。そんなら、鬼役はオレ様がやってやる。
──つーワケで、鬼役であるオレ様がテメェー等を捕まえる為に動かざるを得ないようにしてやるよ!』」
アタシ達からはペンギンの後ろ姿しか見えないが、脳裏にはまたもやペンギンが不敵な顔をしているのがありありと浮かぶ。
「『ホレ、先ずは“コイツ”を返してやる』」
そう言うやいなや、ペンギンは人間ばりの投球フォームで翼の先に携えた皓い光球を不審者達に投げ返す。
翼の先から解き放たれた皓い光球は真っ直ぐ且つ不審者が放ったときよりも若干速いスピードで、固まって立ち尽くしている不審者達の真ん中辺りに放物線を描く。
しかし、不審者達も何時までもこおりのままでいる事はなく、ペンギンが皓い光球を投げ返した事を見るや、着弾点から素早い動きで散開して遠ざかる。
そりゃまあ、逃げるよね。
『お店』の先は何にもなってはいないけど、あの皓い光球は着弾すると火傷だけでは済まなさそうな爆発音が轟くのだから。
「『オイオイ、そんな簡単に動くなんて迂闊にも程があるぜ。思わず捕まえちまうじゃねぇーか。オラーッ!!』」
ペンギンは自分に近いところへ退避してきた不審者に陸上では有り得ない瞬発力で瞬時に間合いを詰めると、跳び上がってパンチを繰り出す。
しかし、哀しいかな。ペンギンの翼のリーチは人間の腕と較べたらあまりに短い。
なのに──それなのに、ペンギンが詰め寄りパンチを繰り出した先に立つ不審者は、あろう事か、
「──ガッ!?」
ペンギンの翼が届いてもいないにもかかわらず、腹部に殴られた痕跡を残して吹き飛び、地面に寝転んだ。
しかも、不審者が寝転んだ場所は不運にもペンギンが投げ返した皓い光球の着弾点の直ぐ近く。
そして、遂にペンギンが投げ返した皓い光球が地面に落ちる!
「『ドーォン!! ──なんつって~』」
ペンギンは『声』を出す為の機械の機能で爆発音を再現して地面に寝転んだ不審者をからかうも、当人たる不審者にしては堪ったものではなかったようで、ぐったり──おそらく気絶──してしまったようだ。
さて、そうなると皓い光球の方だけど、皓い光球は地面に落ちるとまるでペンキを地面にぶち撒けたみたいにペシャッとなり、瞬き数回する内にスゥーっと跡形も無く消えてしまった。
「『先ずは一人。さあ、次は何奴だ? ん~?』」
不審者達は仲間を一人伸された事に色めき立ち、剣呑な雰囲気を醸し出している。
「『なんだ、まだ全員捕まえていないのに、こおり鬼はもうお終いか。──んで、次は何をするんだ?』」
不審者達はペンギンのおちゃらけには又も付き合うつもりはないようで、今度は伸びている一人を除く全員があの滑稽なポーズを取って、その標準をペンギンに全集中。
「『ほう~、次は弾幕鬼か。いいぞ。オレ様の華麗なる回避テクを見せ付けてやろう!』」
しかし、ペンギンもめげないもので、おちゃらけを続行。
──ちょんちょん。
ん?
「メェ~君、なに?」
「なあ、鳥モドキがさっき言った“弾幕鬼”って、なんだ?」
……ああ、弾幕鬼か。
「ペンギンがこの前、『お店』用のPCで遊んでたアプリよ。なんでも、節分の豆撒きをモチーフにしたゲームで、プレイヤーが鬼になって退散ゲージっていうのが満杯になるまでにどれだけの豆を撒いてくる敵キャラを捕まえられるかを競うらしいわ」
「へぇー、そうか」
アタシがメェ~君──じゃなかった、日立さんに弾幕鬼の説明をしている間も、視線は外に固定していたのだが、待てど暮らせど何かしらの動きがないというか、滑稽なポーズをしている不審者達の手の平の前の宙空にあの皓い光球が現れる気配が毛頭もない。
「『フン、なんだ撃ってこないのか? それならそれでも構わんぞ。オレ様は無抵抗な奴には優しくしてやるかもしれないからな。大人しく捕まるがいい!!』」
明ら様な嘲りを吐いたペンギンは一人目を伸したときより素早い動きで、一番近くに立っている不審者との間合いを詰め、またもや物理的リーチが届かない距離で跳び上がり、今度は蹴り上げのモーションをする。
すると、ペンギンの眼前にいる不審者は見えない脚によって顎をまともに蹴り上げられて、数センチばかり宙に浮いてそのまま仰向けに倒れる。
だがしかし、不審者達も今回は黙って見ていたワケではないようで、別の一人が未だ蹴り上げたポーズのまま自由落下にはいったペンギンを目掛け肉弾戦を仕掛けようと肉薄していた。
ただ、それはペンギンにとっては想定内だったようで、ペンギンは宙で身体を捻って向きを変え迫ってくる不審者の方へと向くと、蹴り上げたままの片脚を素早く振り下ろす。
これもまた、物理的リーチはまったく届いていないのに、ペンギンに肉薄していた不審者は首の辺りに強烈な衝撃を受けたようで卒倒してしまった。
「『これで、半分。残り半分もサクッと捕まえてやる────』」
──パァン!
余裕綽々意気揚々なペンギンがみなを言い終える直前、場に乾いた破裂音が響いた。
それは刑事ドラマなどでたまに聞く効果音で、その音の発音源はペンギンから距離が一番遠く他の二人の不審者達の陰にいた一人。
ただ、その不審者は右手を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。
よくよく見れば、夜闇ではっきりとは見て取れないが、押さえられた右手の甲には幾本かの筋が伸び、その先端からは液体が零れ落ちていた。
「『ハンッ。物騒な物を持ち出すから、そんな事になるんだ。──おっと、テメェー等も懐の物を使わない方が身の為だぜ』」
しかし、不審者達はペンギンの忠告に取り合わず、懐に入れた手を引き抜くと、流れるような動作で一人は街灯の光りをキラリと反射するナイフらしき物を数本投擲し、もう一人は先の右手を負傷した不審者と同じ黒光りする物を取り出し銃口をペンギンに向けて引き金に掛けた指を無我夢中で何度も引くも一向に火を噴く気配は無くついには乾いた破裂音を響かせ二の舞を演じた。
「『折角、オレ様が忠告をしてやったのに無視するからそうなるんだ。そして、オメェーは少しばかり知恵を働かせたみてーだが、投げる数を間違えたな。一本か二本だったなら、戦略的撤退も可能だったろうに、な!』」
それはまるで、勝利宣言ともとれるペンギンの物言い。
たが、その物言いが“まるで勝利宣言ともとれる”ではなく、勝利宣言そのものだったことをアタシはしる。
「──ッッー!??!!!」×3
突如、地面に臥せっていない不審者達が苦痛の呻きを漏らして、信じられないといった表情で痛みの発生源──いつの間にか刃物が突き刺さっている脚とペンギンとの間で視線を往復させていた。
「────おいおいおい……、ホントに何なんだよ、あの鳥モドキは!?
具象化した魔法を改竄変異させたり、魔法そのものの発動を無効化したり、半霊物質を用いた打撃をしたり、相手が隠し持っていた物に細工したり、──そして、マジもんの超能力者も真っ青な、投げられたナイフを運動エネルギーを保持したまま全部を各個別空間座標に物質転送するとか……、
“何でもあり”っぷりが、パねー!!」
確かに日立さんの言う通り、まるでご都合主義の権化だ。
「『──さて、オメェー等にはオレ様の遊びに付き合ってくれた礼にいいモノを見せてやるよ』」
なんとまあ、ペンギンはまだ何か不審者達にする気らしい。
まさかとは思うのだけど……、ペンギンはトドメの一撃を刺そうというのだろうか。
既に不審者達は戦意喪失したのか、ペンギンを見詰めたまま微動だにしない。
「『オイオイ、そんなビビんなよ。別に取って食ったり、ましてや魂なんざ取ったりしねぇーから。────単にオレ様とテメェー等の地力の差が如何程のものか、テメェー等の浅はかな行いがどうしようもなく救いようのない愚劣窮まることだったか、脳の随にまで優しく教え込んでやるだけだからさ。な?』」
いや、ペンギンの詞の通りなら、不審者達はどうやらペンギンに対する畏怖で動こうにも動けないようだ。
「『──ったく、片言でも普段使ってる言語でもいいから少しは会話をしようぜ。“オレ様登場”から、この場で喋ってんのオレ様だけとか、滑稽だろうが……』」
「…………………………」
言われてみれば、確かに。今の今に至るまで不審者達は呻き声以外の如何なる言葉も口にしていない。
「『……………………はぁ~…………、そうかい。意地でも、オレ様とは言葉を交わさないってか。
──なら、茶番劇もこれを以て終いにしてやるよ。
とくとその眼に灼き付けるがいい! オレ様オリジナル単独二重詠唱術式魔術──!!』」
「愚者への訓戒→」
「『iaknuKoNeHashuG←』」
「irakiHoNutirneS」
「『戦慄の光』」
「なんだ?! あの鳥モドキ、機械無しでもヒトの言葉が喋れるのか!? それに何だよ、鳥モドキの周囲を奔る、あの光る帯は?!」
日立さんの言った通り、ペンギンを中心にして歓迎会で垣間見た“式”みたいなモノが縦横無尽に数珠なりになって夥しい量奔り回り、さらに二羽分の声が聞こえてきた!?
しかも、その二羽分の声からは同じ声故に区別は付かないが、何方か片方から未知の言語が紡がれている。
「『さあ、刮目せよ、凡愚共! テメェー等には一生涯かけても辿り着けぬ極地!! 魔なる力の可能性を可能な限り極限まて引き出した、オレ様が編み出した究極魔術!!!!』」
「『超ご都合主義』」
「超ご都合主義」
ペンギンの二重音声が同一の言葉を紡ぐと、ペンギンの周りを奔走してい夥しい量の“式”が、ペンギンの前方へと集合していく。
そして、“式”の奔流は蒼白い光になると、ペンギンの前方から解き放たれて、固まる不審者達の近くまで行くと宙空に停止し、まるで重力崩壊する恒星のCG動画みたいに一点に収束していく。──って!?
アタシは脳裏に浮かんだ“重力崩壊する恒星のCG動画”のフィニッシュがどういったものなのか、それに思い至った瞬間、反射的に──、
「──おい?! スミス、何を────!?」
──日立さんを受付カウンターの下に引き摺り倒し、彼のあげる抗議の声を無視して、アタシ自身は日立さんを押さえ付けたまま堅く目を閉じる。
次の瞬間、──音も無く、受付カウンターの陰に隠れた上に固く閉じられた瞼越しにでも眩しいと感じる、灼光が溢れた!
「────…………ンナ、なんつう凄まじい閃光だ……!? スミスが引き倒してくれてなかったら、失明モノだったな、いまのは……」
いまだ、シバシバする目を無理強いしつつ、三度、受付カウンターの上に顔出す。
「『ハン、どうよ、オレ様オリジナル魔術を喰らった感想は? 眼以外には物理的ダメージは一切ナシな上にオレ様が選択した対象にのみ丸一日位は意識が戻らない程度の精神への負荷を与える素敵仕様♪ ──って、聞こえてるワケねーか……』」
すると、其処には死屍累々と地面に臥す不審者達総勢六名を前にして、さっきの灼光の解説を述べるペンギンただ一羽。
だが、聞き手たる不審者達は全員昏睡状態のため、一言ごちるとペンギンはあらぬ方向に首を動かし、
「『──おい、さっさと出てきて連れの連中に此奴等を片付けさせろ、“なんちゃって陰陽師”』」
誰か──いや、ペンギンがいまのアダ名で呼んでいる人物は、確か…………そう、希ちゃんたちの友達でかの有名陰陽師とは一文字違いな“安部 晴明”君に声を掛ける。
────って、はい?
一介の高校生である安部君が、こんな時間に出歩いてる??
アタシの知る限りでの安部君の印象は、彼が夜遊びするような子だとは思わなかったのだけど……──。
「──おや、バレてましたか」
しかし、その言葉とともに街灯の光りの届かない暗闇から姿を現した人物は紛う事無く安部君だった。
そして、安部君の登場を皮切りに、暗闇の中からゾロゾロと不審者達の倍近くの人数の救急隊員の格好をした人達とラフな私服姿の人達数名が姿を現し、瞬く間に救急隊員の格好をした人達は地に臥す不審者達を手際よく担架に乗せていつの間にやらやってきた大型の貨物トラックに回収して何処かへと去って行き、私服姿の人達はぱっと見に清掃を始めたのだった。
「『よくもまあ、そんな惚けた言い回しが出来るな、なんちゃって陰陽師は。今夜の襲撃があるかもしれない事を緊急に連絡してきたのはお前だろうに』」
「はて? そうでしたか? ぼくにはとんと思い当たる節はありませんが……」
「『……おっと、そうだったな。────』」
ん?? アレ?
「なんか、外の声が聞こえなくなったな」
そう。ペンギンは安部君と会話が噛み合わなかったことに一瞬首をかしげるも、直ぐに何かに気付いたのかペンギンは翼の先で声を出す機械に触れると、それ以降、外ではペンギンと安部君がなにやら言葉を交わしているのは見て取れるのに、さっきとは違って全く声が聞こえてくる事は無かった。
「どうする?」
「どうする?」と問われても、
「……たぶん、外には出られないんじゃない、かな」
「まさか……、そんなワケ、ある──かっ! ぐぬぬ…………!」
日立さんは、受付カウンターの陰から出て『お店』の出入口であるドアを開けようとするも、ビクともしない。
勿論、ドアの施錠は解錠しているのにもかかわらず。
「開かねーな。こりゃ」
しかも、日立さんがドアを開けようと奮闘していたのに、外にいる安部君の視線は一度も此方に反応はしていない。意図的に無視している風にも見えないし……。おそらく、彼には『お店』の中の様子や中からの音は分からないのかもしれない。




