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住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?  作者: 赤月ヤモリ
第三章 渋谷ダンジョン編

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ep64 ひと段落

 夜空の激戦を見届けて、私は笑う。


「あぁ、やはりキミでは力不足だったようだ」


 ナイトメア・エンジェルロード。

 度重なる種族進化を繰り返し、力を分け与えた彼のモンスターは間違いなく神話時代の力を手に入れていた。しかしそれでも、あの少年には敵わない。

 私は、先ほどエンジェルロードから回収した『指輪』を夜空に掲げ、輪の中に少年を嵌めこむように覗き込む。


「私の本命は、キミ……いいえ、あなたです。相馬創」


 荒い息を吐いて、天使を魔石ごと消し飛ばしてみせた少年。

 亜獣の英雄の手を借りたとはいえ、間違いなく神話時代でも上位に匹敵する力を見せた彼なら、私の期待に応えてくれるだろう。


「何しろあなたは、私と同じなのですから」


 私は指輪をぎゅっと握り、少年に背を向けて歩き出す。


「だから私はあなたを――相馬創を殺して差し上げます」


 絶対に。



  §



 エンジェルロードとの戦闘を終えた俺は、荒い息を吐きながら礼司さんたちの下へと帰還した。

 地面に降り立つと同時、肌の色が元に戻る。

 ナイトメア化が解除されたのだろう。


 何度も『インフェルノ』を放った結果、服は消し飛び当然のように全裸。

 すると集まっていた探索者の一人が、付近の店から購入したのかパクったのかは分からないが値札付きのズボンを差し出してくれた。礼司も同じズボンをはいているので、俺に渡した後で履き替えていたのだろう。


 緊急事態ということもあり俺は感謝しつつ、ズボンをはく。

 フルチンにズボンはやっぱりすーすーして好きじゃないんだよな。

 あと、贅沢かもしれないけど上も欲しかったよ。

 みんなちゃんと服を着てる中で、上裸なのは俺とバドラクルスの二人だけ。


 変な注目浴びてちょっと恥ずかしい。


 と、そこで礼司が何やら話しかけてくるが、生憎と今の俺は鼓膜がないので何も聞こえない。ジェスチャーでそのことを伝えると、満身創痍のヤトラが回復させてくれた。


「これで、聴こえる!」


 余程疲れているのだろう。

 ぜーはーぜーはー息をしてヤケクソ気味に吠える桃色の髪の少女に感謝を述べる。


「あ、あぁ、ありがとう。えっと、それで礼司さんは何と?」


「何、これからどうするのかと思ってな」


「そうですね、とりあえず目下の課題は彼らですが……サドラ。お前らは、このままおとなしく捕虜になってくれるってことでいいのか?」


 問いかけた先は、抵抗する気力すら見せない決戦騎士団とバドラクルス。

 騎士たちは武器を置き、軽く両手を挙げながらその場に座り込む。


「ここまできて、争う気など起きないとも。煮るなり焼くなり拷問するなり好きにしてくれ。ただ、その前に一つだけ言っておくことがあるとすれば……相馬創、貴様が今するべきはその話ではない。――クァン」


「うへぇ!? 本気ッスか!? うぐぐぐ……んがぁ!」


 何やら集中したかと思うと、交差点の一角に魔法陣が出現した。

 クァンが発動したということは転移魔法陣なのだろう。


「それ、三十六階層に繋げてあるやつッス。他の人たちを助けに向かうなら早くするッスよ。流石に限界で、そう長持ちはしないっすから」


 言われて思い出す。

 そうだ。

 決戦騎士団を無効化し、バドラクルスも無効化し、イレギュラーのナイトメアエンジェルロードも討伐したが、まだ三十六階層では白木やのの猫、富岡さんや娘の沙耶さんたちが戦っているんだった!


「俺たちも行こう!」


 そんな礼司の言葉に、彼のパーティーで回復魔法を使う清水さんと斥候を担当する吉瀬さんが首肯を返す。


 一方で米山ニキと時雨さんは――。


「俺たちはここでこいつらを見張ろう。敵意もないし動けないだろうが、誰かしらが監視する必要があるだろう」


「そっちはお願い」


 二人の言葉に「お願いします!」と返し、俺と礼司たちは魔法陣に飛び乗った。

 一瞬の浮遊感の後、視界が明け――そこには。


「にゃにゃにゃにゃにゃ~! のの猫さんが最強にゃああああああ~!!」


「わははははっ!! まだまだいけるよぉおおおおお~!!」


「ちょっと白木ちゃんに猫ちゃんさん! 最高にハイってやつになっちゃってるよ!?」


「天使の羽……手羽先……うっ、お腹が……っ」


「ちょっとあんたたち集中して!」


 なにやらハイテンションに暴走するのの猫と、白木。

 そんな二人にツッコミを入れる江渡と、こんな状況でもお腹を空かせる友利。

 そして、そんな四人に叱咤を飛ばす伽耶さんの姿があった。


 彼女たちの少し後方では、エンジェル・ナイトをスパッと斬り殺しながらため息を吐く富岡さんの姿も見える。


「若い方は元気があっていいですね。……おじさんにこの長期戦は骨が折れます。あっ、今まさに腰の骨がぎっくりって感じで悲鳴を上げました」


「お父さん!?」


 親子漫才を繰り広げる富岡親子。

 慌てて訪れた三十六階層は、想像していたよりもかなり探索者優勢の状況だったらしい。一部怪我を負った探索者たちは中央に集まり、前衛やタンクが時間を稼ぐように戦う。


 そしてその横を、富岡さんやのの猫、白木といった火力のある探索者が仕留める形を取っていた。


 結果、全体的に疲弊は激しいが、命を落とした者の姿は見えない。


 残るはエンジェル・ナイトとポーンが十体ずつ。

 この人数差なら、容易に討伐し終えてしまうだろう。

 が、わざわざそれを待つ必要はない。

 死人は居ないとはいえ、怪我人は多い。

 中には腕や足が消し飛んでいる探索者も散見される。

 時間が経てば経つほど回復の可能性が下がるので、俺は礼司さんと目配せすると――。


「遅くなりました! 手を貸します!」


「俺も出る! 芳香と百合は怪我人に回復魔法を!」


 礼司の言葉で吉瀬さんと清水さんが怪我人の下に駆け出した。

 二人が襲われないように注意しつつ、俺と礼司は魔法で無理やり道をこじ開けた。


 突然の乱入に他の探索者の視線が集まり、同時に俺たちの姿を見て目を見開く。

 当然だ。俺も礼司もはっきり言ってボロボロで、とても戦えるような状態に見えないのだから。だけど――戦闘が始まってしまえば、周囲の心配は一気に霧散する。


 目にも止まらぬ速さでモンスターを蹴散らす俺と、正確無比な一撃で真正面からエンジェル・ナイトを切り殺していく礼司。


 正直、礼司からすればエンジェル・ナイトは決して楽な相手ではないはず。しかし、バドラクルスやエンジェルロードと対峙したことに比べれば、目の前の敵などなんてことはない。


「……すっげぇ」


 それは誰の声だっただろうか。

 確認する間もなく、俺たちは天使の軍勢を切り殺していく。

 右に左に、地面を蹴り天井を足場にし、縦横無尽に駆け巡りモンスターを掃討する。


 やがて、残すは二体。

 俺と礼司は同時に剣を構えようとして――やめた。


「最後にいいとこだけ持っていくとか、ズルいいいい!!」


 大剣を担いだ白木が風属性で舞い上がり、一匹の首を力任せに切り落とす。

 そしてラスト一匹は――。


「これはッ、のの猫さんの獲物にゃあああああああッ!!」


 のの猫の細剣が鎧の隙間から天使の頭蓋を貫いた。

 メイスを振り上げていた天使は動きを止めて倒れ、その肉体はダンジョンに飲み込まれて消える。残されたのは小さな紫色の魔石のみ。


 これで、天使の軍勢は全滅した。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 肩で息をしながら魔石を拾い上げるのの猫。

 俺は近付いて声をかけようとして……その前に彼女は俺を睨みつけながら吠えた。


「どうにゃ! 師匠!」


「あ、えっと……?」


「何か言うことが、あるんじゃないかにゃ!?」


 ぷんぷんと怒った姿がとても可愛い、とかだろうか。


(いや、違うな。そうじゃなくて……)


 俺は大きく息を吸い込むと、のの猫の瞳をまっすぐに見つめてから――頭を下げる。


「ごめんなさい。のの猫さんは、俺が守る必要なんてないぐらい……格好いい探索者です」


「……ほんとに?」


「えっ、えぇ……」


「本当にそう思ってるにゃ!?」


「お、思ってます!」


 シャー! と威嚇するように顔を寄せるのの猫。

 可愛い顔がすぐ近くに迫り、思わずドキドキする。

 と、彼女は表情を緩めて……。


「……ん、いつもの師匠に戻ったにゃ」


「え?」


「何でもないにゃ。とにかく分かったならそれでいいから……もう絶対に、二度と舐めたことは言わないで!」


「はい。のの猫さんは俺が世界で一番憧れてる探索者です」


 素直に告げると、それはそれで恥ずかしかったのか頬を主に染め「わ、分かったならいいにゃ」とそっぽを向いてしまわれた。可愛いのでもっと揶揄いたくなるな。


「ねーねー、相馬っち。ほんとに大丈夫そ?」


「白木か。あぁ、骨とかいっぱい折れてるけど、たぶん命に別状はないよ」


 ナイトメア・エンジェルロードと戦った際にぽっきりと折れた腕は一応氷で添え木をしてある。感覚は残っているので、後から回復魔法を駆ければ十分だろう。


 しかし白木は首をフルフルと横に振った。


「そうじゃなくて……その、言葉にできないんだけど、あの騎士っぽい人たちに着いて行った時、明らかにおかしかったから」


「……あぁ、今のところは大丈夫だ。心配してくれてありがとう」


 頭を撫でると白木は目を見開いて距離を取った。

 口をへの字に曲げ、のの猫同様に照れたように頬を染めている。


「あー、えっと。悪い」


「いや、ちが……んぐぐ、なんか変な感じ!」


 と吐き捨て、白木はぐったりと座り込む江渡に抱き着きに行った。

「江渡ちゃん助けて!」と飛び込む白木に「重いんだけど!」と突っ込む江渡。

 微笑ましい光景にほんわかしていると、袖口を引っ張られる。

 振り返ると、そこには全身怪我だらけの腹ペコガールの姿があった。


「友利、大丈夫なのか?」


「ん、ちょっと痛いけど、大丈夫。……相馬、お疲れ」


 ぐー、と握りこぶしを突き出す友利に、俺も答えるように拳を突き出した。


「友利もお疲れ」


「うん、お腹すいた」


「俺も腹減ったな」


「私があげたカロリーメイト、食べた?」


 そう言えばダンジョン出発前にもらったっけ。

 ポケットに入れていたが、おそらくはサドラたちとの戦闘中に発動した『インフェルノ』で燃えてしまっただろう。


「悪い、戦ってる間に無くした」


「……ふん」


 げしっと蹴りが飛んでくる。食べ物の恨みは怖いとはこのことか。


「お詫びに今度何か奢るよ。白木たちも一緒に」


「ん、楽しみにしてる」


 そう言い残し、友利も白木と江渡の下へと駆けて行った。


「相馬さん、少しいいですか?」


 よく話しかけられるな、と思いながら視線を向けると、これまた満身創痍の様子の富岡親子の姿があった。


「富岡さん、伽耶さんもご無事でよかったです」


「相馬さんの方こそ。……無事、というにはいささか怪我の度合いは酷そうですが」


「だ、大丈夫? すぐに回復魔法使える人に診てもらった方が……」


 あわあわと青い顔で俺の折れた腕を気にする伽耶さん。

 何というか、初めて会った時のキツイ印象が消えてそこはかとないポンコツの雰囲気を感じる。


「これぐらい大丈夫ですよ。今はほかの人たちを優先して欲しいので」


 本当はすぐにでも地上に帰還して、全員を回復させるべきなのだがそれでは時間がかかる。とにかく欠損レベルの怪我をしている人にリソースを割いて、骨折程度の怪我は我慢するべきだ。


「む、無理しちゃダメだからね! 何かあったらお姉さんがどうにかするから!」


 どうにかってどうするのだろう。

 まぁ、励ましてくれてることは分かるので、気持ちだけいただくとしよう。


「はい、頼らせていただきます」


「んぐっ……」


 何故か言葉に詰まって、スススッと距離を取る伽耶さん。

 そんな彼女と入れ替わるように富岡さんが近付く。


「娘がすみません」


「? いえいえ、それより富岡さんもお疲れさまでした。戻ってくるのが遅くなり、申し訳ありません」


「それは構いませんよ。……それより、あの騎士とはどうなったのですか? それに何故雲龍さんと一緒に……?」


「あー、それはちょっと話せば長くなると言いますか……ただ、先んじてお伝えしておきますと、騎士やバドラクルスは生け捕りにしました。その、どうしても命を奪うことはできなくて……」


 きっと、俺の選択は正解ではないだろう。

 でも、これしか選ぶことが出来なかった。


「……よく分かりませんが、人殺しなんてするものではありませんよ。生きて捕らえることが出来たのなら上々です。お疲れさまでした」


 と言って、肩をポンと叩いてくれた。

 なんだろう。それだけのことで……少し救われた気がする。


「ありがとうございます、富岡さん」


「いえ、これからも何かあれば遠慮なく相談してください」


 優しい笑みを浮かべる富岡さんに頭を下げる。

 と、同時に怪我人の治療が粗方終わったので、地上に帰還することになり、俺たちは三十六階層を後にするのだった。

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― 新着の感想 ―
白木さんと猫さんが倒してのはポーンでAランクなのかな? それを踏まえても、Sランク100体以上の軍勢相手にこれはなんか世界観変わってない?って感じの違和感が強かった そんなに弱いの?Sランク それとも…
やばいヤンデレな神様に目をつけられてるね
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