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ep13 のの猫、壊れる。

 彼女さんが見せてきたのは、のの猫のアーカイブ。


 画面内では愛しの猫ちゃんがダンジョンでモンスターと戦っていた。


 相変わらず、ダンジョン以外で配信しないな。そう言うストイックなところ好きなんだけども。


 心の中のガチ恋センサーが反応するのを感じるぜ。


 動画内で、のの猫はオーガと戦闘を繰り広げていた。

 オーガはBランク指定のモンスターで、Cランクが対処するなら複数人で当たる相手である。しかし、彼女はこれを一人で行い——なんと勝利していた。


(というか、なんか前より動きがよくなってる?)


 常に視野が広いし、戦闘の際の立ち位置。

 周囲を確認するタイミングなど。

 細かな動きが以前より洗練されている。

 まぁ、それでも甘い部分はあるけれど。


 しかしそれでも目を見張る成長だ。

 他の探索者と比例しても回避が上手いのの猫にとって、搦手を使わないオーガは相性のいい相手ではあるが、それでもノーダメ撃破は異常だ。


『ふぅ、なんとかって感じかにゃ~。飼い主のみんな、どうだったー?』


 コメ欄も絶賛の嵐。


:……え、ヤバくね?

:レイジから知ったけど、この子エグない?

:さすねこ!

:にゃ~←可愛すぎかお前

:Jcの無料で見れるえっちな動画上げてます♡♡♡→www.Dtube...

:スパムくんもよう見てる


『えへへ、ありがと。私自身、ここ最近手ごたえ感じるんだよね。正直この企画始めた時はどうなるか分からなかったけど……上手くいってる、かな?』


 ぺろりと唇を舐めるのの猫。

 企画? と一瞬意味が分からなかったが、動画のタイトルを見て察する。


【スパチャ師匠のアドバイスを受けて成長する配信! #のの猫#ダンジョン配信#渋谷ダンジョン】


 ほう……ほう?

 つまりはどゆこと?

 疑問に思っていると画面に文章が表示される。


『今回参考にしたのは【魔速型発動のコツは手足からではなく、腹を中心地点として意識し、全身に伸ばす感じ】ってコメント。発動までの時間がかなり短縮されるね』


 それは何でもないただの文章だった。

 しかし内容には覚えがある。


「あれ、このアドバイス昔送ったような……?」


 俺の愛情籠った文章ではないが、以前似たような内容をお伝えした覚えがある。

 小首を捻っていると、スマホを持っていた彼女さんが答えてくれた。


「他にもこんな感じのスパチャの指示を受けていましたよ」


 見せられたのはいくつかのスクショ。

 どれもこれも見覚えがある。


 驚いていると彼女さんは配信アーカイブに戻り、続きを再生。


『この人のスパチャ、ほんと参考になる……』


:Cランクにそう言わせるのヤバすぎ

:まぁ、上位探索者の中にも見てる奴はおるやろうしな

:有能指示厨ニキ

:そういや昔、クソきしょい指示厨おったよなww

:↑五万スパチャの影猫やろ

:なっつ

:最近おらんよな

:逆張りキャットのお財布やろ?ww

:関係ない話すんなよ

:おっすおっす自治厨さん!

:相馬擁護配信以降コメ欄荒れてんなぁ


 ……まじか。

 見てなかったから知らないけど、俺のせいで荒れてたのか。


 しかし流石はのの猫。

 面倒くさいコメントは華麗にスルーし、笑顔を崩さず配信を続ける……かと思いきや。


『……影猫さん』


「……え?」


 あれ?

 今名前呼ばれた?

 なんで?


『——っ、ぁああああっ!』


 疑問に思っているとのの猫は頭を抱えて蹲ってしまった。

 これにはカメラマンの笹木さんも驚いたのか慌てた様子で駆け寄っていく。


『ど、どうしたの猫ちゃん!?』


『ぁあああっ、もう! 戻りたい! 過去に! 戻りたい!』


『えぇ……?』


『影猫さん! 影猫さんですよ! どうして配信に来てくれないんですか!? スパチャも全額返金したいし、これまで気持ち悪い指示厨って思ってたの謝りたいのに! 一生最推しって言ったじゃないですか!?』


『ね、猫ちゃん!? なに言って——え、これなに!?』


:!?

:!?

:!?

:!?

:Jcの無料で見れるえっちな動画……!?

:スパムくんもこれにはびっくり

:!?

:な、なんだ!?

:猫が壊れた

:のの猫がおかしくなった

:笹木よ、ワイらに聞かれても困るンゴ


『影猫さん! 今までのスパチャ全部ちゃんと改めて読みました! どうですか!? 改善してますか!? 私の動き!? 私は貴方が上位の探索者だと——私より格上の探索者だと確信しています! 事実、過去のアドバイスだけでこうなった! 私は、私はもっと強く、強く強くなりたい! だからっ! だから——!』


『ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!? 兎に角いったん落ち着いて猫ちゃん!』


 と、そこでアーカイブは終わった。


 今更ながらに確認すると、それは二日前のアーカイブ。

 動画時間が三時間を超えているにもかかわらず再生数は二十万回を超えていた。


「切り抜きでこの発狂部分がバズったみたいで、爆伸びしたんですよ」


「えぇ……」


 まぁ、確かに普段落ち着いてるのの猫が爆発してるのは面白かったけども。


「それで以前お会いした時、相馬くんのアカウント見て『この人が影猫なんだー』って知っていたので」


 わざわざ教えてくれた、ということか。


「なるほど。それで最近見てないってバレたわけですか。……ていうか、影猫ってバレてたんですか?」


「はい」


「……因みに彼女さんって、のの猫リスナーなんですか?」


「そこそこ古参ですよ」


 偶然だね、俺もだよ。


「……」


「ごめんね。正直、私も気持ち悪いスパチャだなっていつも思ってました」


「……」


「彼氏は気付いてないし、私も誰にも言うつもりはないから、安心してください」


「……ありがとうございます」


 彼女さんに感謝しつつ、すっかり焼き上がっていたカルビをパクり。

 油のうまみと焦げの苦みを口の中に感じつつ、俺は思った。


 まったくもって恥の多い人生である、と。

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― 新着の感想 ―
気持ち悪いと思ったこと自体は謝る必要がまったくないのでは。
お人好し、ましてや最推し 見捨てられる訳もなく・・ドロ沼?
気持ち悪いスパチャは人間失格レベルなのか……
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