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ねこの手、貸します。 秋  作者: 白月 仄
にゃん三章 光の陰で蠢くもの
11/25

さんのに


 ──コロンカラン……。


 開かれたドアのドアベルもどこか侘しい音色を鳴らす。

「──ちょっと、お待ちください、お客様」

 ──ピタっ。

 お客さんの体が半分ほど店内から出たあたりで、店長がお客さんを呼び止めた。

「……ん? 何だ?」

 呼び止められたお客さんは「まだ話でもあるのか?」っといった感じに億劫な動きながらも店長の方へ振り返る。

 その顔にはもはや生気が抜け切っていて、さっきとは別人に見える。

 まさに、感情に突き動かされて来るところまで来たが肝心要の目的の手前で足踏みを余儀なくされて現実われにかえったらお先真っ暗だった、といった感じ。

 そんな短時間で変わり果てたお客さんに店長は何用なのだろうか?

「ねぇ、貴方、よかったら『うち』で働かない?」

「へ? アンタ、いきなり何を──?」

 なんと!? 雇用のお誘いとは! ──そういえば、マスターさんの弟子というか後継者探しを兼ねたスタッフ募集をしてたっけ……。

「さっき“路銀が残り僅か”ってぼやいていたじゃない」

「──? ……ああ、考えてたことが口から出てたのか……」

「どうかしら? 一年契約で寝食付きよ。悪い話じゃないと思うけど」

「……………………そうだな……、でも……僕は力仕事ぐらいしか出来ないぞ?」

「その辺の心配はいらないわ。貴方のことは『何でも屋』の店員として雇うのではなく、マスターさんの『お手伝い』として雇うのだから」

「…………………………………………わかった、世話になる」

「雇用契約成立ね♪」

 なんとも、まあ、あっさりと新たな仕事仲間が増えたものだ。1年間の期限付きだけど。

 しかし、何だろうか? お客さん──改め、マスターさんのお手伝いさんを見ていると頭の中で何かが引っ掛かっているのだが、それが何なのか分からずモヤっとする。

 切っ掛けはマスターさんのお手伝いさんのお父さん名前である『日立 轟』。

 地名や企業名ではなく確かに何処かで『日立』という苗字に聞き覚えがあるのだが……、何処だったのかがとんと思い出せない。

「おーい、音恋、書類仕上がったから、後で役所に持ってってくれ」

「ありがとう、詩音くん、お疲れさま。それにしても、ナイスタイミングだよ」

「あん? どうかしたのか?」

「じゃ~ん、『我らが店』に新しい仲間が加わりました♪」

「ほう~。こいつはまた奇遇だな。

 よ、これからよろしくななる君」

「──ッ!? こ、こちらこそよろしくお願いしますッス!」

 ──ん? おや、副店長とマスターさんのお手伝いさんは顔見知り?

「あら、詩音くんは彼と顔見知りなの?」

「ああ。つっても、三年くらい前にオレの初CD発売の記念サイン会で一度会っただけだけどな」

 ──へぇ~、マスターさんのお手伝いさんは副店長のファンなんだ。成る程ね~。

「そんな、一度だけしかお会いしていないのに顔をだけでなく名前札まで憶えていただいていて、僕は光栄ッス。それに詩音さんの歌は新曲が配信されれば即ダウンロードさせていただきましたし、リリースされたCDは何処に居ようとも即ゲットさせていだきました!」

 ──お~、これはまた熱烈なファンだこと。アタシの友人にも勝るとも劣らない副店長のファンっぷりだ。

「そいつは嬉しいね~。ところで、鳴君、君の部屋を用意する前にちぃーっと見てもらいたい物があるんだが、いいかい?」

 っていうか、彼の名前、“『鳴』”っていうんだ……──ッ!? 『日立 鳴』? 先ほどのマスターさんのお手伝いさん──さらに改め、日立さんのお父さんの名前を聞いた時以上に脳内に何かが引っ掛かる。だけど、引っ掛かりは強くなったがそれが何かまでには辿り着かない。

「──へ? え? 僕の部屋?」

「あれ? 鳴君、いま宿無しだよね?」

「はい、そうッスけど……」

「ちゃんと、私は寝食付きって言ったハズなんだけど、聞きそびれちゃった?」

「…………はい、すみません」

「はぁー、ま、いいわ。じゃあ、キミの部屋を用意しておくから、詩音くんの話が済んだら今のところ滞在してる宿泊施設から荷物を持ってきてね」

「あー、それなら大丈夫だ。荷物は手元にあるコレだけだし」

「そう。

 んじゃ、詩音くん、私は昼食の準備をしたら彼の部屋の用意をしとくから、ごゆっくり」

「ああ。そうさせてもらうわ。

 そんじゃ、オレは鳴君に見せたい物を取ってくるから、スマンが待っててくれるか?」

「はい、了解ッス」

 日立さんの返事を聞いた副店長とお昼の準備をするために店長が奥に引っ込んでいく。

 アタシは2人の姿が奥に消えるのを見送ると姿勢を正し、再びお客さんがあと小1時間はくぐらないであろう『お店』の出入口のドアを見つめる。

 しかし、視界の内には『お店』の出入口のドアは映らず、その代わりにというか副店長に待機を言い渡された日立さんが通せんぼの形に突っ立ち続けていた。

「あの~、そこ退いてください。そこに突っ立っていられると、お客さんが来ても『店内』に入れないので」

 いくら小1時間はお客さんが来ないと予測できても、絶対ではないので出入口の前に居られては邪魔。

「えっ?! アンタ、いつからそこに?」

 はいぃ~? 「──……いつからそこに?」って……。

 アタシって、そんなに影薄い?

 ……

 …………

 ……………………──いや、つい今し方自分の過去を振り返ってみたが、小中高大学と同クラスの人達の中では初見の間柄のうちは頭髪の色と顔立ちの組合せ故に目立っていたと記憶している。

「アナタが『お店』に怒鳴り込んできた時点には既に接客カウンター(ココ)に居ましたが、目に入りませんでしたか?」

「…………あー、スマン。頭に血が上っていて気付かなかったわ」

「……ハァ~……。そうですか。兎に角、そこに突っ立っていられたら、お客さんの邪魔になるので退いてくだい」

「──つーか、アンタ、僕と昔にどっかで会ったことない?」

 ──イラっ!

 そりゃ、アタシも日立さんのフルネームを知って、頭の片隅で「昔に何処かで会ったことがあるのかも……?」って考えが過ったが、今は仕事中なのだ。

 それに日立さんは今日からは同居人になったのだから、上記の事は後でも話し合える。

 なので、今現在現時刻においては日立さんが即刻に『お店』の出入口であるドアの前から退くのが最優先事項なのだ。

「そういった話は後にしてください。いまは直ちにその場から退いてください。邪魔ですから!」

「──いや、確かに昔に会ったと思うんだ。まだ朧気ながらだけどもアンタには懐かしさを────」

「くどいです!!」


 ──ぐめしっ!!


「────げめっふっ?!!?」

 日立さんのあまりのくどさに、アタシは堪らずレジカウンター上にあった店長が投擲して日立さんにクリーンヒットした後に偶々カウンターの上に落下していたトレイを投げつけてしまった。

 でも、悪いのは日立さんだ。

 アタシは再三「ドアの前から退くように」と言ったのに無視して話し掛けてきたのだから。

「おーい、鳴君、待たせたな──って、蹲ってどうした?」

 日立さんに見せたい物を持って戻ってきた副店長。

 トレイが再び顔面を直撃して、その痛みに悶えている日立さん。

 そんな日立さんの姿を見て副店長は「どうなってんの?」とアイコンタクトでアタシに問い掛けてきた。

 どうやら、副店長はアタシが投げたトレイが日立さんにヒットしたところは見ていないようだ。

 アタシは────

「彼、アタシが「ドアの前に立っていられると邪魔だから退いてください」と再三言ったのに退いてくれなかったので、やむなく実力行使に出たんです。そこに丁度、副店長が戻ってこられたってワケです」

 一瞬、でっち上げた話をしようかと魔が差しかけたが、素直に真実を副店長に告げた。

「なるほど、ね。そいつは確かに鳴君が悪いわな」

「……痛ツツ……そ、そりゃ、ないッスよ……。僕はただ、ちょっと話をしようとしただけなのに……トレイを顔面に投げ付けるとか……──」

「──はいはい、言い訳はいいから。そんなことより、コイツを見てくれ」

「……? 何スかコレ?」

 日立さんが副店長にそう問うのも仕方ない。

 何故なら、副店長が日立さんに見せた物は正八面体の結晶体クリスタル

 しかも、摩訶不思議なことにその結晶体は副店長の手の平の上数センチの空中に浮揚というか静止していて更には結晶体を中心にして黒い光りが円軌道で延々と周回しているのだ。

 ただ、この黒い光りは結晶体を容れ物に入れたり結晶体自体に直接触れると消えてしまうといった特徴がある。

「コイツは悠久なる四季の眠る森』の“『鍵』”だ」

「──コレが“『鍵』”ッスか……」

 それは無意識な行動。日立さんは結晶体が“『鍵』”と知って、おのずと手が伸びて副店長の手の平の上の結晶体に触れようとした。

「ん!? 鳴君、不用意に手を出したら────」

 しかし、────


 ──バチィッ!


「──痛ッ!?」

 日立さんが伸ばした手は結晶体から数センチ手前で謎の静電気のような現象が起きて弾かれた。

「────あぶないぞ。って、手遅れか……」

 副店長が注意を促すも時既に遅し。

 3度、痛みに悶える日立さん。

「……テテテ……。……何スか、今のは?」

「盗難防止のトラップだ。所有者からの許可が無い状況で触ろうとするとそうなる」

「そうなんスか……。先に言っといてくださいッスよ……」

「いや、言う前に触ろうとしたのは鳴君の方だろ?」

「……………………っ! ……あー、そうだったッスね。すみませんでしたッス」

「わかれば結構。ところでだが、鳴君はコイツと同じもしくは似た“物”を見た事がないか? ほれっ」

 副店長は結晶体を日立さんへと放り投げた。

 放り投げられた結晶体は放物線を描き迷うことなく日立さんのもとへ。

 日立さんは条件反射で放り投げられた結晶体を受け止めようと手を出すが、一瞬、先の経験が過ったか出した手を引っ込めようとした。しかし、意を決したようで引っ込めようとした手を再び出して結晶体を受け止める。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 今度は先ほどのような静電気みたいな現象は起こらず、結晶体は副店長の手の平にあったときのように日立さんの手の平の上に浮揚していた。

 そして、日立さんは自分の手の平の上にある結晶体をマジマジとためつ眇つ見つめる。

「……いえ、ないッス。こういった“『物』”は初めて…………────!?────……いや、昔──そう昔に、親父がコレに酷似した“物”をいじってるのを見た事があるッス。確か…………そう、コレと似たヤツを……輪っか…………たぶん、腕輪だと思うんスけど、コレと似たヤツを腕輪の中…………中に……──」

「ん? どうした、鳴君? 続けてくれ」

 最初、副店長からの問いに否と返した日立さん。けれども、何やら思い出したみたいで、記憶を手繰りながら語り出すも途中で言い淀み口を噤んでしまった。

 口を噤んだ日立さんを訝しがるも話の続きを促す副店長。

「……………………………………………………………………………………」

 されど、日立さんは口を噤んだまま。

 一体、日立さんはどうしたのだろうか?

「──フム。何かしら話せない事情があるみたいだな。なら、話さなくてもいいさ。悪かったな、鳴君」

 副店長は日立さんの現状から何かを察したようで、黙りこくったままの日立さんの手の平の上にある結晶体を回収すると話を切り上げ────

「──ま、待ってくださいッス!」

 ────だがしかし、黙ったままだった日立さんから待ったがかかる。

「いや、別に無理して話さなくてもいいんだぞ?」

「そうじゃないッス!」

「?」

 どうやら日立さんは話せない事情があるわけではなく、別の何かで話すのを躊躇っていたみたいだ。

 ならば、その別の何かとは──?

「……………………あの……、俄かには信じてはもらえないかもしれないッスが………………その…………、僕のお……親父は“魔法使い”なんッス!!」

 なんとッ! それは衝撃(笑撃)の事実!!

 日立さんのお父さんは魔法使いとか。

「──ほう~……そいつまた面do……じゃなくて興味深いね」

 いま、副店長は「──……面倒……──」って言い掛けた! すぐに訂正はしたけど、アタシは聞き逃さなかった。

 しかし、日立さんは副店長が言い直す前の言葉は聞こえていなかったようで、

「へ? ……………あの、バカにしたりしないんスか?」

「ああ、しないよ。鳴君の目を見れば判る。君が与太話ではなく真実の話をしているってことは」

 それどころか、副店長に話を信じてもらえるかどうかでいっぱいいっぱいだったみたいだ。

「……じゃ、じゃあ、さっきの話の続きをするッスね」

「わかった、聞こう」

「──親父はソレに似たヤツを腕輪の中に入れたって言うか仕舞ってたんス」

「腕輪の中に?」

「はいッス。上手く説明出来ないんスが、その時に親父から聞いた話によれば魔法で異空間を生み出して其処にソレに似たヤツを仕舞ったのだとか」

「へ~、そりゃまたまるっきり青狸のポケットみたいだな」

 ──へ~、腕輪の中に物が仕舞えるとか、少し便利かも。

 もしかして、この腕輪の中にも何か入っていたりして?

 あー、でも、どうやって入れた物を取り出すのだろうか?

 『出てこい!』みたいなことを言って腕輪を振ったら出てきたり……?

 ──それとも、不可思議現象を一時的に無効化する機能と同様に念じたら、出てくるのかな?

 ……………………よしっ。

 ──何か、出てこい!

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