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住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?  作者: 赤月ヤモリ
第三章 渋谷ダンジョン編

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ep58 vsバドラクルス・エルデカイデン

 拳を構えてバドラクルスと対峙する。

 鋭い目つきに、一切隙のない立ち姿。


 互いににらみ合い、警戒し合い――俺が小さく息を吐いた刹那、タイミングを外すようにバドラクルスが動いた。

 彼は一息で彼我の差を詰めると、鋭いパンチを繰り出す。

 回避しようと首を傾げ……直後腹部に蹴りが突き刺さっていた。


(……っ)


 身体が後ろに吹き飛ぶが、空中で姿勢を制御。

 食道を血が込み上げてくるが、吐き出す手間すら惜しいと嚥下する。

 再度拳を構え直すと、魔速型で勢いをつけてお返しとばかりに拳を振るった。


 だが、バドラクルスは余裕の笑みを張り付けながら俺の拳を受け止める。


「……っ、マジかよ」


「はっ、素人が。……っ、いってぇ!」


「あ、え?」


 拳を受け止めた直後、手を離してぶんぶんと振って痛みを逃がすバドラクルス。


「くそ……マジで身体能力は化け物かよ」


 苦悶の表情を浮かべるバドラクルスは、どう見ても演技ではない。

 これがサドラたちなら怪しむが、ここまでの性格から見ても、彼は随分と素直な性格をしている。


 つまり、攻撃が通じているのは事実。


「次は倒す」


「はんっ、いいぜぇ……面白くなってきた!」


 自分にダメージを与えた相手に対し、それでもバドラクルスは臆するどころかテンションを上げる。 

 俺も一気に集中力を高め……再度ぶつかり合う。


 そして戦いの中で気付く。

 やはり彼もまた、一流の技術を有した人物であると。

 それも、格闘術に関してはテスタロッサの剣術に匹敵するほどの洗練された動きを見せている。一切読めないフェイントに加えて、どんな体勢からでもこちらをノックアウトできるほどの威力を放つ殴打と蹴り。


 対する俺の動きは肩や腰の僅かな動きから次の行動が予測され、動き出しを潰すように攻撃が加えられる。


『魔質増強剤』や時雨さんの身体強化魔法がなければ、まともについて行くことすら不可能。拳や足の動きなど、それ自体はルナリアやテスタロッサの剣閃ほどの速さはないのに、常に嫌な位置取りをして攻撃を当てようとしてくる。


 徒手空拳における戦闘では、彼我には大きな差があった。


(けど、氷の剣じゃそもそもあの毛皮を斬ることすらできない)


 先のパンチを受け止められた際、その毛皮や皮膚の厚さを拳越しに感じた。

 あくまでも感覚の話だが……どれだけ速度を付けて斬りかかっても、傷をつけることは不可能だっただろう。これは技術や力量差の問題ではなく、魔法で作られたとはいえ『氷』という材質の問題だ。


 突破できるとすればアダマンタイト製の剣ぐらいだが……生憎この場にそんな物はない。故に――俺がこいつを倒す方法は限られる。


(少なくとも打撃や衝撃を殺し切ることはできない。なら――)


 テスタロッサの時と同じだ。

 技術には手数で、フェイントにはすべて引っかかったうえで、その全てを身体能力だけでカバーする。


 バドラクルスの乱打を回避することに集中する。

 顔面、腹部、肩、足、股間――特に急所を重点的にガードすることで、動きに慣れることに集中する。捌ききれないのは潔く受け止め、骨を砕きながら反撃の機会をうかがう。


「……」


「……」


 だが、流石に経験の差が生じ始める。

 バドラクルスが優勢になり、俺は圧されて一歩、二歩と後ろに下がる。

 刹那、好機と言わんばかりにバドラクルスが前のめりになり――それと同時に俺は『アイススピア』をバドラクルスの眼球の前に生成した。


「……っ、しま――」


 それは、一瞬の判断ミス。

 俺は『アイススピア』を囮にして、バドラクルスの腹部目掛けて『No.1アルファ』を振り抜いた。


 ゴンッ――と金属を叩き付けた音と同時に、バドラクルスの巨体がゴムボールのごとく弾かれて、近くのビルに直撃した。


「……っ、はぁ」


 大きく息を吐き出しすと同時、周囲から割れんばかりの声が上がる。


「っ、え、え?」


 困惑しながら見まわすと、取り囲んでいたみんなが俺に向かって歓声を飛ばしていた。


「す、すげぇええええ!」

「相馬やっべぇ!!」

「何やってるのかマジで見えなかったんだが!?」

「レベル違い過ぎるだろ!!」

「えぐいて~! えぐいて~!」


 そんな彼らに驚いていると、背後から礼司さんたちも近付いて来る。


「相馬くん、大丈夫かい?」


「えぇ、まぁ。……ただ、出来ればもう少し下がっていただけると嬉しいです」


「……え?」


「まだ終わってませんので」


 ビルの方へと視線を向けると、立ち込める粉塵の中で人影が蠢く。


「……はっ! やべぇ、やべぇ! 骨何本か持ってかれたぜ!」


「割と本気の一撃が入ったと思ったんだが?」


「だろうな。俺じゃなきゃ終わってただろうさ。……だが、人狼はその辺タフだからなぁ」


 軽く肩を回すバドラクルスは、碌にダメージを受けた様子もない。

 インパクトの直前、自ら後方にジャンプすることで致命傷を避けたのだろう。


 周囲に絶望が伝播し始める。

 もう駄目だ。ここで死ぬんだ。勝てない。

 そんな感情が、周囲の一般人や背後の探索者たちから漂ってくる。


 が、俺は何も思わない。

 この程度で絶望することはない。

 心が折れることはない。

 第一、『回避した』ということは『有効打だった』とバドラクルス自身が判断したという証左だ。


(なら、もう一度……今度は回避できないように叩き込むだけ)


 分かりやすく、希望しか見えない。

 再度構える俺に対し、バドラクルスは右手を上にあげて軽く振りながら語りだした。


「相馬ぁ……力が湧いてくる魔法って、知ってるか?」


「……は?」


「『もう駄目だ』とか、『勝てない』とか……そうやって諦めそうになった時に、力が湧いてくる不思議な魔法のことだ」


「こんな時にふざけているのか?」


 視線を鋭くする俺の前で、今度は両手を大きく広げて答えた。


「ふざけてなどいないさ! 最後に力をくれる不思議な魔法! それは……観客の応援や声援だ! みんなが見守ってくれているから、力があふれ出る! だからッ――固有魔法(・・・・)『喝采』!」


「なにを――」


 と言いかけた刹那、バドラクルスが耳に着けていたイヤリングが砕け、砂となった。次いで……どこからともなく声が聞こえてきて――。


『……がんばれ』

『負けるな』

『負けないで』

『勝って!』

『頑張って!』

『殺して!』

『最後まで諦めるな!』

『お前なら勝てる!』

『いけ! いけ!』

『勝利を見せてくれ!』

『頑張って! バドラクルス(・・・・・・)!』

決闘王(・・・)の意地を見せろ!』


 それは、周囲の人々の声だった。

 最初は一人二人だったのが、三人、四人と増えていき……最終的にその場の全員が、バドラクルスへ向けて声援を送っている。例外はなく、先ほどまでこちらを心配していた礼司や時雨さん。そして……七規までもがバドラクルスへ声援を送っていた。


「……」


「まったく、ひどい奴らだよなぁ。お前はみんなを助けたいと願い戦っているのに、敵である俺を応援するなんてさぁ」


 煽るような声を無視しながら、俺は思考を巡らせる。

 こんなことはあり得ない。

 俺に対する好印象悪印象関係なく、この現状で敵を応援することなどあり得ない。


(まるで洗脳されてるような……って、そういうことか!)


 ギリッと奥歯を噛みしめ、俺は踏み出す。

 狙うのはバドラクルス……ではなく、その後方。ビルの瓦礫に埋もれながら魔法を――洗脳魔法『ドミネーション』を行使している桃色の髪の女だ。


 この場からなら一秒もかからない。

 反応を許す間もなく、仕留めるッ!


 バドラクルスの横を駆け抜け、ヤトラを蹴り飛ばそうとして――。


「もう遅い。――『拍手』」


 ヤトラに蹴りが直撃する直前で、バドラクルスが手を叩く。

 同時に、周囲の人々も手を打ち鳴らした。


「くそッ!」


 ヤトラを蹴り飛ばして昏倒させ、振り返った俺の視界に映ったのは、力なく倒れる人々の中心で、静かに立ち尽くすバドラクルスの姿だった。姿かたちに変化はないというのに、対面しているだけで肌がピリピリするような圧を感じる。


 俺は即座に魔速型で接近すると『No.1アルファ』で殴りつける――が、バドラクルスは回避姿勢は見せずに、わずかに拳を引き絞ると、真正面から打ち返してきた。


(……あ、まずっ)


 俺は咄嗟に腕を引き『アイスエイジ』でガード。しかし――バドラクルスの拳は障子を破くかの如く氷の壁を打ち破ると、勢い変わらずに俺の顔面を打ち抜いた。


「……ッ゛ア゛!?」


 鋭い拳は、俺の左耳を消し飛ばす。

 あまりの速度に、身体が吹き飛ばされるどころか、まるで銃弾を受けたかのように被弾箇所が吹き飛んだのだ。


 激痛が脳を焼き、気持ち悪さが胃袋を収縮させる。


 動体視力でとらえきれなかった攻撃に、俺は何が起こったのかと確認しようと傷口を抑えようとして……それが悪手であったことに遅れて気づく。

 今は戦闘中で、俺とバドラクルスの距離は一メートルも空いていない。

 そんな中で見せた、あまりにも致命的な隙を、目の前の決闘王は見逃さなかった。


「終われ」


 凍てつくような声が響き、拳が振り下ろされる。

 ――瞬間、突風が吹き荒れた。


「私の(はじめ)にッ、何してるッ!!」


 突風は勢いそのままにバドラクルスへと斬りかかった。

 両手に双剣を握る彼女は、厚手のフードに身を包んでいる。

 しかし、安心感を覚えるその声の主を、俺が間違えることはあり得ない。


 一陣の風とともに現れたのは、俺のもふもふな同居人――フラウだった。


 フラウの攻撃を受け止めたバドラクルスは、即座に反撃しようとして……目を見開いて動きを止める。


「……妖狐族!? 何故こんなところに……」


「大切な人を守るためだッ!」


 吠えながら斬りかかるフラウ。

 しかし、二人の力量差は明らかで、天地がひっくり返ろうとフラウが勝つ可能性はない。彼女は確かに強いが、それでも俺や礼司には遠く及ばない程度だ。

 ゆえに俺は止めようと声を荒げようとして……。


 バドラクルスは警戒した様子で大きくバックステップを踏み、距離を取った(・・・・・・)。さらに目に見えて注意散漫になる。


「くそ、聞いてねぇぞ妖狐族とか……! お前は何だ! 魔王から別の命令を受けてここにいるのか?」


「何を言っているのかわからないな。私は、私の大切な人を守るためにここにいる」


「そういう意味じゃねぇよ。なんでこっちの世界にお前みたいな獣人がいるってことだ!」


「迷い込んだだけだ」


 その言葉にバドラクルスは逡巡し、鼻で笑う。


「……はっ、なら話は早い。俺が元の世界に連れてってやるから、こっちに着け。今ならさっきの邪魔もなかったことにしてやる」


 それはつまり、今ここでバドラクルス側に着けば、元の世界に帰れるということ。この世界で不安に喘ぎ、俺を襲ってまで自らの身の安全を確かめようとしたフラウからすれば、喉から手が出るほど魅力的な提案のはずだ。


「……それは、魅力的な提案だ」


「よかった。それならさっさと――」


「だが遠慮する。私のことは創にすべて任せると決めた。この世界のこととか、向こうの世界のこととか、戦争がどうなるのかとか、どうでもいい。私はただ――創を裏切る決断だけは絶対にしない」


 きっぱりと告げて、双剣を握りなおすフラウ。

 彼女は俺をちらりと見る。

 その瞳は『一緒に戦う』と、明確に告げていた。


 だから俺は――氷で傷口を止血して応える。


「……二人でぶっ飛ばすぞ」


「あぁ!」

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