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ねこの手、貸します。 秋  作者: 白月 仄
にゃん三章 光の陰で蠢くもの
13/25

さんのよん

「はひ? 呼びました?」

「…………いや、アンタを呼んだ覚えはないぞ。僕が言ったのは中学の時の親友の名前だ」

「??? 何で嬢ちゃんが返事をするんだ?」

 え? だって、─────

「『スミス・メアリ』はアタシの名前です。まさかとは思いますが……、副店長はアタシの名前を憶えてないわけないですよね?」

「…………────」

 ……。

 …………。

 ……………………。

「────…………スマン!!」

 ──がくッ。

「……ホラ、嬢ちゃんのことを誰も本名で呼んでなかったし……、それに音恋が嬢ちゃんの呼び名を変えたときに誰一人も嬢ちゃんの名前を言えずじまいで、以来、嬢ちゃんの名前の話は暗黙のタブーになってたからさ──」

 ──しくしく……。

「……あー、あの~、お取り込み中のところ悪いが、アンタ、本当にスミスか?」

「……ハイ、そうですよ。メェ~君こと──日立さん」

 まぁ、すぐには相手が思い出の中の相手と同一人物とは認識出来ないだろう。

 なにせ別れてから10年近くの年月が経ってるし。

 アタシだって、さっきの『中学生の時に腕輪をあげた話』を聞かなければ、日立さん=メェ~君とは気付かなかったかもしれない。

「──……マジ、なんだな……」

「だから、そう言ってるじゃないですか」

「……な、なら────」

「? なんですか?」

「────腕輪の中に何か入っていなかったか?」

 …………………………………………うわ~、

「ないわ~……」

「ああ、鳴君、それはないな」

「へ?」

「約10年ぶりの再会だっていうのに、再会の喜びを分かち合わないとか……──マジでないです」

「──いや、再会できた事を喜び合うのは後でも出来るから。今はそれより優先すべき事が────」

 なんとも、日立さんは情緒の足りない大人に育ったものだ。彼をメェ~君と呼んで仲睦まじかった中学生時代が懐かしい。


 ──コロンカラン~♪


 そんな感慨に浸っていたら、ドアベルが来店者──お客さんが来たことを告げる。

「いらっしゃいませ」

「こんにちわ、店員さん。カフェの方はもう開いてます?」

「はい、開いてますよ」

「じゃあ、おじゃましますね」

 入ってきたお客さんは常連の近所の若奥様。いつも平日のお昼に『ここ』で行われている主婦(夫)の会の一員で、会の中では一番に『お店』に来ている。

 ──さて、こうしてお客さんも来だしたことだし、雑談はお預け。『ねこカフェ』に来たお客さんへの出迎えの挨拶だけだけど、大切な仕事だ。気を引き締めていこう!

「鳴君、話の続きは今日の営業が終わってからだ。一先ず、鳴君が少なくとも一年は過ごすことになる部屋に案内するから付いてきてくれ」

「……はい……ッス」

 副店長の“話の一時お預け”に、どこか煮え切らない顔の日立さん。

 されど、日立さんは意見はせずに素直に副店長に付いていったのだった。



 午前の日立さんの件以外は、これといった特筆するべきのような事もなく、平穏無事に今日も営業を終了──。

 にゃんこルームから猫達を寝室へと移し、『店内』の掃除も滞りなく完了し、終業のミーティングも何ら問題なく終わった。



 そして、現在──

「────……ってなワケで、日立(ひたち) なるくんこと──ヒツジくんが新たに仲間に加わりました~♪」

「……え~と……、とりあえず一年間よろしくお願いします。っつーか、音恋さん、いまの『羊くん』ってなんスか?」

「え? だって、中学生の時にきびちゃんから『メェ~君』って呼ばれてたんでしょ。『メェ~』と言えば『羊』。だから、『羊くん』なんだよ♪」

「……そりゃ、確かに中学の時にスミスからそう呼ばれてたけどさ……──」

「なら、『羊くん』で、いいじゃない」

「………………納得いかねぇ(ボソっ)」

 ──日立さんのささやかな歓迎会が催されている。

 因みになんで“ささやか”なのかと述べると、今現在この場には希ちゃんと叶ちゃんがいない──平日なのだから当たり前なんだけど……──ので、正式な歓迎会は後日ということに。

「ま、何はともあれ、鳴君が我々の仲間入りをした事を祝して──乾杯♪」

「「「「「乾杯」」」」」

「か、乾杯」

「『乾杯』」

 詩音さんの音頭に各々手にしたグラス軽く掲げて、日立さんの仲間入りを乾杯する。

 ──グビッ、グビッ……。

「『プッハァ~……♪ あ~、些事とはいえ祝い事の酒はやっぱいつも以上に旨く感じるぜ♪』」

 前々から、ふと思うのだけど……、ペンギンがお酒を呑んで大丈夫なのだろうか?

「『あ~んっ?! 大丈夫だから呑んでるんだろうがよ~。それぐらいわからないかのか、小娘は~?』」

 ホント、何時もながら他人様の考えを読むとか、デリカシーの無いペンギンだこと。

「『な~に言ってやがる~! 鳥の中でも最もぷりちーなペンギンの中でも更にぷりちーなこのオレ様にデリカシーが無いなんて事はねぇ()~!!』」

 ──うわ~、まるっきり酔ってくだを巻くオッサンだよ~……。

「なあ、スミス」

「ん? 何ですか?」

「マスターさんの姿が見えないが、マスターさんは通いなのか? ──それと、なんなんだその生き物は? 確かに見た目はペンギンみてーだが、ゼッテえ~、ペンギンとか況してや鳥じゃないだろ?!」

「……ああ、マスターさんは『九十九神つくもがみ』らしくて“珈琲器具(依り代)”から一定距離以上離れられない上に飲食は諸事情で出来ないから遠慮するそうです。ただ、日立さんのことは「なかなか素養がアリそうですね、一年間とはいえ何処まで育つか楽しみです」って仰ってましたよ。次にペンギンのことですが……──」

「『ああ~んっ?! なんだと、何処からどう見てもパーぺきでぷりちーなペンギンであるオレ様を言うに事欠いて「ペンギンとか況してや鳥じゃないだろ?!」だと~っ?! “自称:魔法使い(笑)くん”のクセに生意気だ!!』」

 ペンギンって普段からガラが悪いけど、お酒が入ると輪を掛けてよりガラが悪くなるんだよね~。

「──おい、『自称:魔法使い(笑)くん』ってのは、僕のことか?」

 酔っ払いペンギンのあからさまな挑発にいとも容易く乗っかってしまった日立さん。青筋を立てて今にも爆発しそうで、肝が少し冷える。

「『おうよ~。小娘から聞いたぜ、お前さん中坊の時に“魔法使いを自称してた”んだろ。だから、“自称:魔法使い(笑)くん”なんだよ』」

「──っっっ~~~!!!!??」

 青筋が立っていた日立さんの顔が今度は茹でダコみたく真っ赤に染まる。

 やっぱ、思い出とはいえ、過去の行い(黒歴史)を掘り返されるのは誰もが気恥ずかしい事。日立さんも例に漏れず。

「『ん~ん? ど・う・し・た? そんなに紅い顔をして、“自称:魔法使い(笑)くん”~?』」

 煽り立てるペンギン。質悪!

「──~~~~~~……」

 ペンギンの煽りに日立さんはますます顔を赤らめて俯き、ついには身体までもが恥ずかしさに震えだした。

「おーい、ギーペ。鳴君をからかうな」

「『いくら、歌のにぃちゃんの言葉でも今は聞けんな! ま、見てな。面白いモノが見れるかもしれないから、ちぃ~と、大目に見ててくれよ。な?』」

「──やれやれ……」

 ペンギンの暴挙を見兼ねて窘めに入った詩音さん。されど、一度始めたら滅多な事では聞く耳を持たないペンギンに肩を竦めてあっさりと諦観してしまう。

「『ほれほれ、どうした? 猫女にクレームを付けに来た時のような威勢は何処に行ったんだ“自称:魔法使い(笑)くん”~? それとも、あれか? “父親が魔法使い”なのに“実は魔法使いの血を受け継げてもいないのに魔法使いを自称してたのが恥ずかしい”のかな~?』」


 ──ダンッ!


 突然、音を立てて立ち上がった日立さん。ついにキレたのだろうか?

「……」

「『……』」

 しかし、日立さんは立っただけで、ただペンギンに睨みを利かせるのみ。

 ペンギンもそんな日立さんに応じてか、睨みを利かせ返し、両者睨み合いになる。

「──ちょっと、祝いの席でケンカは止めてよね」

 異様な雰囲気を察した音恋さんが今度は2人を止めに入るも、

「『猫女はすっこんでろっ! ようやく、此方の普通の魔法が拝めるかもしれねぇーんだからよ』」

「あら、ギーペって、そんな事に興味が有ったのね。意外~。ま、好きにすれば。──ただし、暴力沙汰は起こさないでよね!」

 ペンギンからの返しに釘を刺したものの、音恋さんもまた詩音さんと同様に諦観してしまった。

 っていうか、魔法(超科学の実演)に興味アリとかペンギンの普段の言動からは想像もつかない。むしろ、「『ハッ、魔法だぁ~? んな子供騙しに興味があるワケねぇーよ!』」って言いそうなのに。

「『ホレ、今のでオレ様が“何”を求めてるか理解したろ、“自称:魔法使い(笑)くん”?』」

「……………………『魔法を使って見せろ』ってことか?」

「『ご名答。──尤も、マジで魔法使いの血を受け継いでいないのならココで「魔法使い(自称)と法螺を吹いてました」と認めた方が身の為だぞ? オレ様は偶~に嘴が滑る事があるからな』」

 ──わー、陰湿な脅しだ……。

 ホント、ペンギンは意地が悪い。

 そんなペンギンの2者択1の強請に日立さんは──、

「……………………………………………………………………………………──わかった。やってやるよ……。どんな魔法がお望みだ?」

 ──魔法(超科学の実演)を披露することを承諾した。

「『ン~、そうだな~……?』」

「言い忘れていたが、魔法は“万能”や“何でもアリ”じゃねーからな!」

「『ハッ、そんな事は百も承知だ。それに“自称:魔法使い(笑)くん”が使える魔法の種類はオレ様の片足の指の数以下だろうから────』」

「──なっ!? バ、バカにするなよ?! 親父から「みっちり修練を積んだら将来は大魔法使いに成れるぞ」って言われたことがあるんだからな!」

「『────ほお~。だが、それは“たら・れば”の話だろ? 聞けば、父親捜しに東奔西走をしていたらしいじゃないか。そんな彼方此方を駆けずり回っていた間もしっかり修練を積んでいられたのか? ん~?』」

「──うくッ。………………見栄張ってスミマセンした。これでいいんだろ!」

「『うむ。──それで、“自称:魔法使い(笑)くん”はどんな魔法が使えるのかな~?』」

「…………『着火《Ignite》』と『明かり(Lighting)』…………」

「『他には?』」

「……………………以上……だ」

「『他には?』」

「…………………だから、『着火《Ignite》』と『明かり(Lighting)』の二つだけだ……………………」

「『初歩中の初歩と入門だけか……──ま、そりゃそうか。“研究者(余程の物好き)”か“技術としての利用法を閃いた者”……あとは“そういうのが好きな輩”以外には魔法は無用の長物だからな』」

「…………んだよ、バカにしてるのか?」

「『いや、オレ様の知ってる連中が異質だってのを再確認しただけだ』」

「──あっそ」

「『んじゃ、魔法を見せてくれよ、“自称:魔法使い(笑)くん”』」

「………………わーったよ。やりゃ、いいんだろ!」

 やけくそといった感じにペンギンの要請に応じることを告げる日立さん。

 リビング内に居る全員の視線が日立さんに集まる中、彼は徐に“超科学の実演(魔法の行使)”を始める。


  ──我、求むるは

    闇照らす者

    我、描くは神秘の軌跡

    奇蹟の根源にして

    災厄の根源たる魔よ


「『──おいおい、マジかよ……』」

 いまだ何かしらの超科学による現象は起きてはいないが、呪文(であろう)を唱える日立さんを見てペンギンは驚愕と同時に呆れを含んだ信じられないと言った感じの『声』を漏らす。

 一体、ペンギンは何に驚き呆れているのだろうか?

 魔法(超科学の実演)には疎いアタシにはとんと見当が付かない。


    我、描きし路を奔りて

    奇蹟を体現し

    我に光をもたらせ



明かり(Lighting)!」



 大仰な呪文(らしきもの)を唱えた日立さんは最後にペンギンに「使える」と言った魔法の内の1つを高らかに叫んだ。

 すると────


 日立さんが構えた向かい合わせの両手の手の平の合間の宙空に小さな光点が顕れ瞬く間に成人の拳大くらいの光を発する光球へとなった!


「『──ま、こんなものか……。しかし、“ぽんこつ”がポンコツなお陰で色々と此方の魔法がどんな仕組みなモノかを理解できた。ありがとな、“ぽんこつ”』」

 ただ、そんな超科学による摩訶不思議現象を目にしても、日立さんに魔法(超科学の実演)をやるように要請したペンギンは“日立さんが呪文を唱える姿を見たとき”とは逆に“この摩訶不思議現象”が“当然の結果”といった感じな上に、さっきまでは日立さんを焚き付ける為にからかい半分で“自称:魔法使い(笑)くん”と呼んでいたのが摩訶不思議現象を目撃した現在いまでは何等しかの含みが全く無しで“ぽんこつ”呼ばわりする始末。

「『あ~んっ?! 現にぽんこつは“魔法使いとしてはマジでポンコツ”なんだから“ぽんこつ”でいいんだよ、小娘』」

 ──はぁー……。またアタシの考えを読むし……。

「──なあ、鳥モドキ。僕の事を“ぽんこつ”って言ったのか?」

 さて、どうやら日立さんのことをペンギンが“ぽんこつ”呼ばわりした事が、ペンギンと日立さんの間にあった鎮まりかけた種火に油を注いだようだ。

「『ああ、言ったぞ。“ぽんこつ”、お前は“魔法使いとしてはマジでポンコツだ”(笑)』」


 ──ぷちッ。


「んな事は、僕自身が一番分かってんだよ! だがな、鳥モドキに笑われながら指を差されれて言われる謂われは────ねえーーーッッッ!!!!!!」

 あ、日立さんがキレた。

 少し前は恥辱で震えていた日立さんの身体が、今度は怒りで震えている。

 そして、ついに日立さんはその怒りを爆発させる!

「おんどりゃあーーーッ!! この鳥モドキがーーーッ!!!! これでも食らって「目が……目が……目が……──」と、のたうち回りやがれーーーッ!!!!!!」

 そう叫びながら、日立さんは両手の平の間にあった光球を片手の平の上に乗せて野球選手よろしく振りかぶって、ペンギンへと投げ付けた!

 ペンギンと日立さんの間の距離は目測1メートル弱。

 瞬く間に日立さんが投げた光球はペンギンの頭部へと一直線。

 されど───、

「『へっ(笑)』」

 ──ペンギンが鼻で笑った瞬間、日立さんが投げた光球はペンギンの眼前に辿り着くより前に途中で掻き消えてしまったのだった!?

「『ぷくくくく……、なんだよ、あれだけ仰々しい呪文をも唱えたのに明かり(Lighting)の持続時間が五分にも満たないとか、ぽんこつは真性のポンコツだな~(笑)』」

 悪い笑みを湛えて日立さんを謗るペンギン。

 そんなペンギンに対して、日立さんは、

「──アレ……? 明かり(Lighting)の持続時間が落ちてる?? あり得ん。──……いや、まさか、僕の魔法の腕が落ちたというのか?────」

 ペンギンの事よりも、自身の魔法(超科学の実演)の腕が鈍ったのではないかということにご執心みたい。

 ただ、日立さんからは投げた光球の陰で見えなかったみたいだけど、アタシは見た!

 迫り来る光球のコース上に“数学や物理学の教材に載っていそうな『式』みたいなモノ”が顕れて、光球がその『式』みたいなモノに接触した瞬間に光球が掻き消えたのを。

 しかし、この事実を言っても、座席位置の関係で『式』みたいなモノが見えた角度に居たのはペンギンを除けばどうやらアタシだけみたいなので、みんなには信じてはもらえないだろう。──いや、むしろアタシの腕輪には“超科学による現象を無効化する機能”があるのだから、アタシが光球を消したと言われるかもしれない。

「『ハッハー……、その通り~。小娘も聡くなったものよ』」

 うわ~……誉められているのだろうけど、なんか複雑っていうか……嫌味に聞こえる。

 ──まあー、そんなこんなで日立さんの歓迎会は以後もささやかなドタバタ劇が幾度か繰り広げられた後、恙無くお開きと相成った。



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